飛来・落下事故

(新橋〜横浜間鉄道開業時の中等客車、by T.M)

5/8 ABCニュース

2019年11月、和歌山市で工事中のビルから鉄パイプが落下し、通行人の男性が死亡した事故で、業務上過失致死の罪に問われた建設会社の社長に対し、和歌山地裁は禁錮2年、執行猶予5年の判決を言い渡しました。

 判決によりますと、和歌山市の建設会社「ヒロケン」の社長・本田博則被告(40)は2019年11月、和歌山市の12階建てビルの屋上で足場を解体中、業務上の注意義務を怠って、長さ約1.5メートル、重さ約5.35キロの鉄パイプを落とし、ビルの下を歩いていた男性(当時26)の頭に直撃させて死亡させました。

 本田被告はこれまでの裁判で、「落下させたことは間違いありません」と起訴内容を認める一方、「すべての鉄パイプに(落下防止用の)介錯ロープを付ける約束はしていない」と述べていました。

 検察は、「4日前にも鉄パイプを落下させる事故を起こしていて、基本的な安全確認を怠った過失がある事は明らか」として、禁錮2年を求刑しました。

 一方弁護側は、「落下防止ネットを適切に設置していた」などとして、執行猶予付きの判決を求めていました。

 和歌山地裁は8日、「パイプの落下事故防止のための基本的な安全対策をいずれも怠った。4日前の落下事故とも原因が重なっていて、不注意の程度が大きい」と指摘する一方、「前科前歴のない被告をただちに実刑に処すべきではない」として禁錮2年、執行猶予5年の判決を言い渡しました。

被害者の方のご冥福を祈ります。

この事故について、下請け会社の社長が書類送検されましたけど、元請けの責任ってどうなっているんでしょうか。

今回災害の発生した足場の解体作業というのは、労働安全衛生法において建築工事の施工中の「危険な作業」に該当するものです。そもそも「足場」というものは、建築現場で働く人たちが安全に働くための設備です。「足場の組立・解体」とは、その安全設備を作ったり、壊したりする作業なので、他の作業のような安全装置がなく、危険な作業なのです。

ですから労働安全衛生法では「足場の組立解体作業主任者」という資格を定め、高さ5m以上の足場の組立解体には、その作業主任者が現場で作業指揮をとらなければならないとされています。

その足場の組立解体作業についてですが、材料の飛来落下については、次のように規定されています。

第五百六十四条

  五  材料、器具、工具等を上げ、又は下ろすときは、つり綱、つり袋等を労働者に使用させること。ただし、これらの物の落下により労働者に危険を及ぼすおそれがないときは、この限りでない。

ようするに、材料の落下防止措置は、「材料の上げ、下ろし時」につり綱等を使用しなさいという限定的な措置しか定めていません。

 また、一般的な建設現場の飛来落下災害防止については、次のような規定があります。

第五百三十七条  事業者は、作業のため物体が落下することにより、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、防網の設備を設け、立入区域を設定する等当該危険を防止するための措置を講じなければならない。

第五百三十九条  事業者は、船台の附近、高層建築場等の場所で、その上方において他の労働者が作業を行なつているところにおいて作業を行なうときは、物体の飛来又は落下による労働者の危険を防止するため、当該作業に従事する労働者に保護帽を着用させなければならない。

飛来落下災害については、「防網」等を張ることも必要であるけど、下を通る者はヘルメットを着用しなければなりません。

工事現場で「足場を解体中にネットを取り外して」しまった後では、100%飛来落下災害を押さえることはできないということです。そのためには、「立入禁止区域」の設定しかこのような災害をなくす方法はないと思います。

市街地等では、人通りを工事のために止めるということは困難なことだと思います。しかし、それをしなければ同種災害はなくなりません。それを実施することが元請けの義務だと思うのですが、それが裁判で明確になっていないことは残念です。