(小田原市松永記念館の紅葉、by T.M)
朝日新聞 7月7日
食品工場で働いていて病死した男性(54)をめぐり、タイムカードに加え、スマートフォンの地図アプリの移動履歴を参考に残業時間を計算し、労災が認定されていたことがわかった。代理人の大久保修一弁護士は「アプリの記録をもとにした認定はまだ少ないが、有益な資料となることが確認できた」と話す。
オット、これは良いニュースです。Googleアプリの履歴から「何時に、どこに居た」ことが証明できれば「長時間労働の労災認定」の時の労働時間の特定に有効でしょう。
また、「労働時間のごまかし」方法として、「タイムカードで退勤時刻を打刻したけど、退勤しないでそのまま残業を続ける」という事例が多くありますが、そんなごまかしもGoogleアプリを利用すればできなくなるでしょう。
(どうして、タイムカードでは退勤したことになっているのに、そんなに遅くまで会社に残っていたの?)
ただ、Googleアプリを過信してはいけません。このアプリを利用すれば、未払残業代を請求することが可能だという考えは間違いです。
第1 過労死の労災認定のための労働時間の特定に、労働基準監督署がこのアプリを利用する
第2 残業代の遡及支払いのための労働時間特定に、労働基準監督署がこのアプリを利用する
第3 残業代の遡及支払いのための労働時間特定に、裁判所がこのアプリを利用する
このうち第1と第3は似たような結論になることが多くなります。ただ、第2は違います。
労働基準監督署が労災認定のためでなく、労働基準法第37条(残業代不払い)の違反を是正勧告するということは、是正されない時は「刑事事件として、書類送検する」との意思表示でもあります。刑事事件は「疑わしきは罰せず」の大原則があります。ですから、少しでも疑いがあるなら、是正勧告することはできないのです。
別の側面からみると、「法違反」というものは「有る」か「無いか」の世界です。「残業代1万円不払い」でも「残業代10万円不払い」でも、罰条の「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」に変わりはありません。司法警察員にとっては「有罪」がとれればいいのであって、量刑はさほど気にしないので、「確実な法違反」を狙って、「残業代未払の範囲を狭く」とる傾向にあります。これは、警察がスピード違反の取り締まりで、取り締まる速度を低く見積るのと同じことです。
だから、監督署の「残業代の遡及是正」にGoogleアプリの活用を期待すると失望するかもしれません。裁判所で民事裁判をやれば、監督署の労災認定と一緒で、多少疑いがあっても、裁判官の権限でなんとでもなります。監督署の残業代不払いについては、あくまで刑事事件が前提です。