損害賠償?

(十国峠からの富士山、by T.M)

神奈川新聞 8/28

川崎市立稲田小(同市多摩区)のプールの水を張る作業の不手際で大量の水が無駄になった事案で、市が男性教諭に賠償請求したことを巡り、市に対応を疑問視する問い合わせが28日までに、100件以上寄せられていることが分かった。賠償請求に対する同情的な意見も多いというが、市は処分を変更せず、賠償手続きを進めているという。

男性教諭の不手際で5日間にわたり水を出し続けて約220万リットル(25メートルプール約6杯分)を流出したことで、損害となる上下水道料金は約190万円に上った。市は、同校の校長と男性教諭に過失があったと判断し、8日付けで2人に損害額の約半分の約95万円を請求した。

この記事を読んだ時に、人から聞いた某県の労働災害の発生状況を思い出しました。その県において、休業4日以上の労働災害を発生させている事業場は、なんと某県教育委員会」でした。それは某県教育委員会が管理する給食センターが原因でした。3年間に休業4日以上の災害を30件以上発生させていました。

因みに、地方公共団体の労働災害は労働基準監督署に通常は報告されませんが、「給食センター」「廃棄物処理場」「公園管理」等の現場業務で発生した労働災害は労働基準監督署に報告する義務があります。また、その某県では、給食設備は各高校に設置されていて、各高校で4~5人の給食担当の現場の人が働いています。その各々の高校の給食設備の現場で働く人の災害が、「某県教育委員会」の災害として労働基準監督署に報告されていました。

某県教育委員会に某労働基準監督官が臨検監督を実施したところ、驚くべき事実が発覚しました。各高校の給食設備の現場では、現場責任者がいなかったのです。4~5人なる現場職員はすべてフラットな関係です。だから、誰かが危険作業をしていても注意する者はいません。そのような現場だから事故は発生していたのです。

でも、誰が出勤管理等をしていたのかと言うと、それはその学校の校長先生です。そして、某県の教育委員会の規定では、給食設備の現場職員の安全管理の責任者は校長先生であり、労災事故の再発防止対策も校長先生が実施することとなっていました。

調査した監督官は何人かの校長先生に合い、質問したところ、給食設備の現場職員の安全指導をしている者はなく、なかには「校長が給食の調理場所に入っていいのでしょうか?」と質問してくる者もいました。

さて、この話は人から聞いた話でもありますし事実かどうか分かりませんが、このような現場において、職員のミスにより多大な損害が発生した時に、その損害賠償は「現場職員」と「校長先生」に行うべきでしょうか?そんなことを考えました。

今年の最低賃金

(三浦市宮川町のヨットハーバー、by T.M)

今年の10月1日から、最低賃金が全国加重平均で1004円となるそうです。昨年が961円ですから、約4%アップの大幅賃上げとなります。一昨年は930円ですから、2年間で約8%上がったことになります。

でもちょっと待って下さい。最低賃金は

  930円、961円、1004円

と上がっていますが、最低賃金改定日(10月1日)の円―ドル相場は

  2021年 112.43円

  2022年 144.81円

であり、もし今年の10月1日の円―ドル相場が昨日(8月25日)の相場である146.85円であると仮定するなら、日本の最低賃金はドルベースで次のように変化するということになるのです。

  2021年 8.27ドル

  2022年 6.64ドル

  2023年 6.85ドル

因みに、超円高であった2021年は、最低賃金は737円で、ドル相場は76.71円であり、その金額は9.51ドルです。これは現在の円―ドル相場に換算すると約1400円となります。

国際的に見ると日本の最低賃金の下落は顕著です。

(注) 米国の最低賃金はNY市等の大都市は20ドル前後の高額ですが、過半数の州では8ドル前後だそうです。(独立行政法人労働政策研究・研修機構のHPより引用)

要するに、輸入品の価格上昇比率は最低賃金の上昇比率より高いということです。

「働き方改革」の目的は生産性の向上にあったはずですが、賃金のことだけ考えると。どうもうまくいっていないように思えます。何か、今後の生活に不安を感じる今日この頃です。

労働安全衛生法改正

(十国峠ケーブルカー、by T.M)

次の新聞記事は長文ですが、労働安全にとっては非常に重要な問題となりますのでを全文紹介します。

朝日新聞 7/31

■事故で死亡やけが、労基署への報告義務

 フリーランスが増え、事故のリスクが問題視されてきたが、今はそうした事故の実態を把握する仕組みがない。

 そこで安衛法の規定を見直し、労働者と同様にフリーランスらが業務上の事故で死亡するか4日以上休業するけがをした場合、仕事を発注したり現場を管理したりする企業などに労働基準監督署への報告を義務づける。

 違反しても罰則はないが、是正勧告など行政指導の対象になる。一方、一般消費者から仕事を請け負ってけがをした場合などは、フリーランスら本人が労基署に情報提供するよう求める。

 フリーランスが過重労働で脳・心臓疾患や精神障害になった場合に、本人から報告できる仕組みも整備する。

■危険な場所への立ち入り禁止なども義務づけ

 国はこうした報告を集計・分析して公表し、業界団体などに災害防止対策を進めるよう促す。

 また安衛法では企業などに、災害発生時に労働者を作業場から退避させたり、危険な場所を立ち入り禁止にしたりすることを義務付けているが、その保護対象をフリーランスらにも広げる。作業現場に足場や機械を設置した事業者には、労働者の安全を保護する義務があるが、その対象にもフリーランスらを加える。

 フリーランスら自身にも災害防止策を義務づける。一部の機械を使う場合の定期自主点検の実施や、危険な業務を行う場合の講習の修了など、企業や労働者に義務づけているのと同じ内容だ。

 安衛法をめぐっては、アスベスト被害に関する訴訟で最高裁が一昨年、同じ現場で働き危険性も同じなら、「一人親方」と呼ばれる個人事業主も保護対象とすべきだと判断。それを受けて厚労省は今春、アスベストなどを扱う労働者を保護する規定の対象を、個人事業主にも広げた。さらにそれ以外の職種への対応も必要だとして、有識者会議で議論を続けていた。

■有識者会議の報告書案のポイント

【事故の把握】

・個人事業主が事故にあった場合、仕事を発注した企業などに国への報告を義務づける

・個人事業主が過重労働で脳・心臓疾患や精神障害になった場合は、本人が国に報告できる仕組みをつくる

・国は事故の情報を分析して公表し、業界団体などに防止対策を促す

【事故防止の対策】

・一部の作業について、企業に義務づけられた「労災を防止するための措置」の対象を個人事業主にも広げる

・個人事業主にも現場に持ち込む機械の定期自主点検を義務づける

・個人事業主にも危険有害な業務に関する安全衛生教育の修了を義務づける

・プラットフォーマーが危険有害な業務を個人事業主に行わせる場合に配慮すべき内容を明確にする

【健康管理】

・国は個人事業主に年1回の健康診断を促す。

・健康診断の費用は、発注企業が支払う報酬の中に盛り込むよう促す。

・発注企業は、長時間労働をしている個人事業主から求めがあれば、医師による面接指導の機会を作る。

(引用終了)

世の流れとしては、いい方向に向かっていると思います。

でも、課題はたくさんあるでしょう。例えば、フリーランス業務の典型であるウーバーイーツ。ウーバーイーツが配達員の事故報告を労基署にするためには、配達員から、ウーバーイーツへの事故報告が必要でしょう。でも、自分が事故にあった時に、別に会社が労災手続きをする訳でもなく、交通違反がらみの事故であったなら、会社から怒られるかもしれないと思うと、配達員は事故報告をしないんじゃないでしょうか。

 また、ウーバーイーツは配達員に健康診断を促し、その分の費用を報酬に上乗せするということでしょうか? 法の意に反して、上乗せされた報酬は別に使ってしまうのではないでしょうか(まあ、報酬アップならいいやという考えもあります)。

 もちろん、今回の法改正の主旨は、工業系3業種(建設・製造・運送)で働くフリーランスの方たちを念頭においたものであることは理解していますが、フリーランスという一括りではウーバーイーツもその範疇に入ります。

 何よりも、この安全衛生法の主旨を徹底させるためには、「一人親方の労災保険特別加入制度」をすべての業種に適用させるようにしなければならないでしょう。ウーバーイーツの配達員は一昨年から加入できるようになりましたが、すべての職種で加入できる訳ではありません。そうすると、今度は「一人親方の労災保険特別加入制度」に加入していない風潮となりそうです(実際、多くの建設会社はそのようにしています)。そうするとフリーランスの方に新たな負担を押し付けることになるのではないでしょうか?

まあ、色々心配しても仕方ありません。前述のとおり、この法改正はいい方向に向かっていると思いますので、厚生労働省の頑張りに期待したいと思います。

大阪万博

(伊豆のワサビ田、by T.M)

7/28 スポニオ

実業家の西村博之(ひろゆき)氏(46)が28日までに自身のツイッターを更新。2025年大阪・関西万博の海外パビリオンで建設手続きが停滞している問題を巡り、日本国際博覧会協会が、万博工事に従事する建設労働者を24年から適用される残業時間規制の対象外とするよう政府に要望していることが判明したことに言及した。

 複数の関係者が明らかにしたもので、開幕に間に合わない事態を避ける狙い。時間外労働の上限規制は、19年の働き方改革関連法施行により導入された。災害復旧工事などを対象外とする特例があるものの、万博工事を同様に扱う対応には政府内に慎重な意見もある。

 万博に参加を予定する150超の国・地域のうち、およそ3分の1がパビリオンを自前で建設する予定。ただ、着工の前提となる大阪市への許可申請手続きは滞っている。建設業界の人手不足や資材高騰、複雑なデザインによる難工事やコスト増を背景に、工事請負契約が進んでいないのが実情。時間外労働の上限規制が適用されると、人繰りがさらに厳しくなるとの見方が出ている。

ひろゆき氏は「大阪万博の残業規制の除外を政府に打診。人手不足なら高額の給料払って人を集めれば良い。お金が足りないから出来ないなら、そもそも大阪万博を辞めれば良いんじゃない?パビリオン作りたい所も少ないみたいだし」と自身の考えをつづった。

万博工事を残業時間規制の対象外とすることについて、行政府の判断だけでできるのか、国会も関係あるのか、どういう法的手続きが必要なのかはよく分かりませんが、結論としてはひろゆき氏の意見に100%賛成します。付け加えるなら、何年間も残業規制に備えてきた企業、あるいは既に実施している企業に対し失礼です。

そもそも、私が労働基準監督官をしていた平成年代の中頃までは、大きなイベントや大規模工事については、模範的で表彰されるような工事が多いものでした。

  (例)1989年横浜博、1993年完成横浜ランドマークタワー

それが近年は国を挙げてのイベントで不祥事が多発しています。

  (例)2021年東京オリンピック、新国立競技場建設作業員過労自殺事件

昔が良かったというのは老人の繰り言ですが、実際それが事実であるような気がします。これは、やはり日本の国力が落ちてきて、貧しくなっているせいでしょうか?

100歩譲って、本当に日本国際博覧会協会の、残業規制の対象外の要望を認めるとしても、まず話を通さなければならないのは「政府」ではなく「労働者」ではないのでしょうか。。政府の対応を待ってから、大手労働組合ナショナルセンターと交渉するつもりだったのかもしれませんが、大手労働組合ナショナルセンターの了解を得てから政府に陳情すれば、まだ話は通ると思いますし、筋は通ると思います。もっとも、その場合でも取引条件として、残業代の割増率の増加くらい覚悟しなければならないでしょう。現在、残業代の割増率の最高が150%(深夜労働を含めると175%)だから、これを200%(深夜労働を含めると225%)くらいにすれば、納得する者もでてくるのではないでしょうか。経営者の一方的な都合で労働条件の切下げが行われるなら、「働き方改革」の大目標であった「生産性の向上」などは、絶対に無理だと思います。

定年退職後の賃金

(北仲ノットからの展望、by T.M)

梅雨が明けました。皆様、これからが夏本番です。

改めまして、暑中お見舞い申しあげます。

7/20 毎日新聞

名古屋自動車学校(名古屋市)の元職員2人が、定年退職後の再雇用で賃金を大幅に減らされたのは不当だとして、定年前の賃金との差額を支払うよう求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は20日、同じ業務内容で基本給が定年時の6割を下回るのは違法だとして自動車学校に計約625万円の支払いを命じた2審・名古屋高裁判決(2022年3月)を破棄し、審理を高裁に差し戻した。

(略)

 1審・名古屋地裁判決(20年10月)は2人の賃金は「労働者の生活保障の観点から看過しがたい水準に達している」と指摘。同じ業務内容で基本給が定年退職時の6割を下回ることは、当時の労働契約法20条(現パートタイム・有期雇用労働法)が禁じる不合理な待遇格差に当たると判断した。2審判決も1審を支持した。

 これに対し、自動車学校側は上告審で、2人は定年後の賃金減少分の一部について国が補助する「高年齢者雇用継続基本給付金」を受給していると指摘。不合理な待遇格差に当たるかは基本給だけでなく他の収入も含めて検討されるべきだと主張し、請求を棄却するよう求めていた。

難しい問題ですよね。原告の主張は次のとおり。

第一 定年退職前後に仕事に違いがないのに、賃金が下げられるのはおかしい

第二 「高年齢者雇用継続基本給付金」を企業が受給しているのに、賃金の下げ率が大きい

(注:今日はこの「第一」の主張についてのみ論じます)

この原告の主張に対し、1審・2審は次のように判断しました。

「労働者の生活保障の観点からも看過しがたい。正社員の6割を下回る部分は違法」

それに対し、最高裁は次のように判断し、審理を差し戻しました。

「基本給の性質や目的を踏まえて判断すべきだ。1審・2審は十分検討してなく、判決高裁差し戻す。」

ようするに、1審・2審の判断は

「原告の生活を考えて、定年退職後も仕事内容が変わらないなら退職前の60%を補償しろ」

ということです。それに対し最高裁は次のように差し戻したのです。

「“生活保障の観点”だけでなく、“基本給額が原告に相応しいのか”を検討しろ」

ということです。私は最高裁の判断は妥当だと思います。多分、次のような考えでしょう。

「原告の定年退職時(60歳)の賃金は、年功序列制賃金体系ではなかったのか。原告の所属する会社の中で、原告より年下(例えば50歳くらい)で、原告と同じ仕事をし、そして原告より年下だという理由で原告より賃金が安い者はいなかったのか。いたとするなら、その会社はそもそも厳密な“同一労働同一賃金”ではなく、原告の定年退職時の賃金は年齢により恩恵を受けていたものであるから、本当の意味での同一賃金同一労働とするためには、一律に“退職前の60%の賃金を補償”するのでなく、原告の業務に応じた賃金額を再精査すべきだ」

また、こんな考えもあると思います

「“賃金補償60%”という数字が一人歩きしてしまうと、仕事内容で評価すると、本来定年退職後に“90%”給与をもらうべき人の賃金が値切られてしまう可能性がある。また、企業によっては、退職する時期によって、同じ仕事をしていても賃金額が違うことがある。一律に賃金補償60%としてしまうと、60歳以降の再雇用契約者どうしで、同一労働同一賃金でなくなってしまうかもしれない」

しかし、最高裁って高裁に無理難題を押し付けますよね。「基本給の性質や目的を踏まえて、正しい金額を算定しろ」なんてことは無理ですよ。だから、1,2審は「労働者の生活保障の観点から60%」という理屈をひねり出したのに、「基本給の評価方法」について、道筋をつけて最高裁に持ってこいということです。なんか、高裁が可哀そうに思えてきました。