ある質問

( 江戸時代建立の吉田家住宅 ・埼玉県小川町、by T.M)

さて、多くの企業では4月1日が人事異動。皆様はいかがだったでしょうか。

この季節になると、なぜか「人事」の相談を私にする人がいます。私に人事の相談をする人は、当然その人事に不満を持つ人です。私が元労働基準監督官ということで、労働問題に詳しいと思っているのです。

余談になりますが、「自分はなぜ出世しないのか?」 こんなことを私に尋ねても無駄です。なぜなら私自身が組織の中で、まったく出世しなかった者であり、本省回りの労働基準監督官を除き、労働基準監督官のほとんどの者が最後にはその地位につくであろう「労働基準監督署長」になれなかった者だからです。

(もっとも、退職した後では、「元労働基準監督署長」より前職を生かし「現場の労働基準監督官」に近い仕事をして、それなりの安定した収入を得ているのだから人生は分からない。)

もし、私が「人事」に関して相談に乗れるとしたら、「その人事異動が労働基準法上正当なものであるかどうか」ということに対する意見を述べることです。

今回の相談は次のようなものでした。

相談者は技術系職員。今年64歳となるもので、60歳以降は常勤嘱託として1年更新の契約を行っています。彼は昨年度まで、「教育及び研究」職についていましたが、今年度より、彼の経験を生かした「ISO及びJISの評価員」に任命されました。これを彼は怒っているのです。昨年度までの彼の「研究」は中途半端で終了となるからです。

彼は、私に次のように訴えました。

「60歳の時に『研究職』という辞令をもらった。それが、今回は『JISの評価員』となった。これは問題ではないのか?」

私は答えました。

「それは、単に労働条件が変更されただけだ。労働条件が不利益変更されたというなら問題となるが、『研究職』から『JISの評価員』への変更は問題ない。これが、『単純作業』への変更、あるいは『リストラ目当ての追い出し部屋等』への異動なら問題となるが、今回の異動はあなたのキャリアが否定された訳ではない。」

彼の不満はある意味、とても「贅沢でわがまま」なものなのです。でも、彼がどうしても「ひと言」を人事に言いたいみたいなんで、次のようなアドバイスをしておきました。

「研究職の場合は残業代がつかなくて、『給料の16%にあたる研究職手当』が支払われていたはずだ。審査員になったら、残業代がつくかわりに、その手当がなくなる。これは不利益変更と主張できる可能性がある」

まあ、無理でしょうけど・・・。ただ、文句は言えるのではないかと思います。

会社員である限り、「職種の変更」については、基本的に異議はできません。「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」等の議論はあるようですが、雇用に安定性を求めるなら受け入れるべきです。

ただ、見逃されがちですが、「職種の変更に伴う、賃金・労働時間等の不利益変更」については争うことが可能です。なにに文句を言えて、何は受入れなければいけないのか。会社に文句を言う前に、冷静に考えて見る必要があります。