悪徳コンサルタント(2)

ケン・ローチ監督作の「家族を想うとき」を観てきました。ハッピーエンドで終わらないと聞いていたもので、観るのを躊躇していたのですが、労働問題で今後も情報を発信していく者としては外せないと思いました。やはり、素晴らしい映画でした。

テーマは「家族」ですが、その背景には「個人事業主」として宅配便の配達事業に雇用された主人公(父)が、過重労働のために「家族を想うとき」を失くしていく姿を描いています。

現在の日本でも、労働者が「個人事業主」となり、悪質な環境の中で働いていることについては、このブログでも度々取り上げてきました。その手の話で、最近話題なのは、「フランチャイズ制のコンビニのオーナー」でしょう。もっとも、私の知る限り、コンビニのオーナーには「労働者でなく完全な経営者」もおり、「成功」し「富裕層」なる者も一定の割合でいますので、本来の意味のフランチャイズ事業主なのかもしれません。(どう見ても「労働者」であり、「搾取」されている者もいます)

問題は、この映画のように「宅配事業」に携わる「個人事業主」です(「ウーバー・イーツ」も含みます)。労災が発生しやすい業種である運送業において、労災事故を起こしても何の補償もなく、仕事を空けたことによって賠償金を請求されます。この映画の中においても、主人公が配達する荷を狙った強盗におそわれ、ケガを治療する病院で、雇用主(仕事の発注者)から、貸し出している会社の備品が壊れたことに対する損害賠償の請求がなされます。この映画のケースは、明らかに労災ですので、解雇制限があり、主人公の方から会社に対し安全配慮義務を果たしていないということで、逆に損害賠償の請求も可能となります。

さて、現在の日本でこの映画の主人公のように困窮している方がどのくらいいるのでしょうか?アマゾン、楽天、yahoo等の通信販売の隆盛により、地方のデパート等は閉鎖に追い込まれていると聞きます。しかし、古い産業が滅び、雇用先が減るのであるなら、新しい産業が勃興し、そこに雇用が発生するはずです。どう考えても、その新しい産業とは、通販の柱である「宅配便を中心とした運送業」と「倉庫業」となるはずですが、そこで働く人々が「個人事業主」として搾取されるのであるならば、何か違うような気がします。

そのような、「個人事業主」を柱としてある大手通販会社の荷を取扱う東証1部の運送会社が、5年で株価が10倍となっていることは以前もこのブログで書きました。その会社は、今年も株価を年初から年末までに約1.5倍としています。おそらく来年も株価は伸びるでしょう。その会社の内情はまったく私は知りませんし、とてもいい会社なにかもしれませんが、私はこの会社の株を買う気にはなりません。

もっとも、ならば「お前は、楽天・アマゾン等から何も買うな」と言われても、困ってしまう現実があることも事実です。

前回のブログでお約束した「悪徳コンサルタントの言い訳」は今週書けませんでした。いい映画を観ると熱くなってしまいます。次回書きます。

それでは皆さま、良いお年をお迎え下さい。

 

 

悪徳コンサルタント(1)

(平家落人の里・湯西川温泉,by T.M)

ヤッター、年末に重なっていた仕事がようやく終わりました。
先週2日続きで、ある労働安全衛生法の「法定研修」の講師を勤めたのですが、とてもきつかったです。「安全講和」なんて依頼された時は、好き勝手なこと話せるんで楽なんですが、「法定研修」となると、受講生に単位を与えなければならず、自由に自分の意見を言う分けにいかず、神経を使うんです。
年内に残っている仕事は、24日の安全診断のみ。先週、急に上司に行けと言われた案件です。この年の瀬に「安全診断」を依頼してくるとは、なにか労働安全で切羽詰まった問題でもあるのかと気になりますが、診断は「教育」よりも、私は自信があります。

ブログを休んでいた時に、
「もし、私が悪質コンサルタントならどうする」
こんな企画で今後ブログを書こうかなというアイデアが湧きました。
私は労働基準監督署の現場で、様々な事案について、無茶苦茶な論理を主張する人たちと対応してきました。そんな人たちを真似して、私が悪徳事業主に代わって、監督署を困らせる発言をしてみようという企画です。

さてそんな訳で今回は、
「もし悪徳コンサルタントが、センブンイレブンの残業代不払事件をもみ消そうとしたらどうするか」
といったシュミレーションで、記事を書いてみたいと思います。

セブンイレブン残業代不払の事件の経緯を少し書きます。
① セブンイレブンで残業代不払が発生した。
② 理由は、本社の賃金の計算プログラムがそもそも間違っていたこと。
③ セブンイレブンの各店舗(フランチャイズ店)は、本社にアルバイト等の賃金計算を任せていたために、各店舗で残業代未払が発生してしまった。
④ 同社が把握している対象者は3万405人、金額は約4億9000万円に上る。中には、7年9カ月分として約280万円の未払いが発生しているケースもあるという。
⑤ この賃金未払は、過去20年以上続けられていた。
⑥ セブンイレブン本社は、各店舗のミスでないため、この費用弁済はすべて本社で行うこととした。(労働基準法上では、このような場合でも賃金不払いの責任は、アルバイト等を雇用した、フランチャイズ店の経営者にあるとしています)
⑦ 今回の事件は、労働基準監督署からの是正勧告から発覚した。
⑧ 残業代の不払いの実態は、セブンイレブンは次のように発表した。

私が、この事件を聞いて最初に思ったことは、
「えっ!俺って、現役監督官だった時に、もしかしてセブンイレブンを臨検監督したことあったかな?」
ということです。つまり、もし自分が臨検監督をしていたのならば、「どうして俺は、この違反を発見できなかったのか」という、自分の能力と仕事への誇りに対する疑念を持つからです。

という訳で、私の記憶を辿ってみましたけど、「セブンイレブン」には臨検監督はしていないと思います。他のコンビニ相手に、本社とあるフライチャイズ店を相手に大揉めしたことがありますが、「セブンイレブン」相手にはありません。正直ほっとしています。
コンビニ店舗は、「最低賃金監督」でもっとも臨検監督されやすい業種です。この問題発覚前に、日本全国の監督署では、毎年必ず、どこかの「セブンイレブン」の店舗を臨検監督をしているはずです。なぜ、今回の問題発覚まで誰も気付かなかったのか・・・
どこの誰か分からないけど、この問題を発見した「監督官」様、あなたは本当に偉いと思います。諸先輩が見逃していたものを、よくぞ発見してくれました。素晴らしいです。

さて、この問題は「単純な数値の入力ミス」といった問題のようですが、これを「セブンイレブン」のような間違いをみとめる企業でなく、ブラック企業に依頼された悪徳コンサルタントならどのように言い訳するでしょうか。
私がその立場なら、「この計算式は間違っていない。正しい」と開き直ります。その根拠としては、「労働基準法のコンメンタール」を引用します。

(続く)