トランスジェンダーについて

(天城山中にそびえる巨木太郎杉、by T.M)

TBSニュース 7/14

経済産業省に勤めるトランスジェンダーの職員が、職場があるフロアの女性用トイレの使用を制限されたのは違法だと国を訴えた裁判。最高裁は、さきほど言い渡した判決で二審判決を取り消し、職員側の訴えを認めた一審判決が確定しました。最高裁が性的マイノリティーの人たちの職場環境について判断を示したのは初めてです。

考えさせることの多い判決です。また、影響の大きい判決だと思います。どんなところに影響が大きいかといいますと、次のようなところです。

労働安全衛生法事務所衛生基準規則

第十七条  事業者は、次に定めるところにより便所を設けなければならない。

  一  男性用と女性用に区別すること。

第二十条  事業者は、夜間、労働者に睡眠を与える必要のあるとき、又は労働者が就業の途中に仮眠することのできる機会のあるときは、適当な睡眠又は仮眠の場所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。

第二十一条  事業者は、常時五十人以上又は常時女性三十人以上の労働者を使用するときは、労働者がが床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない

トランスジェンダーの職員が、労働安全衛生法事務所衛生基準規則第17条で明記されている「女性用トイレ」を使用できるということは、同規則第20条で明記されている「女性用仮眠施設」、同規則第21条で明記されている「女性用休養室及び休養所」を使用できるということになります。

もちろん、今回の判決は「ケースバイケース」に応じた事例であり、他の職場についてイコールとして見なすことは無理があると思います。しかし、ひとつ壁を超えたのは事実でしょう。

さて、「労働安全衛生法事務所衛生基準規則」なんては省令に過ぎないから、すぐに変更できるでしょうが、法令によって決まっている男女差はどう解釈されるのでしょうか。

労働基準法第六十四条の三女性労働基準規則第三条 使用者は、満十八歳以上の女性に20kg以上の重量物を取扱う継続労働に従事させてはならない(この条文は、原文を変えて分かり易く書き換えてあります)

この法令について、トランスジェンダーの方にはどのように適用させれば良いのでしょうか。気になります。

google 地図アプリ

(小田原市松永記念館の紅葉、by T.M)

朝日新聞 7月7日

食品工場で働いていて病死した男性(54)をめぐり、タイムカードに加え、スマートフォンの地図アプリの移動履歴を参考に残業時間を計算し、労災が認定されていたことがわかった。代理人の大久保修一弁護士は「アプリの記録をもとにした認定はまだ少ないが、有益な資料となることが確認できた」と話す。

オット、これは良いニュースです。Googleアプリの履歴から「何時に、どこに居た」ことが証明できれば「長時間労働の労災認定」の時の労働時間の特定に有効でしょう。

また、「労働時間のごまかし」方法として、「タイムカードで退勤時刻を打刻したけど、退勤しないでそのまま残業を続ける」という事例が多くありますが、そんなごまかしもGoogleアプリを利用すればできなくなるでしょう。

(どうして、タイムカードでは退勤したことになっているのに、そんなに遅くまで会社に残っていたの?)

ただ、Googleアプリを過信してはいけません。このアプリを利用すれば、未払残業代を請求することが可能だという考えは間違いです。

第1 過労死の労災認定のための労働時間の特定に、労働基準監督署がこのアプリを利用する

第2 残業代の遡及支払いのための労働時間特定に、労働基準監督署がこのアプリを利用する

第3 残業代の遡及支払いのための労働時間特定に、裁判所がこのアプリを利用する

このうち第1と第3は似たような結論になることが多くなります。ただ、第2は違います。

労働基準監督署が労災認定のためでなく、労働基準法第37条(残業代不払い)の違反を是正勧告するということは、是正されない時は「刑事事件として、書類送検する」との意思表示でもあります。刑事事件は「疑わしきは罰せず」の大原則があります。ですから、少しでも疑いがあるなら、是正勧告することはできないのです。

別の側面からみると、「法違反」というものは「有る」か「無いか」の世界です。「残業代1万円不払い」でも「残業代10万円不払い」でも、罰条の「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」に変わりはありません。司法警察員にとっては「有罪」がとれればいいのであって、量刑はさほど気にしないので、「確実な法違反」を狙って、「残業代未払の範囲を狭く」とる傾向にあります。これは、警察がスピード違反の取り締まりで、取り締まる速度を低く見積るのと同じことです。

だから、監督署の「残業代の遡及是正」にGoogleアプリの活用を期待すると失望するかもしれません。裁判所で民事裁判をやれば、監督署の労災認定と一緒で、多少疑いがあっても、裁判官の権限でなんとでもなります。監督署の残業代不払いについては、あくまで刑事事件が前提です。

マクロナルドの残業代(2)

文春記事によるマクドナルド社の話の続きです。福島県と栃木県でマクドナルドを8店舗運営するフランチャイジー「K」という会社のことです。

この会社は残業が多いとボーナスが減額されるそうです。上記の切り抜きは、社員に渡されたボーナスの支給基準書の一部だそうです。このボーナスの支払い方法がおかしいとして文春は問題としているのです。

ようするに、ボーナスの算定期間中に「ひと月平均20~25時間残業するとボーナスが月給の0.1ケ月分減額」「25~30時間残業で0.2ケ月分減額」「30時間以上残業で0.3ケ月分減額」だそうです。

残業代の主旨からするとおかしな話に思えるのですが、労働基準法違反かと言われると、けっこう難しいところがあります。なぜなら「ボーナス減額」ではなくて「時短奨励金の支払い」であると思うと合法なような気がするからです。上記の支給基準の表現方法を次のような変えてみます。

「30時間以上残業で通常支給」

「25~30時間残業でプラス0.1ケ月分」

「20~25時間残業でプラス0.2ケ月分」

「それ以下の残業時間でプラス0.3ケ月分」

これなら違法状態ではないと思います。

実際、このような評価をしている企業も多いと思います。私のいた労働局自体がこのような人事評価をしていました。職員一人一人が、「自分は残業時間をひと月〇時間以内にします」と目標設定するのです。それがクリアできれば高人事評価です(当然、ボーナスにも影響します)。役所がこんな人事評価をしているのですから、民間企業が上記のようなボーナスの算定基準をしていることは仕方ないのかもしれません。

そうは言っても、ここまで露骨に「残業をしたらボーナス減額」という制度を採用している事業場はやはりないのではないかと思われますが、タクシー会社の賃金体系なんてもっと露骨なところがあります。

以前にこのブログに記載したこともありますが、タクシー会社の賃金体系は、労働時間に関係のないオール歩合制です。タクシー業界には政党をバックにした2大労働組合がありますが、労働組合もこのような賃金体系を容認しています。すると、毎月の賃金の「残業代の取扱い」について、労働基準法違反がでてきてしまうもので、賃金台帳には毎月残業代が支払われているように記載して、ボーナスで調整してオール歩合給に直してやっているのです。ですから、タクシー会社のボーナスは年4回くらい支給されているところが多いです。

さて、話を文集記事に戻します。この記事に頭を悩ませているのは、多分所轄労働基準監督署でしょう。「労働基準法違反」となるか、局をとおして本省と協議をしているのではないでしょうか。早期に結論がでることを祈ります。

マクドナルドの残業代

(身延山からの富士山、by T.M)

用があって、アイルランドまで行ってきました。1週間ほどだったのですが、コロナのリベンジ旅行という感じでけっこう面白かったです。

今回の旅で気付いたことは、ヨーロッパではヤフーニュースが見れないということ。4年前にハンガリーに行った時は見れたのに、タブレットを持参して日本のニュースを毎日チェックする予定が、目的は十分にはたせませんでした。別に、グーグルニュースの検索でも良かったのですが、30年以上昔からヤフーニュースを見ている高齢者にとっては、やはりそれは慣れていて使い勝手が良いものです。

ということで1週間ほど、日本のニュースから離れていたところ、昨日なんとこんな文春ニュースを見つけてしまいました。

6/23 文春オンライン

〈資料入手〉「残業するとボーナスがカットされる」マクドナルド元店長が告発する“過酷な労働環境” 元勤務先は未払い残業代支払いを拒否

 福島県にある「マクドナルド」の店舗で店長などを務めていた元従業員が、元勤務先である日本マクドナルドのフランチャイジー(加盟店)に対し、未払い残業代の支払いなどを請求したものの、拒絶されていたことが「 週刊文春 」の取材でわかった。

 世界最大のハンバーガーチェーンであるマクドナルド。現在、100以上の国と地域で4万を超える店舗を構える。日本では全国に約2960店舗を展開し、その7割以上がフランチャイズチェーン(FC)だ。

 そんなマクドナルドを巡っては、茨城県にある友部店(笠間市)で店長が従業員38人の勤務時間を不正に減らし、自分の妻の勤務時間だけを増やす“勤怠記録の改ざん”に手を染めていた問題を「週刊文春 電子版」が 6月7日配信の記事 で報じた。

 すると、記事の配信後、マクドナルドの元従業員Aさんから編集部に連絡があった。Aさんは「私も自分の勤務時間の改ざんをしていました」と告白した上で、元勤務先に対して「未払い残業代を請求したが支払いを拒否された」と明かしたのだった。

 Aさんが昨年まで社員として勤務していたのは、福島県と栃木県でマクドナルドを8店舗運営するフランチャイジー「キノシタ」。「残業をすると怒られるという文化」(Aさん)である同社で、仕事は多忙を極めたという・・・

私が日本を離れている時に、文春さんは「広末不倫騒動」だけでなく、こんな硬派な、そして私のブログネタに最適な話題を提供してくれていました。

この記事だけでは分かりにくいので、少し説明をいれます。文春の取り上げた事件は2部構成です。まず最初は6月7日の配信記事で、「茨城県の友部店舗」で時間外労働の改ざんが行われていて、残業代の遡及支払いが行われたというものです。

(注)この店舗はフランチャイズ経営のもので、日本マクドナルド株式会社が指導すべきものだといっても、経営主体は日本マクドナルド株式会社(以後、「マクドナルド社」と呼ぶ)とは別のものです。

文春記事には書かれていませんでしたが、元労働基準監督官の私の経験から申し上げると99%の確率で、この「残業代の遡及支払い」は労働基準監督署から是正勧告を受けて、フランチャイズ会社が行ったと思われます。この是正措置についてはマクドナルド社の指導がフランチャイズ店には行われていると推測されます。

興味深いのは、この茨城県の友部店の記事をうけ、「自分もマクドナルドの別のフランチャイズ会社で勤務時間の改ざんに手を染めていた」という情報提供が文春はあったことです。文春はそちらの取材もすすめていて、そちらの第一報が前述の記事です。どうも事件としては、労使関係が複雑でそちらの方が大事件となりそうです(多分、テレビのワイドショーネタになると思います)。

このブログでは、今後継続的にこの事件の話題を取り上げてみたいと思います。

熱中症と公務員

(川崎マリエンのイルミネーション、by T.M)

日テレニュース 5/30

政府は、2030年を目標に、熱中症による死亡者数を半減することを目指す計画を閣議決定しました。

熱中症への警戒を呼び掛ける「熱中症警戒アラート」は、令和2年(2020年)からは関東甲信地方で、2021年からは全国で運用されています。しかし、これまでのところその効果は見えていません。

熱中症による死者数の直近5年間の平均は1295人。これは、その前の5年間の平均766人と比べおよそ1.7倍。熱中症警戒アラート導入後も、熱中症による死者数は増え続けているのです。

コロナ前のことなんですが、某地方労働局で「熱中症フォーラム」というイベントがありまして、そこにパネラーとして参加しました。とは言っても、私は単に元労働基準監督官で労働安全衛生コンサルタントなだけですから、熱中症の労働災害の説明だけをして、後は他のパネラーの話を聞いていました。他のパネラーは、某労働局管内で熱中症対策に熱心に取組む事業場、産業医の先生、そして大塚製薬の方(ここだけ実名を出します)でした。たくさんのミニ知識を仕入れてきました。

「大塚製薬では熱中症対策に2種類のドリンクを出している(当時の話です)。オーエスワンとポカリスエットである。飲み方を間違えないで欲しい。熱中予防のために、休憩時間に飲むのはポカリスエット。熱中症の症状が出た時に飲むのはオーエスワン」

「熱中症の症状が出た人には、封を切らないペットボトルを与えて欲しい。自力でキャップを開けて中の飲料を飲めればそのままにしておいて良い。キャップが開けられなければ、意識が朦朧としていることだから、すぐに救急車を呼んで欲しい」

「熱中症予防には『アネゴ』が肝心である。つまり『アルコール、寝不足、ごはんをきちんと食べたか』である」

さて、熱中症対策には各企業様々な対策をしていますが、その主なものは「休憩」と「給水」でしょう。「給水」については、建設現場や工場を中心にスポーツドリンクを作業員に提供するところが増えています。もちろん無料です。ところが、絶対に職員に「スポーツドリンクを無料に提供しない」職場があります。それは公務員の職場です。

公務員といっても、皆が机の前で働いている訳ではありません。公園で草刈りをしている方もいれば、ゴミ処理場の現場で働いている人もいます。60歳を過ぎてから非常勤の公務員となった高齢者の方も多くいます。

確かに、公務員の方が税金で無料にスポーツドリンクを飲んでいるとなると非難される方もいると思います。しかし、熱中症は滅多に発生しませんが、一度発生すると、他の労災の6倍の割合で死亡災害に至ります。ここは、「民間準拠」として、現場で働く公務員の方に無料でスポーツドリンクを配布して欲しいと思います。