国立病院機構について

(国立病院機構の退職意向アンケート、文春オンラインから引用)

文春オンライン 2月8日

独立行政法人・国立病院機構東京医療センターで、看護師の大量退職が起き、医療現場が危機に陥っていることが「 週刊文春 」の取材でわかった。看護師への処遇を巡っては、労働基準法違反違反の疑いがかかる複数の事例があるとの証言も得られた。看護師らが取材に応じ、内情を明かした。

(略)

「勤務はいまだに『ハンコ』で管理しています。始業は8時半なのですが、勤務の始まる30分前には出勤して、患者のデータを読み込まないと対応ができません。でも、この時間は『残業代』が払われないのです。そもそも残業は、自分で申請することができません。リーダーに『〇時間とりたい』と事前に申請する仕組みで、通れば残業としてもらえますが、『仕事が遅いからでは?』などと言われてしまい、簡単にOKがでない。結果としてサービス残業も横行しています。」

(略)

 それだけではない。同センターの元看護師によると、「退職のタイミングは年に一度しかない」と嘆く。

「毎年1月に、『来年度末までの退職希望の有無』を回答する紙が配られる。それを逃すと、その後、1年は申し出てもすんなり辞められなかった」

今年になってから、私の所属する組織で、上司である所長と3回の面談を行いました。来年度の私の処遇についての話し合いです。私も65歳となり、4月から非常勤嘱託となるので、労働条件の切り下げはやむを得ません。そのことに腹が立ちましたが、所長が丁寧に接してくれ説明してくれましたので、最終的に納得し次の人生のステージに進む覚悟ができました。人事というのは、とても難しいと思いますが、最後に人を動かすのは誠意だと思います。

さて上記の記事についてですが、さすが文春さんです。良い記事を書いてくれました。同記事については思うところがありますが、退職希望の有無を回答するこのアンケートは、さすがにダメでしょう。「予定外の中途退職のないように熟慮の上お答え下さい。」って、どこまで上から目線なんだと思います。こんな文書を配布された時点で、腕に覚えのある再就職に自信のある看護士は辞めてしまうでしょう。

労働の現場で上司・部下の関係はあっても、労働契約の締結については労使対等です。それが理解できない管理者では、組織は維持できません。

気分良く働けるかどうかは、意外に管理側の何気ない気づかいにあるのです。

派遣労働者と安全管理(2)

(川崎市夢見ヶ崎動物公園のフラミンゴ、by T.M)

つも写真を提供してくれている、T.M氏がなんとコロナ陽性となってしまいました。熱等はないそうです。早く良くなってね!

さて、今日も派遣労働の問題点についてです。先週、お話したように派遣職員の安全管理の件でなぜ現場で浮いてしまうのか、その構造的な理由を考えて見たいと思います。派遣職員が企業の安全管理組織からはじかれてしまう主な原因は、安全衛生委員会の労働者側委員の選出に参加できないことです。

安全衛生委員会とは従業員50人以上の企業がひと月に1回以上開催しなければならない、労働安全衛生に関係することを議題とした委員会です。

(注)業種によっては、安全衛生委員会ではなく衛生委員会となる。

この委員会は、事業場のトップである社長や工場長等が議長を努め、会社側委員と労働者側委員を同数として運営されます。労働者側委員としては過半数組合が存在するなら労働者側委員の選出については問題がありません。組合推薦の者を労働者側委員とすれば良いのです。

やっかいなのは、労働組合がない場合です。この場合は選挙で労働者代表を選出し、その人の推薦を受けた者が労働者側委員となります。この労働者代表を選出する選挙に、本来派遣労働者が加わらなければならないのに、ほとんどの企業では派遣労働者は加われません。

これは会社側が意識して意地悪をしているのではありません。勘違いされているケースも多いのです。

この、安全衛生委員会の労働者側委員を決める労働者代表は、時間外・休日労働協定(労働基準法36条により定められている協定なので36協定と呼ばれる)の労働者代表を兼任することが多いのですが、36協定の労働者代表選挙には派遣労働者は加われません。

つまり、会社側としては、労働者代表を選出しなければならない労働法関係の手続きとして、「①36協定の締結」、「②安全衛生委員会の労働側委員選出」の2つがあるんですが、多くの企業では、この2つの手続きの労働者代表を同一人物としてあります。そして、①については派遣労働者を含めてはいけなくて、②については派遣労働者は含めなればならないんです。そして、多くの企業が「労働者代表選出」みたいな面倒な手続きは1回ですませたいものなので、派遣社員を抜いて労働者代表を選出してしまうのです。

こんな状況ですから、労働の現場ではなかなか派遣労働者の意見は安全衛生委員会に反映されないので、先週お話した山上容疑者のような事件が起きてしまうものと考えます。

これ、派遣労働者にとっては結構重要な法違反だと思います。

また、「36協定の労働者代表」選挙を、派遣元が実施し、雇用する派遣労働者すべての意見を聴かなければならないのに事実上できません。従って、派遣労働者は実態として自分の労働時間についても、意見を言うことはできないのです。これは大きな問題なんで、また後日します。

来週は正月休みで更新しません。1月6日に歯根端切除という簡単な手術するので、1月8日も更新できません。

再開は1月15日からです。

それでは皆様、良いお年をお迎え下さい。T.M氏、早く良くなりますように。

派遣労働者と安全管理

(奥武蔵の古民家、by T.M)

先週に続いて、派遣労働者のことを書きます。

安倍前首相を殺害した山上容疑者は、以前派遣労働者としてフォークリフトの運転をしていたそうですが、そこの派遣先で、派遣元の従業員に対し、「オマエラの仕事のやり方は間違っている。オレの仕事のやり片は正しい」と主張し、会社を退職したそうです。

製造業等の工場が派遣労働者を受け入れると、とても安全管理が難しくなります。これは、派遣労働者が悪い訳ではありません。相互の理解不足が問題なんです。

ちょっと話題を変えるのですが、労働基準監督官で偉くなった人が大きな建設会社に再就職するなんていうケースがけっこうあります。でも、そういう人って、「何の役にも立たない」って、再就職先から陰口を叩かれていることがよくあります。

監督官に建設現場の4S(整理・整頓・清潔・清掃)は分かりません。分かるのは法違反の有無だけです。だって、それしかやってこなかったから・・・

ハインリッヒの法則というものがあります。「1:30:300」です。大きな労働災害が1件起きる時は、30件の小さな災害が発生してして、その下には300件のヒヤリハット災害があるという法則です。(因みに、ハインリッヒさんとは、100年前の米国の保険屋さんです。自分のところの、保険の収支率を計算していたら、この法則に行きついたそうです。)結論としては、「大きな災害を防止するためには、事業場内にある無数の不安全状態、不安全行動をなくせば良い」ということになります。

その「無数の不安全状態、不安全行動」を無くす手段が4Sとなるのです。

労働基準監督官が4Sの指導ができないということは、すなわち4Sの基準がないからです。法違反の有無を確認するのは簡単です。しかし、4Sがなされているかどうかの判断は非常に難しいものです。

私が経験した中で、4Sが一番徹底されている事業場は、労働集約型産業でない製造業です。逆に悪いように見える所はどこかと聞かれれば、スーパーマーケット等のバックヤードです。スーパーマーケットのバックヤードは非常に衛生的で清潔ですが、整理・整頓はできていません。例えば、物品を入れていたダンボールの空き箱等について、労働集約型産業でない製造業ではすぐに片づけられますが、スーパーマーケットのバックヤードでは隅の方に重ねておかれて重ねられています。でも、それでいいんです。

4Sとは業種や事業場によって、基準が違うものなのです。万能の業種の4Sに通じている者などどこにもいないのですから、大事なことは、事業場ごとに4Sの基準を定め、それを遵守することなのです。

さて、冒頭の「派遣労働者を受け入れると、とても安全管理が難しくなる」ということについて説明します。製造業の派遣労働で働く人は、経験があればあるほど、自分自身の中に4Sの基準ができています。それが新しい職場に行くと、別の基準を示されるので、ぶつかってしまうのです。

もし、4Sの基準が高い派遣社員が低い事業場に派遣されれば、「何てだらしない事業場だ」と思うでしょうし、低い派遣社員が高い事業場に派遣されれば「細かいことばかり言うな」ということになります。

職場なんて人間関係の要素が強いですから、このようなことからこじれると、最悪の結果になってしまいます。

この件について、まず動くべきは、やはり派遣先の事業場です。違った経験のある職員から色々学ぶべきでしょう。

ただ、問題として、派遣社員の意見が上がる場がないということがありますし、それは構造的な法違反からそのような状況となっている場合もあります。

それは次回書きます。

派遣労働者の最低賃金を時給1500円に!

(嵐山、by T.M)

ひとつ提案します。

「派遣労働者」に適用される最低賃金をつくりましょう。時給1500円くらいでいかがでしょうか。雇用が不安定な派遣労働者は、他の者より高い賃金をもらうべきです。

現在、派遣労働者には、派遣先に適用される最低賃金が適用されます。派遣労働者の最低賃金を上げるためには、派遣労働者には派遣元の最低賃金も適用されるという法改正を行えば良いのです。ざっと、最低賃金法を読んでみて思ったのですが、この方法なら、法律に一条追加するだけでいいので、改正については簡単にできると思います。

派遣労働者には、2004年の「製造業の派遣解禁」以前には、「派遣元」の最低賃金が適用されていましたので、元に戻すと考えれば良いのです。

こう書くと、派遣労働者には「派遣先」と「派遣元」の両方の最低賃金を適用させるのかと不思議に思う人もあるかと思いますが、複数の最低賃金が適用されることは普通にあります。

現在、最低賃金は「地域別最低賃金」と「特定最低賃金(産業別最低賃金)」の2種類があります。例えば、千葉県の「地域別最低賃金」は時給984円であり、鉄鋼業の産業別最賃は1054円(12月25日から適用)です。最低賃金は、2つ以上の最低賃金が適用される場合は高い方が適用されます。ですから、千葉県の鉄鋼業で働く人の最低賃金は時給1054円ということになります。この産業別最賃の設定については、地域の事情に応じて、地方労働局長が行うことができます。

新たに、派遣労働者には派遣元の最低賃金も適用されることとして、「派遣業」に対し「産業別最低賃金」を設定してやれば、派遣労働者の時給を上げることができます。そして、時給1500円を派遣労働者の最低賃金にしましょう。

こんなことを書くと、「パートタイマー」等の短時間労働者はどうするのだと言う人もいます。そういう議論がでてくることは歓迎します。雇用が不安定な者ほど高い賃金が支払われるべきだという考えが常識になれば良いと思います。

Twitter社

(嵐山の紅葉。by T.M)

薬局で、マイナンバーカードを使ってみました。登録だけすればいいのかと思ったら、毎回使用しなければいけないそうです。なんか、めんどくさいですね。

FLASH 11/18

2022年10月、440億ドル(約6兆4500億円)で、Twitterを買収した実業家のイーロン・マスク氏。

 マスク氏はさっそく、同社の経営陣の刷新などに踏み切っており、「従業員7500人のうち半数を解雇」したことが報じられるなど、その“大ナタ”に注目がされてきた。

 そんなマスク氏は、11月17日までに、Twitter社員に“ある決断”を迫ったという。

「CNNの報道によると、マスク氏は社員たちに、“長時間、猛烈に”働くことを指示するメールを送ったといいます。11月10日のTwitter社員向けのスピーチでは、『週80時間の労働に備えよ』と語った、という報道も。

 (略)

Twitter社での解雇・退職劇って、派手ですね。多分、技術屋の中には、こんなアホの奴の下でやってられるかと思って、自ら退職していく奴もいるんだと思います。

海外の労働問題の事件のことは良く分からないんですが、これが日本での事情ならちょっと分かります。「外資系企業」ていうのは労働基準監督官にとって、少しやっかいなんです。

労働時間等のことで、「外資系IT企業(日本法人、従業員100名前後)」を指導したことがあります。そこの社長(日本人)は、役所が何を話しても、ノラリクラリと言い訳するだけでした。いい加減役所の方でも問題視をはじめたところ、突然に社長が変わってしまいました。本社(米国在)からの解雇でした。エッと思っているうちに、後任の社長も、次の社長も2ケ月くらいで解雇されました。因みに、その会社は業績も良く、社長が解雇されても、日本人従業員たちは、何もなかったかのように業務を続けていました。

まあ、「代表取締役」を「株主(オーナー、ここでは米国本社)」がいくら解雇しようが、労働法規に抵触することはまったくないのですから、役所としては関係ないんですが、ずいぶんとあっさりしているんだなと思いました。結局、この企業は英語が堪能な売れっ子社会保険労務士に委託することで、役所(労基)との関係を改善したのですが、役所内での企業への印象は最悪でした。(もっとも、刑事事件になったとしても、日本法人の日本人社長を送検するだけで、本社には何の影響もない訳です。)

ただ、外資系会社のいい所は、話が早い事。理解さえしてくれれば、“法律”は守ります。

今回のTwitter社の日本法人においても、「法令違反」はおきないと思いますが、ドライに人員整理が行われると予測します。元々、Twitter社に入社するような人は優秀な方が多いと思います。再就職も、他の離職者よりもアドバンテージがあるような気がします。

11/18 毎日新聞

長崎市の三菱重工長崎造船所で勤務中に粉じんを吸ってじん肺などになったとして、下請け会社の元従業員と遺族が損害賠償を求めた訴訟で、原告側は18日、原告30人中20人に計約1億2200万円を支払うよう命じた7日の長崎地裁判決を不服として、全員が福岡高裁に控訴した。三菱重工側は「対応を検討中」としている。原告側は控訴を決めた理由を「原告の一部しか訴えが認められず、賠償額も請求額から大幅に減額されたため」としている。

 原告団の副団長、田中竹子さん(82)=長崎県長与町=は控訴した後、「判決から毎晩眠れない日が続いている。これまで長年、三菱重工と下請け会社のために働いてきたのに(こんな判決で)悔しいし、歯がゆい思いだ」と訴えた。

 「特定元方事業者」として、造船業では下請け労働者へ安全配慮義務があります。そして、日本の風土として、「企業に一生を託す」という考え方があります。

 時代と業種の差はありますが、「昭和の造船業」と「令和のIT企業」では、働く旗の意識が違うんじゃないかなと考えてしまいます。