表彰のこと(7)

CA3I1050
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(M氏寄贈)

表彰のことを大分長く書きすぎたので、今度の話で最後とします。
私が表彰の件でいい仕事をしたなと思うのは、表彰のことなど何も知らなかった監督官6年目で、宮城労働局の古川署に勤務していた時の出来事です。

一般的に署の労働基準監督官は表彰関係の仕事はしません。方面主任もしくは課長以上のもので対応するのが慣例だからです。だから、その時私は表彰制度というものを全く理解してなく、無知でした。

ある日、表彰担当の課長から、管内の工場等を監督する監督官として、何か安全衛生の良い事業場について心当たりはないかと、尋ねられました。表彰対象が、見当たらないというのです。

その頃はバブルの最盛期で、景気はとても良かった時期です。古川市(現在の大崎市)はアルプス電気やYKKといった大企業もいくつかあり、その関連企業も多数所在しました。私は、月に10件程度のプレス機械加工を代表とする金属加工業や電気機械部品製造業の臨検監督を実施していました。当時のプレス機械は、今では当たり前となった安全プレスは少なく、ピンクラッチが主体で事故も多発していました。また、プレス屋さんには、アーク溶接・ガス溶接・金属研磨等の作業が付随することが多かったのですが、授業員10人未満の零細企業では、安全設備に費用をかけることもなく、堆積粉じんで床が真っ黒な工場も少なくありませんでした。そしてそんな事業主相手に安全設備設置を指摘する私は、よくトラブルを起こしました。

工場を多数臨検する中で、ひとつ驚いた工場を見つけました。従業員7人の工場ながら、プレスの安全装置は完璧で、研磨装置1台1台に局所排気装置が設けられ、工場床は光るように清潔でした。そこの社長さんは、何年か前に職人さんから独立した人で、汚い工場が嫌いで、ともかく清潔な工場としたので、結果的に安全設備に金をかけることになったと話していました。

表彰のこと(8)

CA3I0655
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(M氏寄贈)

私は、課長から依頼のあった「安全衛生の良好な会社」に、この会社を推薦しました。課長は、従業員7人ということで驚きました。過去にそんな小さい会社を表彰したことがないのです。

推薦には、強度率や度数率といった数字が問題となります。(度数率は延労働時間数100万時間に何件災害が発生したかを表し、強度率は延労働時間数1000時間に対し労働災害損失日数が何日かを表します。)しかし、従業員7人の事業場では、年間総労働時間数が15000時間前後なので、度数率も強度率もあまり意味をなさないのです。つまり、零細事業場では、どんなに安全管理が悪くても、数年間は事故がないのが当たり前で、私が推薦する事業場がどんなに素晴らしくても、それが客観的な数字となって表れないという理屈になるのです。

私は自分が臨検に回った事業場の中で、その会社が他の会社と比較し安全設備に費用をかけていたことを説明し、社長さんがどれだけ工場で事故が起きないように努力しているかを力説しました。結局、課長が一緒にその工場に行って調査してくれることになったのですが、経験豊かな課長もその工場のファンとなってくれました。そして、署の推薦として局に表彰候補としてその事業場を挙げたのですが、やはり、前例がないという理由で、局には署の推薦は通りませんでした。

その時に、当時の古川労働基準監督署長は、職員が数度その事業場を訪問し、その工場の努力と結果を確認しているので、なんらかの表彰が必要と考え、署の関係公益社団法人の労働基準協会が表彰するよう手配してくれました。

労働基準協会の表彰式は署の会議室で行われました。出席者は署長と課長と私、そして労働基準協会の事務局長の4名でしたが、地元の新聞社が取材に来てくれました。
表彰式に出席した社長は、その後で、新聞社の写真撮影を受けました。その時に、盛装した社長がガチガチになっているのは、傍で見ている私にも伝わりました。そして、社長は私たちに対し、何度もありがとうございましたと言って、頭を下げました。
翌日の新聞には、「ゴミひとつ落ちていない清潔な工場」の説明文と社長のこんな言葉が載っていた。「当たり前のことをやってきただけなのに、表彰されて驚いています。」

私は若さゆえ、前例にないことをしてしまいましたが、この時の表彰式での社長の顔を思い出すと、いい仕事をしたなと思います。

万葉集と申告(2)

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(頂きものの画像です)

労働者が急に退職し、会社に損害を与えたというケースの考え方は次のとおりである。
①賃金は全額、支給日に支払われなければならない。
②「会社に損害」を与えたというなら、会社は労働者のその行為によって、ⅰ)「いくら損害を被ったかの金額」の特定、ⅱ)前述の金額と労働者の行為との因果関係の立証を行ない、ⅲ)労働者に請求しなければならない。そして、その金額を労働者が同意するのなら、労働者が支払わなければならない。もし、労働者がこれに納得しなければ、第3者にその会社の主張の理非を尋ねなければならない。つまり、民事事件における裁判所の介入である。
③労働者が合意しない限り、「確定した債権の賃金」と「未確定な損害額」の相殺はできない。
④悪質な、事業主による労働者の足止めのための嫌がらせは、すべて労働基準法違反である。例えば、あらかじめ預かり金を徴収しておいてそれを返還しないとか、退職を認めないとかの主張は、すべて無効である。ただし、ⅰ)予告なく退職し、それが就業規則で定める制裁規定に反していた場合は 日給額の半額までは減額できる。ⅱ)賃金の締切前に辞めたことを理由に、「皆勤手当」の支払拒否はできる

労働者が本当に悪い場合もある。経営者がこれじゃ給料を払いたくないなと同情することも労働基準監督官としてはある。例えば、私が経験したことだが、飲食店(レストラン)での話だが、コックがパーティの1時間前に事業主とケンカをし、職場放棄をしてしまったため、結局店が信用を落とし、経営が傾いてしまったことがある。
これなんぞ、明らかに裁判をやれば店が勝つが、それでも給料日は所定支払日に全額支払われなければならないのだ。

今回、賃金不払いの申告のあった鎌倉の料亭は、過去に労働者による申告は1件もなかった。つまり、少なくとも過去においては、労使間のトラブルはなかったと推定される。
さて、どんな事情があるのかと、私は未処理の申告処理台帳を眺めた。