給与のデジタル払いについて

(秩父高原の牧草地と山並み、by T.M)

FNNプライムオンライン(9/21)

私がお伝えしたいのは「給料のデジタル払い」です。

厚生労働省の審議会は、給料を「○○ペイ」などの電子マネーで支払う「デジタル給与払い」の案をまとめ、来年度以降の実施が見込まれます。

しかし、安全性や補償などをめぐり課題もあげられています。

ポイントはこちら。「給料のデジタル払いあなたは利用する?」注目です。

現在の労働基準法では、賃金について「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」となっています。賃金は「現金」で「直接」払うのが原則で、一般に行われている銀行振込などへの振込は、「例外」として認められています。

この「例外」に「デジタル払い」が加わることになりますが、厚労省の審議会では、利便性が高まる半面、資金移動業者(アプリ事業者)の健全性、安全性に不安の声も上がっていました。

厚労省は資金移動業者(アプリの事業者)からの「デジタル給与払い」は、労働者の同意が前提とし、口座残高の上限は100万円、超えた場合は指定する銀行口座などに振り込まれます。

1円から取引でき、少なくとも月1回、手数料0円で現金自動受払機(ATM)等から利用できるようにします。また、アプリの事業者が経営破綻したり、不正アクセスで損害が出た場合はアプリなどの事業者が全額補償するとしています。

今年度内に省令が改正され、来年度にも解禁が見込まれます。

なぜ給与のデジタル払いが推進されているのか? キャッシュレス社会に対応するためとか、銀行口座を持たない外国人労働者のためとかいう高邁な理由があるようです。また、「予測されるデメリット」としては、「アプリ事業者の健全性」とかが挙げられていますが、庶民とは関係のないところでの議論のような気がします。

なぜ、今までは「通貨」による支払いしか認めてられていなかったのでしょうか?それは、企業の「現物払い」を諫めるためでした。昔は農家等で、自分のところで取れた「野菜」を渡し、賃金の代わりとしていたところもありました。

労使共々、この「現物払い制度」を悪用しているところもありました。旦那さんの「扶養」となっている専業主婦が、扶養から外れてしまう年収となった時に、「デパートの商品券」が支払われていたのです。うまい手だと、当時は思った覚えがあります。

やっぱ、私の体験から予測すると、このデジタル払いが悪用されるのは、「残業隠し」ではないでしょうか。36協定以内の時間外労働については、残業代は「通貨・銀行振込」として、それ以上の残業代についてはプリペイドカードで支払うのです。

何か、こういう法改正があると、前向きなことより、労使関係の現場でどのように悪用されるか、まっさきに考えてしまいます。

歩きスマホをする従業員を解雇する方法について

(源頼朝と北条政子の像・伊豆蛭ヶ島、by T.M)

実業家の「ひろゆき」こと西村博之氏(45)が10日、自身のツイッターを更新。「ゲームしないで歩くだけとか、人生の時間の無駄遣いだと思います」とツイートし“歩きスマホ肯定論”を展開した。

 (中略)

 これに、ひろゆき氏は「ウエストポーチって、両手空くから歩きながらゲームも出来るし便利やん。21世紀にもなって、手でカバン持つのとか効率悪くない?」と反応。また、スマホを操作しながら歩いていたことについては「ゲームしないで歩くだけとか、人生の時間の無駄遣いだと思います」と、持論を展開した。

んー、困るんですよね。ヒロユキさんのような影響力がある人がこんなことを言われては・・・。

私が安全診断を行った事業場では、歩きスマホによる転倒で休業1ケ月の労災事故が発生したそうです。そこで、どうしたら職場内での歩きスマホを失くせるか相談を受けたのですが、私は「どうしても言うことを聞かない従業員は、最終的には解雇を仄めかし脅してみたらいかがでしょうか」と答えました。少し極論ですが、効果があるかもしれません。

そこで、今日は「歩きスマホをする従業員の解雇方法」について説明します。

歩きスマホを理由として従業員を解雇するためには、まず前提として次の3つを行わなければなりません。

第一、「就業規則の整備」 歩きスマホは懲戒事由に該当することを就業規則に明示しなければなりません。また、処分内容を「厳重注意」「訓告」「減給」「出勤停止」「解雇」というように定めておかなければなりません。

第二、「従業員の教育」 歩きスマホがどれだけ危険であるか従業員に事前に教育し、職場内での歩きスマホについては懲戒処分の対象になることを周知させなければなりません。

第三、「懲罰委員会の設置」 懲戒処分の対象になるかどうか、どの程度の処分が適当であるのかを判断する懲罰委員会を事前に設置しておかなければなりません。この委員会には、過半数労働組合がある場合は組合から推薦された者、過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者から推薦された者をメンバーとしなければなりません。また、弁護士等の社外の者をメンバーとしていればよりベターです。

さて以上の用意ができたら、次にいよいよ歩きスマホの取締りをします。歩きスマホをしているものがいたら、まずは「厳重注意(口頭注意)」です。2回目は「訓告処分」として反省文を書かせます。それでも歩きスマホを続けるようでしたら「減給」「出勤停止」というように処分内容をエスカレートさせます。そして最後の段階では「解雇」ということになります。

もちろん、このような処分については懲罰委員会で十分に討議し、特定な労働者を狙い撃ちしたような運用が絶対にないようにしなければなりません。

たかが、「歩きスマホ」といえども、従業員の安全に関することであるなら、事業主はここまでする必要があります。ひろゆき氏の考えは、少なくとも職場においては論外でしょう。

再発防止対策

( 秩父高原のヤギ、by T.M)

読売新聞 9月10日

さいたま市の認可保育施設で2019年11月と昨年12月、園児が夕方に送迎バスに取り残される事故が起きていたことが9日、わかった。いずれも座席で寝ていた園児を同乗の施設職員らが見逃していた。園児に健康被害はなく、施設側がそれぞれの保護者に謝罪した。

市によると、取り残されたのはいずれも同じ認可保育施設の3歳児クラスに通う園児各1人。19年の事例では午後5時30分頃、園児と職員を乗せたバスが市内の降車場所で園児たちを降ろして施設に戻った際、園児が車内にいるのに気づかずに職員がドアを閉めていた。

約20分後に車内からバスの窓をたたいている園児を他の園児の保護者が見つけ、無事だった。乗降時に園児を確認する決まりだったが、守られていなかった。

昨年12月のケースでは、午後4時過ぎにバスが園児と職員を降車場所に降ろして施設に戻った際、車内を点検していた運転手が座席で寝ている園児を見つけた。降車時に職員が園児を確認するルールだったが、怠っていたとみられる。

その後、施設側は市の指導で送迎時のマニュアルを作り直すなどしたという。

静岡県牧之原市の認定こども園で3歳女児が通園バスの車内に取り残されて死亡した事件を受け、さいたま市は送迎バスを使う保育施設などを対象に、送迎時のマニュアルの有無などを確認する調査を行っている。送迎バスの安全対策について、市の担当者は「調査結果をみて今後の対応を検討したい」と話している。

労働安全の分野に「ハインリッヒの法則」という有名な法則があります。「ある災害要因で重大事故1件が発生する時には、同じ災害要因で30件の軽傷災害が発生していて、さらには300件のヒヤリハット災害が発生している」というものです。

ハインリッヒという方は、今から約100年前のUSAの保険屋さんで、保険料の収支を計算していたら、この法則を発見したということです。

静岡県牧之原市の認定こども園での事故が発生する前には、何件もの同様なヒヤリハット災害が発生しているのではないかと予想していましたが、冒頭の記事を読んで、やはりそうだったのかと思いました。

このような災害をなくすためには、労働災害防止の手法を使ってみたらいかがでしょうか。(というか、全ての災害に通じる手法といえますが)

労働災害防止の手法の根底には、「人間のやる事を信じるな」という考え方があります。ようするに、「人は不注意なもの」「人は不安全行動をとるもの」だから、「人の注意に依存する対策(管理的対策)」は最後の手段だとういうことです。

ワイドショー等を見ていると、当該こども園の園長を感情的に非難する声が多いようです。もちろん、これだけ痛ましい事故を起こしたのですから、社会的に糾弾されることは当然だと思います。

しかし、再発防止措置を考える時は、今回の事故の裏では何件もの大事故に結び付く可能性があるヒヤリハット災害が発生しているものとして、「機械を利用した対策(工学的対策)」を考慮する必要があります。

儲けのために、時季外れなのに出航した知床遊覧船の事故とは、そこが違うと思います。

それ労災です!

(相模川沿いのヒマワリ畑、by T.M)

香川照之氏の事件のことを書きます。事件の詳細はワイドショー等で報道されているので割愛します。

ブログネタにしようと、週刊新潮の今週号を読んでみたのですが腑に落ちない点があります。

この事件は労災事件なんです。その視点が抜けています。

コンビニで客が店員に暴力をふるった。鉄道駅で、乗客が駅員に暴力をふるった

これらと、事件の構造は一緒です。

香川氏の事件で、被災労働者はPTSDを発症しているようですが、まだ療養中でしょうか。医療費はどのように負担しているのでしょうか?国民健康保険等を利用しているとならば、それは労災保険に切り替える必要があります。

労災ですから、使用者が100%療養費用を支払わなければなりません。国民健康保険等を利用しているのであれば、その保険制度は事件に関係のない多くの人たちの負担により成り立っているのですから、利用されることは筋が違います。

被災者の方については、一日でも早く労災請求することをお薦めします。労災として認められれば、2年間を遡及して休業補償等が受給可能ですので、被災者の方の利益になると思います。

労災の請求があれば、労働基準監督署では、「事実関係」及び「疾病との因果関係」を調査します。香川氏のセクハラ行為については、本人が認めているので問題ないと思います。後はPTSDとの因果関係を認定すれば良いのです。

また、これは労災の「第三者行為災害」に該当しますので、労災認定後には、労働基準監督署から香川氏に「費用請求」が行われます。

事件の発生した銀座のクラブは、労働基準監督署に労働者死傷病報告書を提出しているのでしょうか。その書類が提出されていなければ「労災隠し」ということになり、重大な法違反として、労働基準監督署が労働安全衛生法違反として書類送検する場合もあります。

週刊誌等の報道する方にお願いしたいと思います。この事件のように明らかな労災事案については、「被災者の救済」及び「使用者の安全配慮義務」について、より追及してもらいたいと思います。

よくやりました

( 北伊豆地震断層の動き・火雷神社、by T.M)

朝日新聞 8月22日

スナック菓子「うまい棒」を製造する茨城県常総市の菓子メーカー「リスカ」で違法な長時間労働があったとして、常総労働基準監督署は22日、法人としての同社と、武藤秀二社長を労働基準法違反の疑いで書類送検し、発表した。

 発表によると、同社は2021年1~11月、同市内にある石下工場の従業員9人に対し、時間外労働に関する労使協定(36協定)で定められた上限を超えて働かせた疑いがある。1カ月あたりの時間外労働が100時間を上回ったり、複数月の平均で80時間を超過したりし、最長で月に約120時間に及ぶ例があったという。

 リスカのホームページによると、同社は1971年創業。うまい棒などの菓子を製造している。

 同社総務部の担当者は「従業員が集まらないことなどが背景になって、数年前から長時間の時間外労働が指摘されていた。書類送検されたことについては、反省すべき点が多い。会社を挙げて再発防止に取り組む」と話した。

偉いぞ、常総労働基準監督署。労働基準法第32条(過重労働)での送検は珍しい。しかも、「11ケ月の期間の9人の労働者の時間外労働」を捜査したことは素晴らしい。

厚生労働省のHPに、過去1年間の労働基準法・労働安全衛生法の送検実績が企業名入りで公表されていますがが、労基法32条違反は珍しく、あっても

  1 36協定(時間外労働協定)が締結されていないのに、残業させた

  2 1ケ月の期間について、1人の労働者に過重労働をさせた

という内容が多いものです。これは、残業時間の特定という捜査が難しく、複数の人間の長期間の過重労働の法違反を特定することは、膨大な業務量を要するからです。

私は、「いくつもの法違反の中から、特に悪質な法違反を抜き出して送検する」といった捜査手法を否定はしません。一見手抜きに思えるかもしれないが、「被疑者を刑事罰に処す」「送検事実を世に知らしめる」ことで、行政の目的は達したと思えるからです。「特定しなかった法違反」については、「情状としての事実」として捜査報告書に記載すれば良いのです。「ひとつの法違反の特定」と「多くの類似の法違反の特定」で、労働基準法違反の量刑がかわることはありません。

そのような行政機関の慣例を無視して、今回は敢えて多くの犯罪事実を特定し送検したことについて、私は捜査担当官の深い怒りを感じます。

ヤフコメを読んでいると、「こんなことで送検されるのか」という疑問の声があがっていました。御安心下さい。労働基準監督署は、1回の法違反の特定で長時間労働の送検はしません。ポイントは新聞記事のこの部分です。

「数年前から長時間の時間外労働が指摘されていた。反省すべき点が多い。会社を挙げて再発防止に取り組む」

要するに、過去何回も法違反を指摘されてきたのでしょう。多分、管内の有名企業ですから、何とか法違反を是正してもらいたいという気持ちも所轄労働基準監督署にあったと思います。そんな気持ちを無視されたので、残念だという気持ちもあったのではないかと想像します。

どうしても、長時間労働が発生してしまうという事業場の経営者に一言申し上げます。労働局に相談に行って下さい。長時間労働をなんとかしたいという気持ちがあれば、多分親切に相談に乗ってくれるはずです。(・・・、アホでおかしい相談員も、たまにいます)