働き方改革について(14)

(大桟橋に停泊中の護衛艦いずも、by T.M)

「働き方改革」法案が参議院を通過しました。いよいよ施行です。しかし、何でワールドカップのポーランド戦に合わせて採決するのでしょうか。偶然でしょうか・・・

って、偶然のはずはありません。私もこの手を使ったことがあります。役所で情報漏洩がおきたとか、何かの書類を間違って廃棄したとかいう事件については、このような大きなイベントがある日を狙い、こっそりと役所のHPに掲載するのです。

興味のある方は6月28日、29日に更新された各行政機関のHPを見て下さい。どこかの役所で、やばい情報を掲載しているはずです。

映画「空飛ぶタイヤ」を観てきました。ストーリーは次のとおりです。

某大手自動車製造会社が、走行中のトラックの車軸からタイヤが外れるという欠陥商品を作くってしまい、その件についてリコール隠しをしていました。ある日、走行中のトラックから外れたタイヤが通行人と衝突し、死亡事故が発生しましたが、大手自動車製造会社はユーザーである運送会社等の「整備不良」ということで責任逃れを企みます。しかし、関係者の努力により真実が明らかとなるという、実話に基づく物語です。

この事件を捜査する刑事は、最初運送会社を目の敵にしますが、真実が明らかになるにつれ、運送会社の味方をするようになります。そして、大手自動車会社の役員を取り調べている時に、その会社役員は言います。「君にプライドはないのか。整備不良と言っていただろ。」

刑事は答えます。「プライド、そんなもの捨てた。おれは遺体を見ているんだ。」

そう、これが警察官や労働基準監督官の原点です。

もっとも、そのような感性を持ち合わせない、警察官や労働基準監督官、そして検事がいることもまた事実です。

 

 

働き方改革について(13)

(山下公園、by T.M)

映画「30年後の同窓会」を観てきました。しみじみとしたいい映画でした。

舞台は2003年のU.S.A。バーを経営するサルの元に、30年前に海兵隊員としてベトナムで戦った戦友のドクが尋ねてくる。ドクはサルに「イラク戦争で一人息子が戦死した。今から、ドーバー空軍基地まで遺体を引取りに行くので、一緒に行ってくれ」と依頼する。ドクとサルは、戦友のミューラーを尋ね3人で一緒に遺体を引取りに行く・・・

観ていて、なぜか50年前の映画「イージーライダー」を思い出しました。本作は元海兵隊員の物語、一方はヒッピーを描いた作品ですが、主人公たちが、「祖国・アメリカ」を考察するロードムービーとして共通するものがあるように感じました。

余談ですが、この映画の中に、ポーツマスの廃工場が撮影される場面がでてきますが、その工場の壁にポツンと「safty first(安全第一)」という看板が掲示されていて、労働安全衛生コンサルタントの私としては、ちょっと嬉しくなりました。

非正規雇用の無期転換申込権がいよいよ発生します。

https://www.mhlw.go.jp/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/2017/08_01.html

私が、現在注目しているのは、厚生労働省は自分のところで雇用する非正規労働者をどう処遇するかということです。労働契約法の適用がない国に雇用される非正規職員にはこの権利はないということですが、民間企業にそれをしろと言っている厚生労働省がどういう態様をするのかはひどく気になります。私の知る限り、地方労働局には該当する非正規職員は多数います。

また、全労連という共産党系の労働局内の多数派労働組合(地方労働局では組織率90%以上です)はどう動くのでしょうか。興味があります。

こういうことを、国会で論戦してくれないでしょうか。

働き方改革について(12)

(八ヶ岳と東沢橋、by T.M)

「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています」という映画を昨日観てきました。内容は、おちゃらけた題名と違い、夫婦間の人間関係をかなり真面目に描いて好感を持てました。ただ、気になる点が一点。主人公の妻が、都内のクリーニング店にパートタイマーとして勤めることになるのですが、そこの給与が「時給850円」の設定でした。現在、東京都内の最低賃金は「958円」ですので、100円以上差があります。もう少し、細部にこだわり作品を作ってもらいたいと思いました。

「働き方改革」関連法案ですが、話題になっている「高プロ」「残業の上限規制」以外に気になる箇所に気付きました。フレックスタイム制度の「清算期間」が「1ヶ月」から「3ヶ月」に延長されるそうです。「平成29年就労条件総合調査(厚生労働省)」によると、フレックスタイム制を導入している事業場数の割合は、全事業場の5.4%ですが、この法改正は、けっこう影響が大きいと思います。

「高プロ制度は残業代ゼロ法案」なんて野党は騒いでいますが、このフレックスタイム制の改正こそが、「残業代をゼロとする」ことが可能な法案なような気がします。

この法改正は、好意的に捉えれば「2ヶ月間一生懸命働いたら、残りの1ヶ月間は遊んでいられる」と考えることができます。しかし、否定的に捉えるなら「2ヶ月間一生懸命働いた残業代が、3ヶ月目に調整されてゼロとなる」という事態も想定できます。

こういう点も考えて、国会論戦を盛んに行ってもらいたいものです。

 

働き方改革について(11)

(丹沢のミツマタ、by T.M)

前回に続いて、働き方改革法案の話をします。

今回の法改正について、もっとマスコミの話題となって欲しいのは「時間外労働の上限規制」です。この規制は、ひと月の残業時間を最大で45時間以内、年間で360時間以内とすることを定めたもので、罰則規定付きです。現場の労働基準監督官の中には、次のように考える人もいるようです。

「月45時間、年360時間は現在の行政指導ベースでもそうなっている。特別条項なしの36協定は、それ以上の残業時間を記載してあっても、監督署の窓口では受理しない。36協定以上の残業をすれば、現在でも労働基準法第32条違反(罰則有)だから送検可能だ。だから、今回の法改正はあまり関係ないだろう」

私は今回の法改正は世の中にとても大きな影響を与えるものだと思います。「原則月45時間残業」を守らないなら犯罪行為だという意識が定着すれば、確かに世の中の姿が変わるような気がします。

気になるのは、今回の法改正で「通常予見できない業務量の増加等の場合は特例として、月100時間、年間720時間まで」残業できるという箇所があることです。これは今までの「特別条項」とどこが違うのでしょうか。法令にこの条文がある限り、今回の改正は単に「無制限だった特別条項の残業時間を月100時間・年間720時間とした」というように理解されても仕方ないような気がします。「月100時間の残業」は現在の、「過労死の認定基準」に該当する長時間労働です。

実は、私は国会で野党に突っ込んで欲しかったのは、この部分なのです。某野党は、この部分を除く法の対案を示したようですが、十分な問題提起はされていないように思えます。審議拒否と「高プロ問題」で多くの審議がなされないまま法律が成立してしまいそうで残念です。

 

働き方改革について(10)

(茅ヶ崎・大岡越前宅内の古民家、by T.M)

働き方改革の法案の国会審議もいよいよ大詰めです。私は、この法案の9割の部分については賛成します。「時間外労働の上限規制」「正規労働者と非正規労働者の同一労働・同一賃金」等については、多分反対する人はほとんどいないのではないでしょうか。反対するとしたら、「この法案では改革が遅すぎる。もっと厳しい規制をすべきだ」という立場からのものであり、争点は、「裁量労働制」が検討事項となった現在では、やはり「高度プロフェッショナル制度」だと思います。

提出された法の内容を検討すると、対象業種(省令で定めることが少し気になります)、労使協議会の決定、本人の同意、年収要件(年収約1100万弱以上)等の縛りをかけている以上、この法律が現行どおり正しく適用されるなら、何ら問題はないと思います。

また、高度プロフェッショナル制度導入によって、「自由な働き方ができる」ということについては、確かに恩恵を受ける人がいます。これは、要するに「仕事ができる人」にとっては有利な制度となる可能性がありますし、また、「自由な労働時間」という概念は、そもそも「密度の濃い労働」を労働者が選択するので、労働生産性向上にも役立つでしょう。

現行の「専門型裁量労働制」についても、うまく利用している人はいます。映画製作のプロデューサーや、アカデミックな研究を組織でなく、一人でする人にはいい制度です。

問題は、「自由に自分の労働が選べる人」なんてごくわずかだということです。組織の中に入ってしまうと、どうしても余計な仕事が増えます。先ほど、例に挙げた「プロデューサー」ですが、自由に動ける人なんて、日本では数人しかいなくて、大部分は関係者に頭を下げ、部下を叱咤激励することに神経をすり減らしているだろうし、「研究職」は実際はチームでやる仕事が多く、拘束されている時間が多いというのが実情でしょう。

高度プロフェッショナル制度導入について危惧されるのは、これは多くの人が指摘していることですが、「本来適用されることが目的とされない人」に適用されてしまうことです。仮定の話ですが、「年収要件の引下げ」と「対象業種の拡大」が為された時に、多くの労働者が労働条件の引下げとなります。

さて、心配しても「働き方改革」の法案はどうも国会を通過しそうです。「やってみなきゃ分からない」部分が多い法案だと私は思うので、「生産性を上げ、女性・高齢者が活躍し、子育てと介護がし易い社会をつくる」といった法案の本来の目的が達成できるように、限られた国会の審議の中で問題点を指摘し、それを浮き彫りにして欲しいものです。