バイトテロとコンビニ(2)

(茂木駅のSL「もうか号」、by T.M)

労働安全衛生法で規定する資格のひとつに「ガス溶接技能講習」があります。この資格は、地方労働局に登録した登録教習機関が実施する講習(実技を含む)を受講し、修了試験をクリアすれば与えられます。

その登録教習機関に地方の工業系の県立高校が登録されるケースが多く見受けられます。つまり、社会人となった後に「ガス溶接」の資格を取得しようとする場合は、お金を払って民間の試験機関(代表的なものとしては、「IHI技能研修所」とか「キャタピラー教習所」とか地方労働基準協会)で講習を受講しなければなりません。ところが、県立の工業高校では、学校が登録教習機関なので所定の単位を取得すれば、通常授業で資格取得ができるのです。

ところで、これは国家資格なので、講師要件には厳しい縛りがあります。県立高校の職員には、「法令」教育の講師資格を持つ者がいないので、その時間だけ外部講師を依頼することになります。

20年くらい前までは、現役の労働基準監督官が、その外部講師として高校に出張して講義をしていました(最近はないそうです)。私も何回か工業高校のガス技能講習の講師として行きましたが、最初の講義の時の衝撃は今でも忘れません。

生徒がまったく話を聞いてくれないのです。私語は当たり前、席をたつ者もいます。労働安全衛生法の概要など、彼らはまったく興味がなかったのです。「学級崩壊」ということが、現実なのだということを、その時に知りました。

私はなんとかしなければいけないと思いました。そして、同じ学校に翌年行くことが決まった時に、その学校の担当の教師にこう提案しました。「授業妨害のような行為があった場合は講義を止め、その場で退出します」 担当教師はしぶしぶ私の申し出を承諾しました。

そして講義の日、講義の冒頭で私は生徒に次のような宣言しました。

「これから労働安全衛生法の講義を行いますが、ひとつ断って置きます。私はこの学校の教師ではありません。この講義に出ることで、特別に何か手当てをもらっている訳ではありません。私の仕事は、君たちに何かを教えることでなく、労働災害をなくすことです。そのために、今日ここで話をするのです。私の講義中にうるさくしたものは、出て行ってもらいます。そのような者に危険作業であるガス溶接の資格を与えることはできません。また、その者が出ていかない場合、あるいは集団で騒ぐような者がいた場合は、この講義を打ち切ります。その場合は、ここにいる全員が不合格です。そのことは、この学校の教師にも伝えてあります。苦情はこの学校に申し立てて下さい。」

そして、私は、自分が行った災害調査の話をしました。スーパーマーケットの肉売り場で働いていた高校生のアルバイトの女性が、誤ってひき肉を製造するミートチョッパーに手が挟まり、手首から先が無くなったという事件です。私はその娘の母親から事情聴取しましたが、その時のことを生徒たちに話しました。

その後の講義については、私語ひとつなく生徒さんたちは熱心に聴いてくれました。

役所の合理性(2)

(飯生市あけぼの子供の森公園、by T.M)

驚きました。「毎月勤労統計調査」に続き「賃金構造統計調査」にも、不適切な調査があったということです。

統計調査員が事業場に出向き賃金台帳を書き写さなければいけないのに、郵送で調査していたことが問題だそうです。

私はこの報道に接した時にまず考えたことは、「郵送で調査することはいけないことだったの?」ということです。

「統計調査員が事業場に出向き賃金台帳を書き写さなければいけない」なんて、「物理的に不可能」だからです。

さらに、「統計調査員が実地調査する」というマニュアルがあると聞いて、さらにビックリです。それは私は見たことがありません。

私が覚えている賃金構造統計調査の話を本日は書きます。

私が賃金構造統計調査の仕事に関わっていたのは、監督署で一課長の仕事をしていた時のことです。一課長(現在は「監督課長」という名称です)は、比較的小さい署に配置されますが、署では署長の下のNo2の役です。庶務と監督係の担当です。当時、私の下には、労働基準監督官4名と庶務担当の事務官1名がいました。正直、その時まで「庶務」の仕事なんて、まったくしたことがありませんでした。また、「自分はこの署の監督官の事実上のトップだ。臨検監督の現場で起きたトラブルは、すべて自分の所で解決する。」という意識でいましたので、「監督官」の仕事の統括にウエイトを置き、「庶務」の仕事は、ベテランで優秀な事務官におまかせしていました。

私は、自分に与えらられた庶務の仕事は、「予算上の間違いのないように、数字の確認をすること。庶務の仕事で、対外的な問題(対上局、つまり対地方労働局)が発生した時は、頭を下げにいくか、場合によってはケンカをすること」だと思っていました。

賃金構造統計調査は、この庶務の仕事でした。労働局の賃金課と庶務が連絡を取り合い行われます。局からは、200~300の数の事業場の名称が入った名簿が届きます。さて、それからその事業場への通信調査なのですが、ここで私の記憶が曖昧なのですが、

  「各事業場に、調査一式の書類が封入された封筒を郵送する作業」

が、局が直接行っていたのか、又は署が私の決裁を得て送付していたのかは覚えていません。

また、統計調査員という方を一人雇用したのですが、この方の採用について、私は面接した記憶がないのですが、「署が採用したのか」「局が採用し、署に派遣したのか」はよく覚えていません。もっと言うと、この通信調査員さんが、私の部下であったのか、局の仕事をするために局から出張してきたかどうかも覚えていません。ただ、私の部下の庶務担当者が出退勤の管理をしていました。

各事業場に送付された封筒の中には、「○月○日までに、必要事項を記載し、××労働基準監督署までご返送下さい」と記載した文書と記載用紙、そして署への返信用封筒(切手付)が入っています。統計調査員さんの雇用期間は2ヶ月前後なのですが、その前半は事業場からの書類の書き方の問合せに答えることに終始します。また、返送されてきた書類のチェックをするのも統計調査員さんの仕事です。これらの仕事はけっこうな分量になります。

返送の指定期日を過ぎてからこそ、本格的な賃金構造統計調査の仕事となります。未提出事業場に、提出の電話督促をするのです。期日に間に合うように提出してくれる事業場は、全体の1/3くらいでした。統計調査員さんが、まず督促の連絡をするのです。ここで、よくトラブルが発生します。

「なんでそんなことするんだ」「時間がねーよ」「おまえら公務員は嫌いだ」

この時の統計調査員さんは主婦のパートの方だったのですが。あまりの相手の悪口雑言に泣き出しそうになっていました。統計調査員でおさまりがつかない時は、庶務担当が電話にでます。そこでダメなら私がでます。通常の監督の時と違い、あくまで下手にアタマを下げ続けます。

当然、直接事業場に出向きお願いすることもあります。その時には、私と庶務担当職員で事業場に行きました。統計調査員はパートですし、官用車の運転はさせられませんので戦力にはなりません。この時に庶務担当者に言われました。

「場合によっては、私と一課長で賃金台帳を写すケースもあります」

私は、承諾しましたが、「通信調査に応じてくれない事業場が、何時間も事業場内の場所をかり賃台帳を写すということを許してくれるのだろうか」と思いました。私が尋ねたいくつかの事業場で、ダメなところはダメでしたし、返送に協力してくれるところもありました。しかし、「自由に賃金台帳を写していってくれ」というところは皆無でした。

郵送調査がダメとというなら、次の点を改善してくれなければ、今後の調査はできません。

「調査時のトラブル回避のため、統計調査員を『社会保険労務士』等の専門知識のある者とし、それなりの報酬を支払いすること」

「統計調査員の数を大幅に増やすこと」

「統計調査員に官用車の使用を認めること」等

さて、これが私が関わった賃金構造統計調査のすべてです。私は自分が何か間違っていたことをしていたとは思いませんが、そうでないというなら、処分でも何でもうける覚悟はあります

ただ、次のことは分かって欲しいと思います。賃金構造統計調査について、現場の職員は手抜きの調査はしていません。私の友人に局の賃金課の職員もおりましたが、この賃金構造統計調査の時期になると、それこそ毎日深夜まで、サービス残業して頑張っていました。彼は、この統計調査が「最低賃金決定の資料になる」ということを十分理解し、間違いのないものをという心構えでしていました。そのような真面目な職員が、今後非難されるかもしれないことを私は危惧しています。