医療崩壊

(カステラの文明堂総本店・長崎、by T.M)

本日は近況報告から。

私の勤務する会社でも、コロナ対策として在宅勤務が始まりました。私は、先週の月曜日に会社に行きましたが、次に行くのは今度の木曜日です。つまり、中9日間での出勤となる訳です。

この中9日間のうち、4日間は自宅から直接に、お客様の工場に労働安全指導に行きます。直行直帰というやつです。ですから、中9日間のうちに土曜日・日曜日を挟みますから、残り3日が在宅勤務となります。

在宅勤務というものは、やってみると、通勤がない分楽なだけで、業務量は変わりません。勤務開始の朝9時と、終了の午後5時に会社に連絡をいれますので、その間はパソコンの前に座りっぱなしですし、在宅勤務明けには、自宅で何をしてたのかの報告書を会社に提出しなければなりません。

在宅勤務の業務中に私的行為がまったく入らないかというと、それは嘘になります。コロナ関連のテレビを付けっぱなしで仕事をすることがありますし、猫が仕事の邪魔をしにくることが時々あります。作業しているパソコンは、情報漏洩防止のため、会社から持ってきたものですが、それが猫の毛だらけになってしまいました。返す時にどうしようかと悩んでいます。

3月の仕事は、前述の工場訪問4件だけになってしまいました。安全講演ひとつ、安全診断2つ、法定教育ひとつが中止となりました。
工場訪問4件のうち2件は遠方の工場で、茨城県と群馬県にあります。そこでの、私が講師となる安全昼礼は中止になりました。この両県は、まだ発症者数は少数(特に、茨城県は3月14日現在でゼロ)ですので、安全昼礼ぐらい大丈夫じゃないかと思いましたが、「先生(私のこと)が問題です」と言われてしまいました。この両県の工場にとって、横浜からの訪問者である私は、充分にコロナの感染リスクの脅威者になるようです。

さて、多くの医療関係者が、コロナ感染となっているとの報道がありました。また、医療崩壊が現実に発生する可能性の指摘があり、現在の医療機関のマスク不足はその第一歩ではないか、とても不安な気がします。

このような報道に接すると、監督官時代に、3.11の後である医者からこう言われたことを思い出します。
「大きな災害が発生した時に、医者はまず自分の命を守らなければならない。医者が無事なら多くの命を救える。」
この言葉を最初に聞いた時は、医者という人たちは随分傲慢なのだなあと思いました。

でも、最近になって、この時の医者の言葉は、非常時にあって、人命を救助することへの覚悟の現れであることが理解できました。
現場で働く、医療関係者の方の無事を祈り、敬意を表したいと思います。

お休みです

(世界文化遺産の小菅修船所・長崎、by T.M)

来週本当に仕事がきついです。

ある資格について、法定研修の「労働基準法」の講師をします。

某労働基準監督署で、中小企業の方々に労働安全衛生法の話をします。

安全診断は2件あります。本当に人使いの荒い会社です。

そんな訳で、下調べがあるんでお休みします。

女性の方へお薦めします

(五十里・栃木県日光市川治温泉、by T.M)

突然ですが、1ヶ月ほどブログを中断します。
年末にかけて、講演会が2つ、安全教育が4つ、企業の安全診断が3つ入っています。休日労働が必須となってしまいました。12月20日過ぎに再開します。
この期間に、私の親友のT.M氏(某地方労働局の現役技術系職員)、もしくはこのブログでまだ紹介していない(某地方労働局の事務系職員)に代筆を依頼しようかと思っています。
中断中も、このブログを時々覗いて頂きたく、お願いします。

先日、安全衛生担当者が集う研修会に出席しました。かなり専門性の高い会合で約100人くらいの人が参加していましたが、皆年齢の高い男性ばかりで、一番若い人でも50歳代前半くらいでしたが、事務局を含め会場に女性が一人もいなかったことが異様でした。
工事現場の監督や生産工場の工場長に、最近では女性を見かけるようになりました。私が労働基準監督官となった35年前には考えられないことです。現場での責任ある仕事は、突発的な事案に対応する能力を求められるので、時間が不規則になりがちです。昔は家事・育児を全て女性に押し付ける風潮がありましたので、女性が事務でない現場での仕事を行うということは、確かに難しかったかもしれません。「イクメン」という言葉が定着した現代では、工事現場の事務所で、慣れた手つきで安全帯を身に纏う女性現場所長に出会うこともあります。
(注)「安全帯」のことを「墜落制止用器具」なんて呼びたくはありません。

でも、だったら女性の方、安全衛生の現場に進出してきて下さいよ。この世界に飛び込むのには、「労働安全コンサルタント」か「労働衛生コンサルタント」の資格を取得することが早道です。私の知合いの福岡の社労士は、この資格がなくても企業から依頼され安全パトロールなんぞをしていますが、それは自他共に認める圧倒的なキャリアがあってこそできることであって、自分の能力を客観的に証明するためには、資格取得が必要です。(もっとも、「資格」だけ持っていても、「経験」がなければ務まらないのは、どこの世界でも一緒ですが)

安全コンサルタント試験には、5つの区分があります。「機械」「電気」「化学」「建築」「土木」ですが、このうちどれかひとつを選択し受験する訳です。衛生コンサルタントは、「衛生工学」「保健衛生」の2区分です。このうち女性が、辛うじているのは「保健衛生」のみです。他の区分では、私が知る限り一人もいません。そして「保健衛生」のコンサルタントで十分な収入を得ている人は、この資格以外に医師や社労士の資格を持っている人がほとんどで、「保健衛生」のコンサルタントの資格オンリーでは収入確保は難しいです。(お医者様は、このコンサルタントの資格を取得すると、「産業医」の資格も自動的に取得できるので、需要が高いのです)
もっとも、他の安全衛生コンサルタント資格と違い、「保健衛生」区分は文科系でも受験可能なので、社労士業務の補助資格として活用するのは、非常に有効です。

理系の女性で、現場仕事の経験のある方。ぜひ、安全コンサルタントか「衛生工学」の衛生コンサルタントとなって下さい。マイナーな資格だけど、ニッチの業界として需要は確実にありますよ。何しろ、私がなんとかなっているんですから

 

大阪労働局の不正

(奥の細道の松尾芭蕉と門人曾良の銅像・栃木県大田原市黒羽、by T.M)

大阪労働局、最低賃金の調査で不正 職員が回答水増し

朝日新聞 20198270530

大阪労働局は26日、最低賃金を決める参考に使う統計調査に不正があったと発表した。零細企業の賃金水準を把握するもので、回答数が足りなかったため少なくとも5年間、担当職員が調査票を水増ししていたという。同日付で職員を停職1カ月の懲戒処分にした。

 この統計は「最低賃金に関する基礎調査」。中小零細企業の毎年6月時点の従業員数や時給などを調べている。労働局によると、資料が残る2014~18年の5年間で、1527件が企業の調査票そのものを捏造(ねつぞう)し、従業員数を書き換えるなどしていた。対象企業の約6%で不正があったとみられるという。

 今年の最低賃金の決定にあたり、過去の調査票に不自然な点があると担当部署が気づいて発覚した。労働局は、不正をした職員を懲戒処分とし、職員の指示を受けて不正に携わった部下を戒告、当時の上司2人を訓告処分にした。

 厚生労働省が実施する労働関連の統計をめぐっては近年、重大な不正が相次いでいる。今回、労働局は記者会見を開かず、処分対象者の性別や年齢も明らかにしなかった。大阪労働局は「最低賃金は様々な要素を考慮して総合的に決めている。今回の不正は引き上げ額には影響していない」としている。

今週は「京浜急行の事故」について、労働安全衛生コンサルタントとして、あるいは同社の通勤利用者として論じようかとも思ったのですが、前述の記事について、元労働基準監督署の職員として書くことにしました。

この問題について書く前に、最低賃金がどうやって決定されるかについて、御説明します。最低賃金法によると。最低賃金は「厚生労働大臣又は地方労働局長が決定すること」になっています。しかし、地方労働局長はむやみに最低賃金を改正できる訳ではなく、「地方最低賃金審議会の意見」の意見を聴かなければなりません。つまり、この審議会で決定された金額が最低賃金額となるのです。

この審査会は、地方労働局の賃金課(現在は賃金室)が事務方となり、毎年6~9月にかけて数回にわたり(最賃が決定されるまで)開催されるもので、メンバーは、労働側委員・使用者側委員・公益側委員の3者構成です。3者の数は同数選任され、労働側委員はその地方で最大組織の労働組合、要するに「連合」系労働組合から選出されます。使用者側は地方の経済団体です。公益側は、大学教授、新聞社の論説委員、弁護士等です。役所は黒子に徹します。

私は、地方最低賃金審議会を直接に見聞したことはないのですが、担当していた者の話によると、各委員は非常に熱心に討論し、熱心すぎて「労働側」と「使用者側」では絶対に意見が一致せず、公益側委員が両者を宥めるのが常だということでした。議事進行は会長(法の定めにより公益側委員より選出)に委ねられているそうです。

さて、この審議会に提出される資料の主たるものは、「賃金構造基本統計調査結果」及びその分析資料です。この賃金構造統計調査について

「本来、個別事業場への訪問調査すべきところを、労働局では通信調査を行っていたという不正があった」

という件について、本年1月に問題となりました。そして、「通信調査」の実態については、このブログの2月3日の記事で、私の体験をお話ししました。また、この件については、「本省も通信調査の実態を知っていた」という新聞発表を2月1日に本省が行い、現在その発表文が本省のHPに掲載されています。

さて、今回大阪労働局で不正行為のあった、「最低賃金に関する基礎調査」についてですが、私はこの調査については知らなかったのですが、地方労働局の賃金課(現在は賃金室)が行うもので、賃金構造統計調査が1年くらいかかって結果を取りまとめるのに対し、その年の6月の賃金の状況をリアルタイムの結果として、審査会時に手持ち資料として委員に提出するもので、審議会に絶対に必要な重要資料だそうです。

私の知合い(某地方労働局の元賃金課職員)に、今回の大阪労働局の不正について意見を尋ねたところ、「通常ではまったく考えられない、不正だ」ということでした。

賃金構造基本統計調査の不正は、調査方法を簡略化するいわゆる「手抜き」ですが、調査結果について労働の現場の実態からの乖離はないと思います。今回の大阪労働局の不正はデータの「捏造」です。この捏造は、最低賃金の結果に影響を及ぼす悪質なものだという、元担当官の見解でした。

彼曰く、さらに悪質なのが、大阪労働局のこのコメントだそうです。

「最低賃金は様々な要素を考慮して総合的に決めている。今回の不正は引き上げ額には影響していない」

金と時間をかけている調査が、本来の目的である「最低賃金の決定」に影響を与えないのなら、「そもそも、そんな調査は辞めてしまえばいいだろ」というのが、元担当官の意見です。私も同感です。

大阪労働局が起こした不正は、真面目に仕事をしている他の労働局職員の業務を汚すものです。全国の賃金室の職員は憤慨していると思います。

これは大阪労働局の体質に関係しているのかもしれません。実を言うと、監督官サイドから見ても、大阪局は少し独特の仕事をしているように思えるところがあります(具体的な事例は、今後披露していきたいと思います)。

不正のないように、職員の業務の見直しを徹底してもらいたいと思います。