解雇予告除外認定

(by T.M)

会社内部の同郷の者同士の飲み会で、A労働者が酔って後輩のB労働者をなぐってしまったところ、A労働者は全治2週間のケガを負い、翌日から会社を休業してしまった。トラブルの原因は、A労働者が日ごろB労働者のことを「年上を敬わず、生意気だ」と感じていたからである。

さて、この事件は「日馬富士」と「貴の岩」の話です。もし、この2名が「労働者」であった場合、貴の岩のケガは、労働基準監督署長は労災認定するだろうかと考えました。純粋に事業場外で行われた私的行為の飲み会のようですし、業務起因性はないと思いました。しかし、自分の判断に自信がなかったので某労働局の某署の現職の労災担当官に意見を尋ねました(彼は、変人ですが、こういう場合の判断は間違いません)。すると、意外なことに「これは、絶対に労災になる」と断言してくれました。なんでも、今の世の流れで、このようなケースは「労災」にしないとまずいらしく、PTSDが発症し治療が長引くケースもあるそうです。

労災認定の判断基準とは、膨大な「前例」の体系化であると考えれば、これは理解できます。そういえば、部下が上司を「刺し殺した」労災事件の災害調査を、私はしたことがあります(もっとも、それは業務起因する上司の言動が犯行の原因でした)。

こういうケースが「労災」であるなら、「事業主」は再発防止にどんな手段をとれば良いのか、難しいところです。

この事件を別の側面からも考えてみました。A労働者の「解雇予告除外認定」が事業場から申請されたら、自分としてはどう判断したでしょうか。

 (注) 解雇予告除外認定申請とは、労働基準法第20条に基づく申請。労働者を即日解雇する場合は、事業主は平均賃金30日分を労働者に支払わなければならないが、労働基準監督署長に、その解雇が「労働者の責によるもの」であることを認定してもらえば、それを支払わなくてよい。よく誤解されるのだが、この認定処分は、「解雇の妥当性」を監督署が判断するものではない。

これは、とっても悩むと思います。「酒の上のケンカ」であるのか「職場でのイジメ」であるのかの事実関係の特定がまずは重要です。そして、最後は被害者(B労働者・貴の岩)の「処罰への意見」を参考にして結論を出します。まあ、「本人同士が丸く治めよう」という気があれば有耶無耶にできる事案でもあります。

ここまで書いて、思いました。貴乃花の現役引退は2003年の初場所で、白鵬の入幕は翌年の初場所だそうで、すれ違いということです。名横綱2人の「土俵上での戦い」を観たかったと思います。

ブラック企業の逆襲

(by T.M)

足袋を製造している会社が、商品の社会的な需要の先細りに対応するため、スポーツシューズの製造販売を新たに行うこととした。主力商品の関連事業とはいえ、新規開発は困難を極め、社長は必死に努力するが、労働者には「長時間労働」を強い、その分の「残業代」さえ支払えなかった。そして、「残業代」のことが、経営者と労働者の間で話題になると、経営者はこう答えた。「それを払ったら、ウチはつぶれてしまう」 残業代未払いの労働者の多くは、ミシンを踏む工場の女性労働者であり、年配の女性労働者の一人は、業務との因果関係は不明だが、業務中に倒れてしまう・・・・

もちろん、これは日曜日の午後9時から放送されている、池井戸潤原作のドラマ「陸王」の中の主人公が社長である「こはぜ屋」の話です。こう書いてしまうと、改めてこの「こはぜ屋」は「ブラック企業」だなあと思います。次回からのドラマの展開は、いよいよライバルのスポーツシューズの製造販売の大企業(「A社」と呼ぶ)とのせめぎ合いが始まり、様々な嫌がらせがA社から受けるという展開になりそうなのですが、私なりに次回以降のドラマのストーリーを考えてみました。

「こはぜ屋」のシューズがライバルA社を圧倒する事実に、A社は妨害工作を考える。それは「労働基準監督署にこはぜ屋の労働基準法違反」を通報することであった。匿名情報を得た労働基準監督署は、予告なしで臨検監督を実施し、賃金台帳とタイムカードを押収し、違反を特定し、未払い残業代の遡及是正を社長に命じる。まさに、是正勧告書を交付しようとした瞬間、女性労働者(阿川佐和子が扮する者)を先頭に、その場に労働者がなだれ込んで来て、次々にこう述べる。「私たちは、残業なんてしてません。毎日、職場で夜遅くまでおしゃべりをしていて、帰りが遅くなったんです。」「労働基準監督署の調査なんて、私たちは誰も協力しません。」「私たちが誰一人問題にしていないのに、なんで残業代を社長が払わなくてはいけないのですか。社長は会社がもうかればボーナスをくれると言ってます。」

監督官は、若い男と初老の男の2人で来ていたが、若い監督官が、何か言いかけるのを初老の男は止め、次のように述べる。

「それでは今後は、気をつけて下さい。次はないです。それから過労死だけは気をつけて下さい」

(ここで、平原綾香の歌う、ホルスト作曲「ジュピター」が流れる。)

あれ、自分で書いていて、何かいいじゃないかと思えてきました。けっこうドラマになるんじゃないでしょうか。ついで、次のようなオチはどうでしょう。

A社の一室で、次のこはぜ屋への嫌がらせが画策されている時に、いきなり何人もの男たちが入ってくる。そして書類を翳して、述べる。「これは、捜査令状だ。労働基準法違反の疑いでここを捜査する。」

実はA社でも日常的にサービス残業が発生しており、従業員の一人が労働基準監督署に密告したのであった・・・

ドラマを観ながら、秋の夜長にこんなことを考えることは、私の小さな幸せです。

バイトのくせに・・・

(紅葉、by T.M)

「バイトのくせに」「バイトだから責任感がない」「所詮、バイトは」・・・

これは、先週木曜日に放送されたドラマ「ドクターX」の中で、主人公大門未知子医師に浴びせられた罵声です。

ところが、ご存知のように、手術をさせたら、この大門医師を超える医師は組織の中にはいません。そして、医師の技術だけでなく、「患者ファースト」の医師としての志も、大門氏は並の医師をはるかに凌駕します。(さすがに、この「志」の部分は、大門氏に匹敵する医師が、ドラマ中に何人かでてきますが、腕とハートを兼ね備えるのは彼女のみです)

ドクターXの脚本家の中園ミホ氏は、ドクターXの第1シーズン(2012年)に先立つこと5年前に、「ハケンの品格」というドラマを脚本し、放送文化基金賞を受賞しています。

このドラマの主人公は篠原涼子さんが演じていましたが、「無数の資格を持つ、時給3000円を超えるSクラスランクの女性派遣社員」という設定であり、物語はその主人公が組織の者を超える活躍をする話ですが、テーマはドクターXと共通しています。

また、中園氏は、NHKの討論会において、「過労死は自己責任」「派遣社員は幸せだ」「労働基準監督署は不要だ」と述べる経済同友会の幹事の実業家奥谷礼子氏に対し、「いま私、ここの間に深くて大きい川が流れているような気がしたんですけど」と述べ反論したことでも知られています。

来年のNHKの大河ドラマ「西郷どん」は、その中園氏が脚本を担当します。今から、とても楽しみです。

ブログ再開です - 就職しました

(鬼怒川の紅葉、by  T.M)

労働安全衛生コンサルタント事務所を開設してから18ヶ月間、様々な人々に出会い、たくさんのアドバイスを頂き、色々な経験をし、貴重な時間を過ごしましたが、認知症の母の介護施設への入所を契機に再就職することとしました。

ご支援頂きました方に厚く御礼申し上げます。 

今度の職は、労働安全衛生コンサルタントの資格と、労働基準監督官での経験が生かせるもので、主な仕事は労働安全衛生法関係のセミナー講師と企業の安全診断です。この職での仕事のことや職場の件は守秘義務があるので一切書きません。 

今は毎日、東京まで通勤しています。フリーランスだったころの気ままさと比べられないくらい規則正しい生活です。

今年の6月と7月(安全週間の前後)は、忙しかったです。6月30日に大阪の講演会、翌日青森で某社の安全大会の出席し、その翌々日には新潟なんてこともありました。この2月で×百万円を超える収入がありました。そのかわり8月は悲惨でセミナー1件35000円しか収入がありませんでした。このジェットコースター生活から、今は毎日9時ー5時の生活です。報酬もそこそこです。

― というより、60歳の元公務員の再就職としては良い方だと思う。上をみたらキリがありません。 ー

 

ブログもやめようと思いましたが、これまでの7万件近いアクセスがありましたし、何よりも今まで写真を提供してくれたT.M氏(相変わらずポルシェに乗っています)が、継続しろというので、自分の思い出話なんぞ、これからも細々と書いていくつもりです。

今までのように、週2回更新という訳にはいかないので、週1回・日曜日更新を目標とするつもりです。

(できなかったら、ごめんなさい。)

 

元労働基準監督官のムダ話、今後もよろしくお願いします。」

 

私の出会った人々

さて、労働安全衛生の話をするのなら、次の碑のことから始めなければいけません。

 

この碑は大桟橋の傍ら、波止場会館の敷地にひっそりと建っています。港の仕事で亡くなった人たちを追悼するために、関係者が建立したものです。 毎月1日の午前9時になると、この碑の前に何十人もの作業服姿の男たちが集合します。そして碑に黙とうを捧げると、4,5人が1グループとなり、それぞれ港湾の現場パトロールに行きます。パトロールはたいへん気合いが入った厳しいもので、些細な安全管理の手落ちも見逃しません。

「おい、そこに手すりを設けろ」「歩み板はどうした」「チェンソーの使い方はそうじゃないだろ」・・・・

パトロールの後は波止場の事務所で検討会に入り、反省点が語られます。 このようなパトロールはえてしてマンネリに陥りやすいものですが、このパトロールは違います。それは、パトロールの前に行う慰霊碑への黙とうがすべてを物語っています。 港湾労働者の死亡災害の災害調査をしたことがあります。その労働者の自宅は、労働契約書には「福富町のサウナ」と記載されていました。

それぞれの人生を歩んできた人たちが港湾の現場で働いています。そして、その人たちの安全を願い、守る人がいます。 まずは、このブログの最初にそのことを記載します。