旭川イジメ事件

(中伊豆ワイナリーのぶどう畑、by T.M)

文春オンライン4月17日

昨年3月に廣瀬爽彩(さあや 当時14歳)さんの遺体が見つかって1年、そしてイジメを受けてから3年――。世間の注目を浴びた“凄惨なイジメ事件”が大きな山場を迎えた。2022年4月15日、イジメの有無の再調査を行ってきた第三者委員会は「イジメとして取り上げる事実があった」として爽彩さんが受けた「6項目の事実」について「イジメだった」と認定、同日、記者会見を開き、その内容を公表した。第三者委員会から「6項目の事実」について報告を受けた爽彩さんの 母親は文春オンラインの取材に複雑な胸中を冒頭のように語った 。

(以後2021年4月の記事の再掲となる)

イジメ被害者の方の御冥福を祈ります。御遺族の方が、一日でも早く癒されることを祈ります。

旭川のイジメ事件については、何らかの進展があったようです。この問題は、被害者の女子生徒の自殺の後で、学校側が「イジメ」の実態を隠蔽していた等の不祥事が発覚して問題となっています。

私はこの問題について、一番議論されなければいけないことが議論されていないような気がします。それは「教師の労働時間と義務」の範囲です。文春オンラインには、この事件について、次のような記事もありました。

「担任の先生が(爽彩さんの母親からイジメの)相談を受けたときに『今日わたしデートですから、明日にしてもらえませんか』って言ったというのが報道で出ていますよね。小耳に挟んだ話ですけど、先生がお友達にLINEで『今日親から相談されたけど彼氏とデートだから断った』って送ったっていう話をちらっと聞いたんですよ。本当に腹が立ちました。そういうことも言ったかどうか全部はっきりして欲しいです」

 当時の担任教師は前に立っていた同僚の後ろに隠れるようにして、下を向くだけで、一言も答えない。代わりに校長が「いまの質問にここで即答はできない。申し訳ございません。検討します」と答えた。

この記事から判明するように、世間の常識では、「生徒のイジメ相談を無視して、デートに行った教師」を非難するようです。

この事件について、その事実関係は判明していませんが、それがもし事実だったとして、学校側は、職務怠慢として、この教師を処罰できるでしょうか?

労働法の観点から申し上げるなら、この教師は何も悪いことはしていません。勤務時間外なのに、なぜ生徒の相手をしなければならないのでしょうか?

でも、この時点で教師が真摯に生徒の相談に乗っていたら、最悪の結果に至らなかったかもしれません。ならば、「良心のある人間として、すぐに生徒の相談に乗るべきだった」と思う人が大多数であると思います。

だからこそ、「教師の時間外労働と責任の範囲」を「問題として認識」し、解決に向かって動かなければなりません。

(多くの方が、その認識されてなくても、「教師は24時間、生徒のために尽くすべきだ」と考えています。)

これは、学校の管理する立場の者がなんとかしなければならない問題です。私は、人件費が多くなっても、教師の数を増やし、「複数担任制」等を検討すべきであると思います。

このイジメ問題を解決するためには、教師を責めるだけでなく、教育システム全体の改革が必要ではないでしょうか。

ウィル・スミスに思う

(十国峠からの富士山、by T.M)

ウィル・スミス、かっこよかったです。

病気の奥さんを、大多数の前でジョークの種にされたら、誰だって怒るのは当たり前です。ウィル・スミスのことを、私は絶対に支持します・・・

とこう思っていたけど、よくよく考えてみたら、これはそんな単純なことではないなと思いました。何よりもアカデミーが本当に困っているだろうと思います。

もし、頭の禿げている中年男性が、そのことを女性に馬鹿にされたので、その女性をビンタしたとしたら、やはり非難されるのは中年男性ということになります。

ウィル・スミスの奥さんの病気の脱毛症と、男性の加齢によるハゲを一緒にするなという意見もあると思いますが、心を傷つけるのは一緒です。ウィル・スミスに許されて、中年男性に許されないというのなら、論理は破綻していると思います。

私の専門領域の労働問題に話を移します。

「パワハラが横行している職場において、上司の言動に切れて、部下が上司をぶん殴ってしまう」

これって、ぶん殴った部下が懲戒処分にされても、法的には問題ないと思います。例え、そのパワハラの内容が、今回のウィル・スミスの事件のように、部下の家族への耐え難い誹謗中傷であったとしてもです。悲しいことだけど、それが法律の論理です。

酷いパワハラについては、事実関係を明確にして、できれば録音等の物的証拠をもって対抗しなければなりません。「言葉の暴力」はリアルの暴力より軽く見られるのです。

さて、私の体験を書きます。私はハゲです。30代前半から、前髪が段々となくなり、今では数本になりました。完全になくなれば、まだ見ようがあるのですが、数本残っているのが惨めです。私のこの頭髪について、「ハゲ」と面罵されたことが何回もあります。

監督署で、仕事にあたっていた時のことです。相手が事業主であったこともありますし、労働者だったこともありますし、エセ労働組合だったこともあります。言われるたびに、随分悔しい思いをしました。

ウィル・スミスのように、その時ぶん殴っていたら、「公務員が市民に暴力」ということで叩かれていたでしょう。ある意味、ウィル・スミスの奥さんが羨ましく思いえます。

先日、監督官を目指したいという方からメールを頂きましたが、監督官という仕事には、そういうこともあるよということを伝えておきたいと思います。

ある質問

( 江戸時代建立の吉田家住宅 ・埼玉県小川町、by T.M)

さて、多くの企業では4月1日が人事異動。皆様はいかがだったでしょうか。

この季節になると、なぜか「人事」の相談を私にする人がいます。私に人事の相談をする人は、当然その人事に不満を持つ人です。私が元労働基準監督官ということで、労働問題に詳しいと思っているのです。

余談になりますが、「自分はなぜ出世しないのか?」 こんなことを私に尋ねても無駄です。なぜなら私自身が組織の中で、まったく出世しなかった者であり、本省回りの労働基準監督官を除き、労働基準監督官のほとんどの者が最後にはその地位につくであろう「労働基準監督署長」になれなかった者だからです。

(もっとも、退職した後では、「元労働基準監督署長」より前職を生かし「現場の労働基準監督官」に近い仕事をして、それなりの安定した収入を得ているのだから人生は分からない。)

もし、私が「人事」に関して相談に乗れるとしたら、「その人事異動が労働基準法上正当なものであるかどうか」ということに対する意見を述べることです。

今回の相談は次のようなものでした。

相談者は技術系職員。今年64歳となるもので、60歳以降は常勤嘱託として1年更新の契約を行っています。彼は昨年度まで、「教育及び研究」職についていましたが、今年度より、彼の経験を生かした「ISO及びJISの評価員」に任命されました。これを彼は怒っているのです。昨年度までの彼の「研究」は中途半端で終了となるからです。

彼は、私に次のように訴えました。

「60歳の時に『研究職』という辞令をもらった。それが、今回は『JISの評価員』となった。これは問題ではないのか?」

私は答えました。

「それは、単に労働条件が変更されただけだ。労働条件が不利益変更されたというなら問題となるが、『研究職』から『JISの評価員』への変更は問題ない。これが、『単純作業』への変更、あるいは『リストラ目当ての追い出し部屋等』への異動なら問題となるが、今回の異動はあなたのキャリアが否定された訳ではない。」

彼の不満はある意味、とても「贅沢でわがまま」なものなのです。でも、彼がどうしても「ひと言」を人事に言いたいみたいなんで、次のようなアドバイスをしておきました。

「研究職の場合は残業代がつかなくて、『給料の16%にあたる研究職手当』が支払われていたはずだ。審査員になったら、残業代がつくかわりに、その手当がなくなる。これは不利益変更と主張できる可能性がある」

まあ、無理でしょうけど・・・。ただ、文句は言えるのではないかと思います。

会社員である限り、「職種の変更」については、基本的に異議はできません。「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」等の議論はあるようですが、雇用に安定性を求めるなら受け入れるべきです。

ただ、見逃されがちですが、「職種の変更に伴う、賃金・労働時間等の不利益変更」については争うことが可能です。なにに文句を言えて、何は受入れなければいけないのか。会社に文句を言う前に、冷静に考えて見る必要があります。

つながらない権利

(伊豆市・梅木発電所導水橋、by T.M)

たいへん興味深い記事がyahooニュースに掲載されていました。長い記事だったので私が要約したものを紹介します。

DIAMOND ONLINE 3月21日

1. 今さまざまな国で「つながらない権利」が注目されています。「つながらない権利」とは、勤務時間外に仕事やメールの連絡が来た場合に、労働者がその応答を拒否できる権利のことをいいます。フランスでは2017年法制化されその後イタリアやメキシコでも法制化、アジアにまで法制化を検討する動きが広がりつつあります。もともと通信技術の発達により議論が進んでいた中で、コロナ事情によりテレワークが浸透したこともつながらない権利に対して議論が進んだ要因といえるでしょう。

2.「あの件どうなった?」

 食品メーカーに勤務する佐々木さん(仮名)は、休日の家族とのランチ中に上司から入ったLINEに困惑したといいます。

 佐々木さんは、どうなったと聞かれても資料を確認しないとわからないし、実際に家に戻ってLINEを返したところ、調べて返すまでに1時間弱かかったというのです。

3.つながらない権利が法制化することで考えられることの一つに、企業のサービスの低下が考えられます。イージとしては、携帯電話が普及する前の時代に近いでしょうか。メールや電話などの連絡が取れないことで業務を進めることができず、翌日以降に持ち越されてしまうことが想定されます。持ち越せるものであればよいのですが、今までなら対応できたことが「本日は担当者が不在にしておりまして…」と遅れてしまうケースや、クレーム対応が迅速にできなくなる可能性があるでしょう。

4.つながらない権利をめぐってはさまざまな事情があり、海外では法制化される動きが広まりつつあります。今後、日本でも本格的につながらない権利の法制化が検討されることも、ないとはいえません。今からつながらない権利への対応を始めておくことは、今後の働き方を見直す意味でも有用といえるでしょう。

5.テレワークが定着する中で、厚生労働省から2021年3月に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下ガイドライン)が公表されました。つながらない権利に関係するところでは、ガイドライン内で以下のように記載されています。

「・時間外、休日又は所定外深夜 (以下「時間外等」という。)のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価とはいえない。

・テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。」

ざっとこのような記事ですが、これはたいへん難しい問題だと思います。

まずは基本的には、「つながらない権利」は、「当然の権利」だと思います。仕事の連絡を時間外にしてくる方がおかしいのです。会社等からのメール・LINE等は時間外は無視してかまわないし、また「しないことがマナー」という一般常識を徹底させるべきでしょう。

でも困るのが、「事故対応時の連絡」。東日本大震災の数か月後まで、某電力会社では職員に対し、次のような業務命令を出していたという噂を聞いています。

「休日であっても、県外に行ってはいけない。会社からの緊急連絡に対処できるようにしておいてくれ」

この業務命令が事実であったなら、明らかな労働基準法違反です。でも、あの時の状況では仕方がなかったのかなとも思います。

この「つながらない権利」と「緊急連絡」の問題を解消する方法は、私は「労働」という概念を再検討することではないかと思います。すなわち、

「時間外の会社からのメールを受取った場合、それを読む時間が例え数十秒であったとしても、それは『時間外労働』となる。メール対処に費やした時間にはすべて残業代が支払われるべきである」

このような考えを徹底すべきだと思います。

上司は、時間外に部下にメールを送付する時は、「残業を命令している」という意識を持つべきです。

こんなメールがきました

(西伊豆・土肥桜、by T.M)

こんなメールがきました。年寄に質問のメールとはありがたいばかりです。

私は新卒で賃貸のリフォーム会社に就職し、約2年働き、昨年4月に早期退職しました。

現在は病院で清掃のアルバイトをしながら、労働基準監督官を目指しております。

監督官の仕事について深く知りたいと思い、情報収集していたところ、

おばら様のブログにたどり着き、拝見致しました。

それでさらに、こんな質問も来ました。

昨日ご連絡させていただいた××です。

ご返信頂き、ありがとうございます。

下記の点について、ご教示頂けますでしょうか。

①        監督官は労働者を働く人を守る立場にありますが、労使双方の観点から、法に基づいて「中立」な対応が求められている事を強く感じました。

仕事をする際、この「中立」の意識はどうすれば保てるものでしょうか。

②        正義感や責任感、情熱を持ち、冷静に対応できる方が監督官には向いており、

実際に監督官として働いている方、適性のある方もそのような人物だというイメージがあるのですが、小原様のご経験上、実際に働いている方の役に立てている方はどのような特徴がありますでしょうか。

③        監督官として働きだす前に、日常から意識しておくとよい事や意外とこのような事も大切だという事があれば教えて頂けますと幸いです。

①が一番お聞きしたい質問です。先日、ある労働局のWeb説明会がありました。

一方への肩入れはいけない。「労働者を守る」という意識が監督官になる前は強かったが、きちんと使用者の意見も聞き、中立の立場から対応しないとならない部分が監督官としての良い部分であり大変な事の一つだと伺いました。

  双方の意見を中立的な観点から考え、出来る限り公平に対応する事が大切なことは    分かったのですが、歯がゆい思いをする事が何度もあるのではないかと感じています。本当は労働者の方を優先したい…など。

中立の立場を保ち続けるには、普段からどういう心持ちでいる事が大切でしょうか。

私は、「先入観を持たずどんな事でもまずは経験してみる、そのあとで結果が分かる。」ということを普段から大切にはしているのですが…

それでこんな返事を書きました。

分かる範囲で質問に答えます。

①監督官は労働者を働く人を守る立場にありますが、労使双方の観点から、法に基づいて「中立」な対応が求められている事を強く感じました。仕事をする際、この「中立」の意識はどうすれば保てるものでしょうか。

「中立」という言い方も、ちょっと語弊を招くような気がします。監督官の仕事というのは、要するに

「労働基準法、労働安全衛生法に違反している事業場に法規を守らせる」

ということです。そのために、調査権限、司法警察権限が与えられています。それ以上でも、それ以下でもありません。

労働基準法等は労働者の保護法規ですから、監督官の仕事をしていたら「結果として、労働者の立場に立っていたケースが多い」というだけです。

逆に、法に規定されていないことは一切できません。そのことで、「労働者の期待を裏切る」ケースも多々あります。

仕事のモチベーションと、仕事の立ち位置は区別しなければなりません。

②正義感や責任感、情熱を持ち、冷静に対応できる方が監督官には向いており、・・・

どんな者が監督官に向いているかなんては、答えられません。

組織の中で「こいつは優秀な奴だ」と思われていても、労働者や事業主から「保身だけの奴」と馬鹿にされていることもありますし、その逆もあります。

私自身は、「仕事を好きになる奴」「仕事に誇りを持てる者」が仕事に向いている者だと思いますが、じゃあどんな者がそういう奴だと尋ねられと少し困ります。

結論から言うと、「なってみなきゃ分かりません」ということです。

私自身は、「人のためになっている」「色々な職場が見れて楽しい」ということで、けっこう仕事は好きでした。

③監督官として働きだす前に、日常から意識しておくとよい事や意外とこのような事も大切だという事があれば教えて頂けますと幸いです。

あなたは今、監督官試験に受かることだけ目指して下さい。すなわち、受験勉強だけ意識して下さい

「私は新卒で賃貸のリフォーム会社に就職し、約2年働き、昨年4月に早期退職しました。現在は病院で清掃のアルバイトをしながら、労働基準監督官を目指しております。」

あなたのこの経歴で、監督官の資質は十分あると思います。

あなたがA監督官(法文系監督官)を目指しているのか、B監督官(技術系監督官)を目指しているのかは分かりませんが、A監督官は「技術的なこと」に、B監督官は「法律的なこと」に勉強不足を必ず感じます。

でも、そんなもの3年もたてばなんとかなります。

本で得られる知識なんて、しゃせんそんなものです。

本当の勉強は、体験から得られます。そして今、あなたはその体験をしています。

ぜひ、あなたのような経歴の方が監督官になって欲しいと思います。

こんな返事でよければ、いくらでも書きますので、何か質問ある方は私にメールを下さい。

お待ちしています。