それ労災です!

(相模川沿いのヒマワリ畑、by T.M)

香川照之氏の事件のことを書きます。事件の詳細はワイドショー等で報道されているので割愛します。

ブログネタにしようと、週刊新潮の今週号を読んでみたのですが腑に落ちない点があります。

この事件は労災事件なんです。その視点が抜けています。

コンビニで客が店員に暴力をふるった。鉄道駅で、乗客が駅員に暴力をふるった

これらと、事件の構造は一緒です。

香川氏の事件で、被災労働者はPTSDを発症しているようですが、まだ療養中でしょうか。医療費はどのように負担しているのでしょうか?国民健康保険等を利用しているとならば、それは労災保険に切り替える必要があります。

労災ですから、使用者が100%療養費用を支払わなければなりません。国民健康保険等を利用しているのであれば、その保険制度は事件に関係のない多くの人たちの負担により成り立っているのですから、利用されることは筋が違います。

被災者の方については、一日でも早く労災請求することをお薦めします。労災として認められれば、2年間を遡及して休業補償等が受給可能ですので、被災者の方の利益になると思います。

労災の請求があれば、労働基準監督署では、「事実関係」及び「疾病との因果関係」を調査します。香川氏のセクハラ行為については、本人が認めているので問題ないと思います。後はPTSDとの因果関係を認定すれば良いのです。

また、これは労災の「第三者行為災害」に該当しますので、労災認定後には、労働基準監督署から香川氏に「費用請求」が行われます。

事件の発生した銀座のクラブは、労働基準監督署に労働者死傷病報告書を提出しているのでしょうか。その書類が提出されていなければ「労災隠し」ということになり、重大な法違反として、労働基準監督署が労働安全衛生法違反として書類送検する場合もあります。

週刊誌等の報道する方にお願いしたいと思います。この事件のように明らかな労災事案については、「被災者の救済」及び「使用者の安全配慮義務」について、より追及してもらいたいと思います。

よくやりました

( 北伊豆地震断層の動き・火雷神社、by T.M)

朝日新聞 8月22日

スナック菓子「うまい棒」を製造する茨城県常総市の菓子メーカー「リスカ」で違法な長時間労働があったとして、常総労働基準監督署は22日、法人としての同社と、武藤秀二社長を労働基準法違反の疑いで書類送検し、発表した。

 発表によると、同社は2021年1~11月、同市内にある石下工場の従業員9人に対し、時間外労働に関する労使協定(36協定)で定められた上限を超えて働かせた疑いがある。1カ月あたりの時間外労働が100時間を上回ったり、複数月の平均で80時間を超過したりし、最長で月に約120時間に及ぶ例があったという。

 リスカのホームページによると、同社は1971年創業。うまい棒などの菓子を製造している。

 同社総務部の担当者は「従業員が集まらないことなどが背景になって、数年前から長時間の時間外労働が指摘されていた。書類送検されたことについては、反省すべき点が多い。会社を挙げて再発防止に取り組む」と話した。

偉いぞ、常総労働基準監督署。労働基準法第32条(過重労働)での送検は珍しい。しかも、「11ケ月の期間の9人の労働者の時間外労働」を捜査したことは素晴らしい。

厚生労働省のHPに、過去1年間の労働基準法・労働安全衛生法の送検実績が企業名入りで公表されていますがが、労基法32条違反は珍しく、あっても

  1 36協定(時間外労働協定)が締結されていないのに、残業させた

  2 1ケ月の期間について、1人の労働者に過重労働をさせた

という内容が多いものです。これは、残業時間の特定という捜査が難しく、複数の人間の長期間の過重労働の法違反を特定することは、膨大な業務量を要するからです。

私は、「いくつもの法違反の中から、特に悪質な法違反を抜き出して送検する」といった捜査手法を否定はしません。一見手抜きに思えるかもしれないが、「被疑者を刑事罰に処す」「送検事実を世に知らしめる」ことで、行政の目的は達したと思えるからです。「特定しなかった法違反」については、「情状としての事実」として捜査報告書に記載すれば良いのです。「ひとつの法違反の特定」と「多くの類似の法違反の特定」で、労働基準法違反の量刑がかわることはありません。

そのような行政機関の慣例を無視して、今回は敢えて多くの犯罪事実を特定し送検したことについて、私は捜査担当官の深い怒りを感じます。

ヤフコメを読んでいると、「こんなことで送検されるのか」という疑問の声があがっていました。御安心下さい。労働基準監督署は、1回の法違反の特定で長時間労働の送検はしません。ポイントは新聞記事のこの部分です。

「数年前から長時間の時間外労働が指摘されていた。反省すべき点が多い。会社を挙げて再発防止に取り組む」

要するに、過去何回も法違反を指摘されてきたのでしょう。多分、管内の有名企業ですから、何とか法違反を是正してもらいたいという気持ちも所轄労働基準監督署にあったと思います。そんな気持ちを無視されたので、残念だという気持ちもあったのではないかと想像します。

どうしても、長時間労働が発生してしまうという事業場の経営者に一言申し上げます。労働局に相談に行って下さい。長時間労働をなんとかしたいという気持ちがあれば、多分親切に相談に乗ってくれるはずです。(・・・、アホでおかしい相談員も、たまにいます)

固定残業代

( 奥武蔵からの上州の山並み、by T.M)

Abema Times 8/13

「連れの男性より明らかに少なかった。なぜ一言減らすか聞けない?」。定食屋の対応をめぐり、ネット上で議論となっている。

 男性と一緒に行列のできる定食屋を訪れたという女性。ところが、出された定食のご飯の量が男性より少なく盛られていたため、女性はショックを受けたという。

 アンケート調査では、「食事を残すことがある人」は女性に多く、中でも20代の女性の場合、50%以上にのぼっている。

 しかし、ネット上では「女性は食べられないって決めつけ、それこそ昨今やめろって言われてることだよ」「ご飯少なめにしますかの一言も無く勝手に分量減らされるの、別に盛られたご飯じゃ足りない訳では無くてもすごくもやもやする」などの声が上がっている。

 一方、同業の定食屋は「そのお店の方は、お店の方なりの気遣いをされたんじゃないかと思いますけれども。当店では、特にお客様から『少なくして下さい』と言われない限りはどのお客様に対しても、同じ量でお出ししています」と話していた。

ごめんなさい。なんか、笑ってしまう記事でした。女性は差別されたと言っているけど、「女性、男性の差」ではなく、「食べられそうな人と、食べられなさそうな人」を外見で判断して、「食べそうな人にサービスしている」ということかもしれません。それなら問題ないのではないでしょうか。

でも、見方を変えるって大事ですよね。

日経新聞の報道によると、サイバーエージェントという会社が、新入社員に対し、「初任給42万円」を支払うことにしたそうです。非常に高額な給与というニュアンスでしたが、実は「残業時間80時間、深夜労働46時間分の固定残業代を含む」ということでした。

計算してみると、ひと月の所定労働時間を173時間とするなら、「給与42万円の内訳」は、次のようなものになります。

「基本給250850円、25%割増の残業代108750円(60時間までの残業代)、50%割増の残業代43500円(60時間から80時間まで)、深夜労働手当16675円」

初任給の全国平均は21~22万円ですから、サイバーエージェントの「基本給25万円」は、そう高くはありません。そして残業代プラス深夜労働手当17万円に相当する、ひと月80時間の残業時間を新入社員に押し付けることは、無理があるような気がします。

もちろんサイバーエージェント側としては、「長時間労働をさせるつもりはない。念のために残業代を多めに支払っている」と主張するでしょう。でも、実情は知りませんが、ブラック企業の多くが似たような答弁をしていた記憶があります。

労働基準法で規定する「特別な事情がない限り残業時間の上限は45時間」をベースとして、せめて次のような給与を支払ったらどうでしょうか。

「基本給316590円、45時間分の残業代102938円、深夜労働なし(所定労働時間173時間/月)」

「固定残業代」という制度に反感を覚えますが、残業代なしで初任給32万円なら少し納得できます。

役人の権限

 (土肥桜とメジロ、by T.M)

8/7 スポーツ報知(長いけど、全文引用します)

元大阪府知事の橋下徹氏が7日、コメンテーターを務めるフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」(日曜・午前7時半)に生出演した。

 番組では、前川喜平元文部科学事務次官が5日に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を巡る野党合同ヒアリングに出席し、2015年、統一教会が世界平和統一家庭連合へ名称を変更した経緯を証言したことを報じた。

 スタジオでは1997年に旧統一教会が名称変更を当時、宗務課長だった前川氏に相談したが、霊感商法など社会的に問題があることから名称変更の「申請を出さないで欲しい」と教団に伝えたことを報じた。この方針は18年間、踏襲されたが教団から15年6月に改称の申請があり、文科省の外局の文化庁は同年7月に受理し、同8月26日に認証を決定した。

 この経緯を受け橋下氏は「今、前川さんが正義の味方みたいになっていますけど僕からすれば前川さんが違法です」と指摘した。

 その理由を「今、統一教会が完全にトラブル団体なので前川氏が言っているように名称変更を認めてしまえばさらに被害が広がるから名称変更を認めなかった、結果オーライとして何となく結論が正しいように見えるんですが」とし「僕も統一教会に対しては寄付金の上限規制とか刑事罰をもっと厳格に適用することは必要だと思うんですが、法治国家なんでしっかりルールに基づいて判断しなきゃいけない役所は」と指摘した。

 その上で高度経済成長時代に「民間企業が悩まされたのが官僚がものすごい裁量を持って勝手に許可とか認可とかよくわからないまま不認可にしたり、もっといえばこの前川さんがやった手法、申請書を受け取らないっていう。ズルズル引き延ばしていく。こういうことが横行したので、これはもう法治国家じゃないだろうということで1993年に行政手続法というのが定められたんです。これは認可する際、基準をはっきりさせましょう、官僚に自由裁量与えない、それから申請書の受け取り拒否もダメ。受け取った上で期限を決めた上で結論をちゃんと出しなさい」と解説した。

 さらに宗教法人法に「社会に害悪があるからとか名称変更を拒絶してもいいなんて一切、ルール上書いていません」とし「名称変更の問題とトラブルの問題は分けて考えてトラブルについてはきちっと対処しないといけないけど、名称変更については前川さんの胸先三寸、判断だけで勝手に拒否しちゃいけないんです」と指摘した。

 宗教法人法14条4項には「所轄庁は認証申請の受理から3か月以内に認証の決定通知をしなければならない」と定められていることから「これをやってこなかった前川さんの方が違法だし、ずっと名称変更を認めてこなかった文科省の方が違法で。今回は申請を受理して要件整っているから3か月ちょっと超えてたのかな?それぐらいに名称変更を認めた方がこっちの方が本来、正しい」などとコメントした。さらに「統一教会の問題をちょっと横に置いておいて前川さんのような法律のルールを無視した形で自分が正義になったつもりで判断をする。これは法治国家のあり方として大問題です」と指摘していた。

私は橋本氏の意見に100%賛成します。と言うか、この件について、ブログで情報を発信しようと思っていたのですが、橋本氏が先に言ってくれて助かりました。私では、こんなにうまく説明できません。

この記事に付け加えるなら、当時前川氏がそこまで、この教団の悪質性を見抜いていたのなら、申請を受理して「不許可」とすべきでした。一回「不許可」になってしまえば、2度とは申請できません。前川氏が、その時にそのような措置を取っていなかったから、数年後にこの問題が蒸し返されることになったのです。前川氏の言動は、それが分かった上でのことのような気がします。

それとも、前川氏は、「申請されたら、法律上許可されてしまうから、私の一存で申請を停めた」と言いたいのでしょうか。役人がそのようなことを考えたなれば、それこそ大問題です。

前川氏は公務員として、とても偉かった方です。私のような労働の現場しかしらない者からすれば雲の上の人です。でも、木っ端役人でも許認可権はあります。もし、労働基準監督署の職員が、労災申請について、自分の判断で「申請するな」と事業場や労働者から、どれだけ非難を受けるでしょうか。

前川氏は、現場で苦労している文科省職員のためにも、よく考えて発言すべきだと思ういます。

休憩時間の問題

(航空機のアラウンドビューモニター、by T.M)

埼玉新聞 7月30日

埼玉県立がんセンターで働いていた看護師の女性が、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないとして、県立病院機構に対し、未払い賃金の支払いを求めた訴訟の判決が29日、さいたま地裁で開かれ、市川多美子裁判長は、被告に未払い賃金の一部、約44万円などの支払いを命じた。

 原告女性は、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないとして、始業前や残業に関する未払い賃金などを求め、約372万円などを請求。

 病院側は、時間外労働の義務は命令によって発生し、時間外勤務手当も命ぜられた職員に対し支給されると主張。原告に対しては命令した事実はないとしていた。

 判決理由で市川裁判長は、システム上、原告がパソコンを使用すれば「始業前の業務を行っていることを知ることができた」と指摘。その上で、始業前業務を禁じたりする形跡はないことから、「黙示の指揮命令の下で行われたものと評価するのが相当」とした。

 一方で「病院側の明示などに基づいて終業時刻後に労務を提供したと認める証拠がない」などと、終業後の未払い賃金については認めなかった。

この判決について残念なのは、労働基準監督署が絡んでいないこと。埼玉労働局は何をやっていたのでしょうか・・・

>>システム上、原告がパソコンを使用すれば「始業前の業務を行っていることを知ることができた」と指摘。その上で、始業前業務を禁じたりする形跡はないことから、「黙示の指揮命令の下で行われたものと評価するのが相当」とした。

極めて当たり前のことだと思います。ようするに、「見て見ぬふりをするなよ」ということです。部下が所定時間前に来て残業しないと、仕事が回らないことを管理職は分かっていたはずです。

終業時刻後の残業を認めなかったのは、シフト勤務が行われているために、「帰宅しようと思えば定時に帰宅可能であった」という可能性も否定できないからだと思います。

いずれにせよ、妥当な判決であると思います。

さて、「病院及び社会福祉施設」の残業についてですが、個人的には「休憩時間の取得方法」にも、かなり問題があるように思えます。

働いている人は気付いていない方が多いのですが、「休憩時間」について法違反が発生していることがあります。例えば、病院等の夜勤について、「仮眠してもかまわないけど、緊急の呼出しに対応できるように、休憩室にいて下さい」という当該時間について、「賃金を支払う必要のない休憩時間」だと勘違いしているのです。このような時間は、「待機時間」であって、立派な「労働時間」です。休憩時間とは、「労働者が自由利用できる時間」でなくてはなりません。

私が現役の監督官であった時に、病院及び社会福祉施設の休憩時間について、けっこう問題が多かったような気がします。残業時間が厳しく問われる昨今において、休憩時間の在り方についても、今後問題提起がされるような気がします。