エイジフレンドリー

(明治の橋梁・中央本線旧立場川橋梁・長野県富士見町,by T.M)

今日はちょっと、労働安全衛生コンサルタントらしい話題を書きます。

エイジフレンドリー職場へ! みんなで改善 リスクの低減

今年の全国安全週間(7月1日~7月7日)の標語です。
今年の3月に厚生労働省が「⾼年齢労働者の安全と健康確保のためののガイドライン」を発表するまで、私は「エイジフレンドリー」という言葉を知りませんでした。この言葉の意味ですが、「高齢者の特性を考慮した」を意味する言葉で、WHOや欧米の労働安全衛生機関で使用されています。

労働者の職場の安全を祈り、社会を啓蒙することを目的とする全国安全週間は、昭和3年に開始され今年で93回目となります。
小林多喜二の「蟹工船」や葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」の中で描かれているように、あるいは紡績業に従事する労働者の20%が結核を患っていたという大日本綿糸紡績連合会の明治30年の調査で記録されているように、明治から昭和初期での工場等で働く労働者は災害が多い危険な職場で働いていました。
しかし、大正デモクラシーの流れを受け、職場の安全を求める声が企業側から上がります。それは、日本の労働安全衛生史に名を残す、東京電気(後の東芝)の蒲生俊文や住友伸銅所(住友金属工業、新日鐵住金を経て、現在の日本製鉄)の三村起一らです。

彼らの努力により、全国安全週間は実施されることとなりました。第1回目(昭和3年)の同週間の標語は次のとおりです。
「一致協力して怪我や病気を追拂ひませう」

そのように開始した全国安全週間ですが、その標語は次第に軍国主義の色彩を帯びるようになっていきます。
 第8回 昭和10年度 産業安全 祖國の守護
 第9回 昭和11年度 國の礎 産業安全
 第10回 昭和12年度 興せ産業 努めよ安全
 第11回 昭和13年度 安全報國 銃後の護り
 第12回 昭和14年度 興亜の偉業に 輝く安全
 第13回 昭和15年度 守れ安全 輝く日本

そして遂に戦争となると、次のとおりです。
 第14回 昭和16年度 總力戦だ 努めよ安全
 第15回 昭和17年度 誓って安全 貫け聖戦
 第16回 昭和18年度 必勝の生産 鉄壁の安全
 第17回 昭和19年度 決戦一路 安全生産
  (以上、中災防「安全衛生運動史」より抜粋)
こうなると、現代の某共産主義国のスローガンみたいです。

さて、このように時代の雰囲気を色濃く反映させる全国安全週間の標語ですが、本年は高齢者の安全に触れています。現在、職場では高齢の労働者が増えています。全労働災害に占める60歳以上の方の労働災害の発生割合は2008年の時点で18%でしたが、2018年には26%に上昇しています。
働き方改革で議論された、「高齢者の今後の働き方」について、最近はマスコミ等であまり話題に上がりませんが、「エイジフレンドリー」という言葉と伴に、高齢者の安全に適した職場環境づくりへの議論が活発となることを期待します。

在宅勤務を考える

(桜町陣屋・栃木県真岡市、by T.M)

「在宅勤務中にコロナに罹患したら労災保険の適用がありますか」

同じ事務所の女性事務員から、こんな質問がありました。私は、質問に答えられる知識がなかったのですが、旬の話題としてブログに取り上げるにはちょうどいいテーマだなと思いました。そこで、早速私の知恵袋であるY氏に電話をして尋ねてみました。Y氏は、現役の某労働基準監督署の労災課長です。

Y氏:(電話に出た時は不機嫌そうでした)家に帰ってきてまで、何で仕事の質問に答えなきゃいけないんだ。今、酒飲んでるんだ。
私 :まあ、そう言うな。先日、おごってやっただろ。

(注)私は、彼の職務の「利害関係者」ではないので「おごって」やっても、国家公務員倫理法には抵触しません。公務員と飲食に行く場合は、例え友人であっても、そこまで気にしなければいけません。

Y氏:今監督署の労災課の窓口には、毎日これと同じような質問の電話がきていて、戸惑っているんだ。
私 :それで、窓口ではなんと答えているんだ。
Y氏:答えるもなにも、この問題について、本省からはまだなんの具体的な指示はない。だから、一般論を述べるだけだ。すなわち、「業務起因性」があり、「業務遂行性」が認められれば、労災になると答える。

(注)「業務起因性」とは、業務と傷病等の間に一定の因果関係があることをいう。「業務遂行性」とは、その災害が労働者が労働関係のもとにあった場合に起きたものであることをいう。

私 :具体的に聞くが、「在宅勤務中にwebカメラを調整していたら、無理な姿勢となってしまい、急に腰に『ギック』と痛みが走った場合」、これは労災となるか?
Y氏:その場合なら、労災になるかどうか検討すると思う。結果がどうなるかは、当然ケースバイケースだ。

私 :では、コロナに罹患した場合はどうだ。例えば現在、在宅勤務を自宅への「直行直帰」の出張と見なしている会社が多い。一気に、在宅勤務まで進んで行ってしまったために、就業規則等の整備が追い付かないためだ。法令を守ろうとする優良企業ほど、そのように苦しい対応をしている。この場合は、理論上は出張先での罹患であることが明白であるが、労災となるのではないか。
Y氏:それもまた検討には値する。だが、どうなるかは不明だな。
私 :不明、不明って、何か頼りないな。明日にでも労災申請があるのかもしれないんだぞ。現場の担当官がそれじゃ困る。
Y氏:うるさい、もう切るぞ。

この友人との会話後に、少し在宅勤務について考えてみました。
在宅勤務っていうのは、多くの事業場で手探りで実施しているのが実情だと思います。私も5月半ばまでは強制的な在宅勤務でしたが、現在は希望制です。講演会の資料作りや安全診断書の作成等をしていました。
在宅勤務中は、毎日朝6時に起きて1時間ほどウォーキングをしてから、8時からパソコンの前に座り、午後4時まで仕事をしていました。午後4時からは1時間ほど、またウォーキングです。私の会社出勤時の労働時間は、現在時差出勤中なので、午前8時から午後4時までなので、会社の勤務時間及び通勤時間に即したラフスタイルを送っていた訳です。

このような在宅勤務の形態に、ふと思いました。
「何か違う。想像していた在宅勤務ではない」
どこが違うのか、整理してみると次のようなことだと判明しました。
「在宅勤務というのは、そもそも量より質ではないか。成果が求められるのではないか。会社の勤務時間に合わせるということは非合理ではないか。」

そんな訳で、在宅勤務の実情についてネット検索してみると、各社様々でした。在宅での業務を会社の就業時間に合わせるように強制している会社もあれば、まさしく質のみを求めていて、時間管理をしていないような会社もあるようです。ただ多くの会社は、私の所属する会社と同じように、従業員をどう管理したらよいのか試行錯誤中というのが現実なようでした。
厚生労働省が作成した「テレワークモデル就業規則」によると、在宅勤務の労働時間というのは、結局通常の労働時間とかわらず「週40時間制」が基本ですが、「フレックスタイム制」「事業場外みなし労働時間」等を取り入れることも可能です。

労働者が「在宅勤務」に期待することは、単に「通勤時間を省略すること」でなく、「育児」や「介護」等と「仕事」を両立させるために、労働時間を自由としたいという期待もあるのではないでしょうか。
「もっと、在宅勤務を自由に!」
「在宅勤務」と「みなし労働時間」と「兼業あり」なんて、労働形態になったら、日本社会も根本から変わるのでしょうね。会社や労働組合のあり方がこれからどうなるのか、少し考えさせられました。

いよいよ、来週から常時定期に出勤します。コロナ禍が理由の時差出勤が2度と発生しないことを祈ります。そして、「自由な労働時間が選択できる時差出勤」が導入されることを希望します。

役所の窓口

(夜の川崎大師、厄除け・コロナ除けです。by T.M)

厚生労働省のHPを覗くと、「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」の中で、次のように記載されています。この厚生労働省のHPの説明で、よく分からなかったことがあったもので、地方労働局の現職の係員Aに、電話で次のように質問しました。

(HP内容)

「患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。」

「医療従事者や介護従事者以外の労働者が、新型コロナウイルスに感染した場合は、他の疾病と同様、個別の事案ごとに業務の実情を調査の上、業務との関連性(業務起因性)が認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
感染経路が判明し、感染が業務によるものである場合については、労災保険給付の対象となります。 
感染経路が判明しない場合であっても、労働基準監督署において、個別の事案ごとに調査し、労災保険給付の対象となるか否かを判断することとなります。」

A氏との会話は次のとおりです。

問「満員電車で通勤していた者が発症した場合についてだが、他の感染経路が考えられない場合、『満員電車内で感染した』として、通勤災害となるのか。
今までの、例えばインフルエンザ等の感染での労災認定の範囲は狭く、感染経路が明確でない場合は、まったく、『通災』も『労災』も考えられないが、今回はどうなるのだろうか」

A氏答「私の個人的な意見として聞いて欲しい。現在、多分世の中で一番関心が持たれているのは、そこのところだとは思う。今までの労災基準としては、『インフルエンザでの通災』という考えはまったくなかった。今回の場合は特例として『通災としてのコロナ』が検討されるような気がする。
今回のQ&Aでは『医師、看護師、介護従事者等』においては、感染経路が私的なものと証明されないかぎり、つまり感染経路不明でも労災認定が可能だ。これは今までにはない考えだ。政府もコロナ禍での労災認定に積極的なようだ。」

問「それでは、今までの労災認定判断と相違がでてしまう。今はいいが、例えばコロナ禍が終息した後に、インフルエンザ罹患で労災申請があった時に、申請者から同様な対応、つまり『感染経路が多少不明確であっても、コロナ禍の時のように認定しろ』と主張されたらどうするのだろう。それから、過去の『感染経路が不明確で不認定とした労災事案』との整合性はどうするのだろう?」

A氏は笑って答えませんでした。

役所が仕事が遅い理由のひとつに、確かに「前例主義」というものがあります。「前例主義」という言葉は、どうしても悪く聞こえてしまうのですが、見方を変えれば、「事案の公平性」ということです。

もちろん、役所の「前例主義」に対し、次のような批判があることは分かります。
「だから役所はダメなんだ。コロナ禍というような前例のない非常時には、通常どおり物事は進まない。役所がダメなら政治決断をもって、物事を前へ進めるべきだ。」
これは正論であり、「役人」としても、誰かが決断をしてもらえば、それに従えばいい訳ですから楽です。でも往々にして、その「政治決断」した者は、事が終わればどこかに行ってしまって、結局は、「コロナで苦しむ人も、インフルエンザで苦しむ人も一緒なのに、労災としての取扱いが違うのはおかしい」という正論を述べる人と対峙する役を、「窓口の役人」が負うこととなるのです。まあ、それが仕事と言ってしまえば、それまでなのですが。

私と電話会談したA氏は、次のようなことも話しました。
「今日(5月2日・土曜日)、私はコロナ禍の元で遅れた仕事を取り戻すために休日出勤した。あと1日は連休中にも出勤しなければならない。
でも、私はまだましな方で、雇用調整助成金の窓口となる職業対策課は連休中も休みなしで窓口を開け、仕事をしている。残業も膨大なものだ。でも、みんなそれが社会的に必要であることは、認識している。」

事務手続きの煩雑さに悩むのは、国民だけでなく、役所の窓口も一緒。非常時に通常どおりの手続きで仕事を進めることは到底不可能です。コロナ禍で苦しむ人々のために、自分のできる限りのことをしたいという気持ちは誰でももっています。
でも、「公平性」を無視した仕事は、今後のことを考えると、やりにくいというのも、現場の職員の本音なのです。

雇用調整助成金

( 霞ヶ浦・茨城県土浦市,by T.M)

最近、コロナウィルス関連で、企業が労働者を休業させた時の補償をどうするのかということが話題に上ります。

企業への補償のひとつに、「雇用調整助成金」というものがあります。
雇用調整助成金とは、通常は景気変動などによって、会社の業績に悪影響があった場合に、会社側が行った雇用調整(休業・教育訓練・出向などの措置)に対して助成金を支給することにより、従業員の雇止めや解雇を防ぐためにあります。
今回の特例措置は、新型コロナウイルスの影響により業績が悪化したなどの理由によって、事業主が従業員を休ませた場合に、その支払った休業手当の一部を助成するものです。
財源は労働保険です。

この雇用調整助成金を巡って、現在労働基準監督署の労災関係の窓口では、非常に業務量が増えています。雇用調整助成金の事務手続きは、職業対策課(ハローワーク関連部署)が行うものであり、監督署が直接に関与はしていません。それなのになぜ、筋違いの労働基準監督署の窓口で相談が増えるかというと、
「労働保険未加入事業場の方が、雇用調整助成金の援助を受けたいと希望する」
からです。この場合、監督署の窓口が相談窓口となる場合があります。

労働保険というのは、労災保険と雇用保険のことです。従業員を1名でも使用している事業場は必ず加入しなければならないものです。(注:労災保険は絶対に加入が必要。雇用保険は、事業場が使用している労働者の労働時間が短い等の理由がある場合は加入の必要はない。《加入できない》)
毎年労働保険を支払っている事業場は、労働保険の事務手続きに慣れていらっしゃるし、書類も整っているので、比較的にスムーズに雇用調整助成金を受給できます。

しかし、労働保険が未加入の事業場については、「改めて労働保険に加入」してもらう必要があります。そして、「過去2年間分の保険料を支払って」から、雇用調整助成金の申請ができます。労働保険の新規加入については、労働基準監督署が窓口となるため、現在、監督署では業務量が増えている訳です。

この監督署の窓口で、労災保険の加入手続き中に逆切れする方もいるそうです。
「従業員を解雇しなければならないのに、なぜ改めて労災保険料を2年間分も払わなければいけないのだ」
「手続きがめんどくさい」等の苦情があります。
監督署の職員は、立場上、そういう人たちに何も言いかえせないでしょうから、私が代わりに、このブログに書きます。

「労災保険の加入さえ怠ってきた事業場が、『雇用している労働者』のためにとかいって、助成金を申請することは、矛盾している」

雇用調整助成金の財源は、真面目で実直に社会的な義務を果たしてきた事業場が長年にわたり納めてきた雇用保険料が原資です。
コロナウィルス対策を巡っては、「事業場に休業してもらって、速やかに補償をする必要があるので、多少の矛盾は仕方がない」という意見もあるでしょう。もちろん、それは「政治」が判断することです。

また、「労災保険の加入については、行政の努力不足」との非難もあるでしょうし、どんな事業主であっても、そこに働く労働者の生活の糧になる資金となるのですから、雇用調整助成金の支払いは必要なことです。

ただ、このブログを読んで頂いている皆様には、雇用調整助成金のこのような背景を知って頂きたいと思います。

 

パンプス?

(伊豆の踊り子像・伊豆湯ケ島温泉、by T.M)

次のような新聞記事を見つけました。

安倍晋三首相は3日午後の参院予算委員会で、職場で女性にハイヒール着用を強制しないよう求める運動について問われ、合理性を欠くルールは許されないとの見解を明らかにした。小池晃氏(共産)への答弁。
  日本では女性のハイヒール強制反対を訴えた「♯ KuToo」運動が会員制交流サイト(SNS)などを通じて話題になっていた。安倍首相は職場での服装に関しては、「パンプスの着用を強制するような、苦痛を強いるような合理性を欠くルールを女性に強いることは許されないのは当然のことだ」と言明した。
  ただ、個々の企業のルールについては「適否を政府として一概に判断することは難しい」と述べ、まずは関係法令の趣旨も踏まえ、労使で話し合うことが重要だと述べた。

恥ずかしいですけど、この国会の論争の意味が、私には何のことか分かりませんでした。
そもそも「パンプス」って、何ですか?
「ファッション」とか「お洒落」という言葉とは縁のない人生でした。もはや死語となってしまいましたが、「ダサい」人生を60年おくってきたもので、その辺の言葉は分からないのです。

「#KuToo」運動というのは、「#MeToo」運動と類似する運動のようだと思いますから、差別とハラスメントを問題としたものだと思います。
多くの差別は、「無知」と「偏見」から発生することは、多少は分かっているつもりです。「無関心」についてはさらに悪いものなのでしょう。
でも、「目の前にいる女性が、パンプスをはいているかどうか分からない」という者が、何が「差別」かが理解できるでしょうか。
この国会答弁についても、男性である安部首相の答弁だけでなく、質問者の男性の小池氏も、どれだけ切迫感をもっていたかと疑問に思います。

最初に、「#KuToo」運動の話を聞いた時に、
「パンプスでの通勤は危ないということだが、通勤の時は別の靴で行って、職場で履き替えればいいじゃないか。建設現場では、普通に安全靴に履き替えるけど」
と思いました。

こんな感想をある人に言ったら、次のように叱られました。
「職場で安全であるかどうかが問題なのだ。また、多くの職場の安全衛生委員会では、それが形骸化してしまっていて、女性のパンプスの問題が話せる機会がない。つまり、問題提起されるシステムがなく、当事者の話を誰も聞かないことが問題なんだ。」

なるほど、この説明なら、頭の固い元役人でも理解できると思いました。

(注)「安全衛生委員会」(あるいは、業種によっては「衛生委員会」)とは、労働安全衛生法により規定された、従業員50人以上の会社が設置すべき委員会。委員の半分は、過半数の労働者を代表する者から構成される。ひと月に1回以上の開催及び、その議事録の開示が義務付けられている。
本来、「パンプス着用の職場で必要性及び安全・健康の確保」は、この委員会で検討されなくてはならない。
「従業員50人以上の会社」の「従業員数」の中には、「派遣社員」「パート労働者」も含まれるので、当然、その方達の意見も聞かなければならないが、多くの職場では、この安全衛生委員会が機能していない。
また、従業員が50人に達しない事業場で、従業員の意見をどうやって吸い上げていくかが、労働安全衛生の課題である。