マクロナルドの残業代(2)

文春記事によるマクドナルド社の話の続きです。福島県と栃木県でマクドナルドを8店舗運営するフランチャイジー「K」という会社のことです。

この会社は残業が多いとボーナスが減額されるそうです。上記の切り抜きは、社員に渡されたボーナスの支給基準書の一部だそうです。このボーナスの支払い方法がおかしいとして文春は問題としているのです。

ようするに、ボーナスの算定期間中に「ひと月平均20~25時間残業するとボーナスが月給の0.1ケ月分減額」「25~30時間残業で0.2ケ月分減額」「30時間以上残業で0.3ケ月分減額」だそうです。

残業代の主旨からするとおかしな話に思えるのですが、労働基準法違反かと言われると、けっこう難しいところがあります。なぜなら「ボーナス減額」ではなくて「時短奨励金の支払い」であると思うと合法なような気がするからです。上記の支給基準の表現方法を次のような変えてみます。

「30時間以上残業で通常支給」

「25~30時間残業でプラス0.1ケ月分」

「20~25時間残業でプラス0.2ケ月分」

「それ以下の残業時間でプラス0.3ケ月分」

これなら違法状態ではないと思います。

実際、このような評価をしている企業も多いと思います。私のいた労働局自体がこのような人事評価をしていました。職員一人一人が、「自分は残業時間をひと月〇時間以内にします」と目標設定するのです。それがクリアできれば高人事評価です(当然、ボーナスにも影響します)。役所がこんな人事評価をしているのですから、民間企業が上記のようなボーナスの算定基準をしていることは仕方ないのかもしれません。

そうは言っても、ここまで露骨に「残業をしたらボーナス減額」という制度を採用している事業場はやはりないのではないかと思われますが、タクシー会社の賃金体系なんてもっと露骨なところがあります。

以前にこのブログに記載したこともありますが、タクシー会社の賃金体系は、労働時間に関係のないオール歩合制です。タクシー業界には政党をバックにした2大労働組合がありますが、労働組合もこのような賃金体系を容認しています。すると、毎月の賃金の「残業代の取扱い」について、労働基準法違反がでてきてしまうもので、賃金台帳には毎月残業代が支払われているように記載して、ボーナスで調整してオール歩合給に直してやっているのです。ですから、タクシー会社のボーナスは年4回くらい支給されているところが多いです。

さて、話を文集記事に戻します。この記事に頭を悩ませているのは、多分所轄労働基準監督署でしょう。「労働基準法違反」となるか、局をとおして本省と協議をしているのではないでしょうか。早期に結論がでることを祈ります。

残業代未払

(野毛山動物園のレッサーパンダ、by T.M)

実業家のひろゆき氏が、2月12日にTwitterに投稿した内容が波紋を呼んでいる。

「うちの会社はギリギリの経営なので残業代は払えないです」と言う会社は潰れた方がいいです。給料をきちんと払わない会社が価格競争をすると、まともに給料を払う会社が負けて潰れます。ブラックな会社が潰れるとまともな会社は売り上げが増えて昇給や研究開発や投資がしやすくなります。

 この発言は、現在までに3.5万もの「いいね!」がついている。

「ひろゆきさんの『残業代が払えない会社は潰れた方がいい』という発言は、残業の未払いやサービス残業が社会的に大きなテーマとなるなか、『我が意を得たり』と思った人が多かったのでしょう。

これは、ひろゆき氏は良い事をいいますよね。現役の監督官では言いたくても言えないことです。退職した監督官である私なら言えます。「100%、ひろゆき氏に同意します。」

でも、世の中ではブラック企業の方が蔓延るんです。

売上から一定の経費(燃料や修理代、会社の事務費用、制服代など)を差し引いたものが給与というリース契約のような賃金体系を採用したタクシー会社(当然、残業代ナシ)、

労働契約でなく委託契約として実質残業代を払わない運送会社、

従業員を過労死するまで追い込んだ、カリスマ経営者のいる居酒屋グループ、

ワンオペ体制で長時間労働が続き、申告が続いた牛丼屋等々、

ひろゆき氏の言葉を借りると、「まともに給料を払っている会社」ではない会社が大きくなっています。もっとも、私が挙げた会社は大きすぎて、潰れてしまったら働いている人や関連会社もなくなってしまうし、いい方にと改善して欲しいのですが・・・

さて、私もひろゆき氏のように、つぶれて欲しい会社があります。それは、外国人技能実習生を「技能を学ばせない」で「単純労働」に使用して低賃金しか支払わないところです。外国人労働者を認めるならば、そのように法整備をすれば良いのに、いつまでも「技能実習生」という中途半端な制度を続ける国に対しても、怒りを感じます。

国立病院機構について

(国立病院機構の退職意向アンケート、文春オンラインから引用)

文春オンライン 2月8日

独立行政法人・国立病院機構東京医療センターで、看護師の大量退職が起き、医療現場が危機に陥っていることが「 週刊文春 」の取材でわかった。看護師への処遇を巡っては、労働基準法違反違反の疑いがかかる複数の事例があるとの証言も得られた。看護師らが取材に応じ、内情を明かした。

(略)

「勤務はいまだに『ハンコ』で管理しています。始業は8時半なのですが、勤務の始まる30分前には出勤して、患者のデータを読み込まないと対応ができません。でも、この時間は『残業代』が払われないのです。そもそも残業は、自分で申請することができません。リーダーに『〇時間とりたい』と事前に申請する仕組みで、通れば残業としてもらえますが、『仕事が遅いからでは?』などと言われてしまい、簡単にOKがでない。結果としてサービス残業も横行しています。」

(略)

 それだけではない。同センターの元看護師によると、「退職のタイミングは年に一度しかない」と嘆く。

「毎年1月に、『来年度末までの退職希望の有無』を回答する紙が配られる。それを逃すと、その後、1年は申し出てもすんなり辞められなかった」

今年になってから、私の所属する組織で、上司である所長と3回の面談を行いました。来年度の私の処遇についての話し合いです。私も65歳となり、4月から非常勤嘱託となるので、労働条件の切り下げはやむを得ません。そのことに腹が立ちましたが、所長が丁寧に接してくれ説明してくれましたので、最終的に納得し次の人生のステージに進む覚悟ができました。人事というのは、とても難しいと思いますが、最後に人を動かすのは誠意だと思います。

さて上記の記事についてですが、さすが文春さんです。良い記事を書いてくれました。同記事については思うところがありますが、退職希望の有無を回答するこのアンケートは、さすがにダメでしょう。「予定外の中途退職のないように熟慮の上お答え下さい。」って、どこまで上から目線なんだと思います。こんな文書を配布された時点で、腕に覚えのある再就職に自信のある看護士は辞めてしまうでしょう。

労働の現場で上司・部下の関係はあっても、労働契約の締結については労使対等です。それが理解できない管理者では、組織は維持できません。

気分良く働けるかどうかは、意外に管理側の何気ない気づかいにあるのです。

派遣労働者と安全管理(2)

(川崎市夢見ヶ崎動物公園のフラミンゴ、by T.M)

つも写真を提供してくれている、T.M氏がなんとコロナ陽性となってしまいました。熱等はないそうです。早く良くなってね!

さて、今日も派遣労働の問題点についてです。先週、お話したように派遣職員の安全管理の件でなぜ現場で浮いてしまうのか、その構造的な理由を考えて見たいと思います。派遣職員が企業の安全管理組織からはじかれてしまう主な原因は、安全衛生委員会の労働者側委員の選出に参加できないことです。

安全衛生委員会とは従業員50人以上の企業がひと月に1回以上開催しなければならない、労働安全衛生に関係することを議題とした委員会です。

(注)業種によっては、安全衛生委員会ではなく衛生委員会となる。

この委員会は、事業場のトップである社長や工場長等が議長を努め、会社側委員と労働者側委員を同数として運営されます。労働者側委員としては過半数組合が存在するなら労働者側委員の選出については問題がありません。組合推薦の者を労働者側委員とすれば良いのです。

やっかいなのは、労働組合がない場合です。この場合は選挙で労働者代表を選出し、その人の推薦を受けた者が労働者側委員となります。この労働者代表を選出する選挙に、本来派遣労働者が加わらなければならないのに、ほとんどの企業では派遣労働者は加われません。

これは会社側が意識して意地悪をしているのではありません。勘違いされているケースも多いのです。

この、安全衛生委員会の労働者側委員を決める労働者代表は、時間外・休日労働協定(労働基準法36条により定められている協定なので36協定と呼ばれる)の労働者代表を兼任することが多いのですが、36協定の労働者代表選挙には派遣労働者は加われません。

つまり、会社側としては、労働者代表を選出しなければならない労働法関係の手続きとして、「①36協定の締結」、「②安全衛生委員会の労働側委員選出」の2つがあるんですが、多くの企業では、この2つの手続きの労働者代表を同一人物としてあります。そして、①については派遣労働者を含めてはいけなくて、②については派遣労働者は含めなればならないんです。そして、多くの企業が「労働者代表選出」みたいな面倒な手続きは1回ですませたいものなので、派遣社員を抜いて労働者代表を選出してしまうのです。

こんな状況ですから、労働の現場ではなかなか派遣労働者の意見は安全衛生委員会に反映されないので、先週お話した山上容疑者のような事件が起きてしまうものと考えます。

これ、派遣労働者にとっては結構重要な法違反だと思います。

また、「36協定の労働者代表」選挙を、派遣元が実施し、雇用する派遣労働者すべての意見を聴かなければならないのに事実上できません。従って、派遣労働者は実態として自分の労働時間についても、意見を言うことはできないのです。これは大きな問題なんで、また後日します。

来週は正月休みで更新しません。1月6日に歯根端切除という簡単な手術するので、1月8日も更新できません。

再開は1月15日からです。

それでは皆様、良いお年をお迎え下さい。T.M氏、早く良くなりますように。

派遣労働者と安全管理

(奥武蔵の古民家、by T.M)

先週に続いて、派遣労働者のことを書きます。

安倍前首相を殺害した山上容疑者は、以前派遣労働者としてフォークリフトの運転をしていたそうですが、そこの派遣先で、派遣元の従業員に対し、「オマエラの仕事のやり方は間違っている。オレの仕事のやり片は正しい」と主張し、会社を退職したそうです。

製造業等の工場が派遣労働者を受け入れると、とても安全管理が難しくなります。これは、派遣労働者が悪い訳ではありません。相互の理解不足が問題なんです。

ちょっと話題を変えるのですが、労働基準監督官で偉くなった人が大きな建設会社に再就職するなんていうケースがけっこうあります。でも、そういう人って、「何の役にも立たない」って、再就職先から陰口を叩かれていることがよくあります。

監督官に建設現場の4S(整理・整頓・清潔・清掃)は分かりません。分かるのは法違反の有無だけです。だって、それしかやってこなかったから・・・

ハインリッヒの法則というものがあります。「1:30:300」です。大きな労働災害が1件起きる時は、30件の小さな災害が発生してして、その下には300件のヒヤリハット災害があるという法則です。(因みに、ハインリッヒさんとは、100年前の米国の保険屋さんです。自分のところの、保険の収支率を計算していたら、この法則に行きついたそうです。)結論としては、「大きな災害を防止するためには、事業場内にある無数の不安全状態、不安全行動をなくせば良い」ということになります。

その「無数の不安全状態、不安全行動」を無くす手段が4Sとなるのです。

労働基準監督官が4Sの指導ができないということは、すなわち4Sの基準がないからです。法違反の有無を確認するのは簡単です。しかし、4Sがなされているかどうかの判断は非常に難しいものです。

私が経験した中で、4Sが一番徹底されている事業場は、労働集約型産業でない製造業です。逆に悪いように見える所はどこかと聞かれれば、スーパーマーケット等のバックヤードです。スーパーマーケットのバックヤードは非常に衛生的で清潔ですが、整理・整頓はできていません。例えば、物品を入れていたダンボールの空き箱等について、労働集約型産業でない製造業ではすぐに片づけられますが、スーパーマーケットのバックヤードでは隅の方に重ねておかれて重ねられています。でも、それでいいんです。

4Sとは業種や事業場によって、基準が違うものなのです。万能の業種の4Sに通じている者などどこにもいないのですから、大事なことは、事業場ごとに4Sの基準を定め、それを遵守することなのです。

さて、冒頭の「派遣労働者を受け入れると、とても安全管理が難しくなる」ということについて説明します。製造業の派遣労働で働く人は、経験があればあるほど、自分自身の中に4Sの基準ができています。それが新しい職場に行くと、別の基準を示されるので、ぶつかってしまうのです。

もし、4Sの基準が高い派遣社員が低い事業場に派遣されれば、「何てだらしない事業場だ」と思うでしょうし、低い派遣社員が高い事業場に派遣されれば「細かいことばかり言うな」ということになります。

職場なんて人間関係の要素が強いですから、このようなことからこじれると、最悪の結果になってしまいます。

この件について、まず動くべきは、やはり派遣先の事業場です。違った経験のある職員から色々学ぶべきでしょう。

ただ、問題として、派遣社員の意見が上がる場がないということがありますし、それは構造的な法違反からそのような状況となっている場合もあります。

それは次回書きます。