明けましておめでとうございます

(川崎市夢見ヶ崎動物公園のフラミンゴ、by T.M)

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

新年になってから、私の4月以降の処遇に動きがありました。現在の勤務先で「週5日勤務」の常勤雇用から、「週4日勤務」の非常勤雇用となることが決定しました。今年の3月で年金受給要件を満たす65歳になるための措置です。

給料は下がりますが、いい事もあります。なんと副業が認められるのです。そこで「おばら労働安全衛生コンサルタント事務所」を5年ぶりに復活させることにしました。

ちょうどタイミング良く、1件仕事も舞い込んできました。幸先の良いスタートです。

講演会、安全診断、顧問、執筆等なんでもします。

労働安全衛生だけでなく、労務相談の経験豊かです。3月くらいになったら電話連絡先を公開しますが、今は取り敢えずメールでご連絡下さい。

  obaraconsultant@jcom.zaq.ne.jp

ノーマスク理由の解雇は無効 マンション管理人が勝訴  2022/12/5(月) 共同通信

 新型コロナウイルス対策のマスク着用の指示に従わなかったことを理由に解雇されたのは不当として、マンション管理人の70代男性が、雇用主の近鉄住宅管理(大阪市)に未払い賃金を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は5日、「解雇は社会通念上相当とは言えない」として無効と判断し、約90万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は大阪府摂津市のマンションで管理人を務め、昨年5月に新型コロナに感染。復帰後、会社側は男性がマスクをつけていないと住民の苦情があったとして、他のマンションの清掃員への配置転換を打診した。拒否すると、マスク着用の指示に従わなかったとして解雇通知を受けた。

他の記事を読むと、「解雇処分は重すぎ」ということでの判決であり、「マスクの着用の有無等については判断していない」みたいな解説がありましたが、少し疑義がある判決です。

労働安全衛生法には「マスク着用」を義務づけている法条文があります。「アーク溶接時の粉じんマスク着用」等がそれです。もちろん、「マスクを着用しなければ法違反であるケース」と「お願いレベルのコロナ対策対応のマスク着用」では意味が違いますが、企業は状況に応じて、業務中にマスク着用を求めることは、非常識なことではないと思います。

また、労働者は就業時間中であれば、業務命令を受ければ着用衣服について制限を受けることは当たり前だと思います。例えば、工場や小売店で会社支給の制服を着用するのと同じことです。労働者は就業時間中は、事業主の「指揮命令下」にあるのですから当然のことです。

この事業主の業務命令を拒否しても処罰されないというのは相当な理由がなければなりません。もしかしたら、この労働者は「マスクをしていたら健康に差し障りがある」というような状況だったのでしょうか?

「住民の苦情があったとして、他のマンションの清掃員への配置転換を打診した」上での解雇措置ですから、それでは会社はどうすれば良かったのでしょうか?疑問の残る判決です。

ああ、日本製鉄

(みなとみらいの高層棟と青空、by T.M)

朝日新聞 10月1日

千葉県君津市にある日本製鉄の製鉄所からこの夏、周辺の水域に有毒物質のシアンが流出する問題が起きた。日鉄が調べたところ、過去にも複数回、排水口などでシアンが検出されていたのにもかかわらず、県などに報告していなかったことが判明した。

 事態を重くみた県は、原因究明と再発防止策の報告を命じた。日鉄が9月30日、県に提出した報告書で新たな事例も明らかになり、シアンの検出・報告漏れは2017年以降で計59回に上った。ただ、担当者の「誤った認識」が主な原因で、組織的な隠蔽(いんぺい)ではなかったとした。

(中略) 

 その製鉄所で今年6月、生産工程で生じる「脱硫液」が敷地外に漏れ出し、水路を経て近くの小糸川に流入していたことがわかった。川の水が赤褐色に染まり、多数の魚が死んでいるのが見つかった。地元住民が「初めて見る光景」と驚く出来事だった。

 その後の日鉄や県の調査で、周辺の水路や、東京湾に直接注ぐ排水口から、シアンが検出された。水質汚濁防止法に基づく排水基準では検出されてはならない物質だ。

 問題はこれにとどまらなかった。日鉄が過去にさかのぼって総点検を進めるなかで、過去にたびたびシアンが検出されていたにもかかわらず、県などへの報告も、公表もしていなかったこともわかった。

 日鉄によると、2019年2月~22年4月、特定の排水口で、計39回検出されていた。記録の義務があるケースでも、日を改めて排水を採取し、不検出となった結果を記録していた。日鉄と地元自治体の環境保全協定に基づく水質調査でも、敷地内の排水溝で19年5月~21年12月に計7回、シアンや有毒物質のセレンが協定値を超えていた。

 「非常に不適切な対応があった」(県水質保全課)。事態を重くみた県は8月下旬、水質汚濁防止法に基づく行政処分として、原因究明と再発防止策の報告を求めた。虚偽の報告をした場合などは刑事告発もあり得る対応だ。県が求めた報告期限の9月30日、日鉄は報告した。

今回の「シアン漏洩」について、化学物質の知識がない人はピンとこないかも知れませんが、「シアン」の別名は「青酸」であり、その化合物はミステリ小説で猛毒として扱われます。「青酸カリュウム」や「青酸ナトリウム」を主原料とした、「青酸化合物」が漏洩した訳ですから、今回の「報告漏れ」が、どれだけ環境に甚大な影響を与えているかが分かると思います。

しかし、日本製鐵、どうなちゃったの・・・ 最近、事故多すぎないか?

昨年も、日本製鉄瀬戸内製鉄所内で、作業員2人がX線を大量に被曝する事故が起きたばかりです。行政内部にいる友人から話を聞くと、その事故の後で、全国の監督署では、X線非破壊試験を実施している事業場に対し一斉調査を行い、たいへんだったそうです。

また、4日前には九州製鉄所でクレーンが燃えたことが新聞で報道されています。

私は約40年前に、愛知県東海市にある日本製鉄名古屋製鉄所を臨検監督したことがありますが、工場の隅々まで安全に気が配られていて、多くの人がきびきびと指差し呼称を実践し、従業員の「ゼロ災」にかける思いが感じらました。

あの、日本製鉄はどこにいってしまったのでしょうか。

監督官を辞めた現在でも、今在職している組織の仕事で製造業の工場を訪問します。というより、「労働基準法」関係の仕事がなくなり、「労働安全衛生法」専門となった現在の方が、大きな工場に行く機会は多いです。

そこで気付くのは、働く人の少なさです。食料品製品製造業を除き、日本の製造業は、あまりにも「古い設備」を、「徹底した合理化により少なくなった作業者」で使用しています。そして、「遊休設備」も多々あるようです。

もはや、国内で製造業は厳しすぎるのかも知れません。そんな思いを日々強くしています。日本はどうなっちゃうんでしょうか・・・

私事の報告です。「60の手習い」で、ある資格に挑戦することにしました。そんな訳でしばらく更新を休みます。次の更新は11月13日です。

給与のデジタル払いについて

(秩父高原の牧草地と山並み、by T.M)

FNNプライムオンライン(9/21)

私がお伝えしたいのは「給料のデジタル払い」です。

厚生労働省の審議会は、給料を「○○ペイ」などの電子マネーで支払う「デジタル給与払い」の案をまとめ、来年度以降の実施が見込まれます。

しかし、安全性や補償などをめぐり課題もあげられています。

ポイントはこちら。「給料のデジタル払いあなたは利用する?」注目です。

現在の労働基準法では、賃金について「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」となっています。賃金は「現金」で「直接」払うのが原則で、一般に行われている銀行振込などへの振込は、「例外」として認められています。

この「例外」に「デジタル払い」が加わることになりますが、厚労省の審議会では、利便性が高まる半面、資金移動業者(アプリ事業者)の健全性、安全性に不安の声も上がっていました。

厚労省は資金移動業者(アプリの事業者)からの「デジタル給与払い」は、労働者の同意が前提とし、口座残高の上限は100万円、超えた場合は指定する銀行口座などに振り込まれます。

1円から取引でき、少なくとも月1回、手数料0円で現金自動受払機(ATM)等から利用できるようにします。また、アプリの事業者が経営破綻したり、不正アクセスで損害が出た場合はアプリなどの事業者が全額補償するとしています。

今年度内に省令が改正され、来年度にも解禁が見込まれます。

なぜ給与のデジタル払いが推進されているのか? キャッシュレス社会に対応するためとか、銀行口座を持たない外国人労働者のためとかいう高邁な理由があるようです。また、「予測されるデメリット」としては、「アプリ事業者の健全性」とかが挙げられていますが、庶民とは関係のないところでの議論のような気がします。

なぜ、今までは「通貨」による支払いしか認めてられていなかったのでしょうか?それは、企業の「現物払い」を諫めるためでした。昔は農家等で、自分のところで取れた「野菜」を渡し、賃金の代わりとしていたところもありました。

労使共々、この「現物払い制度」を悪用しているところもありました。旦那さんの「扶養」となっている専業主婦が、扶養から外れてしまう年収となった時に、「デパートの商品券」が支払われていたのです。うまい手だと、当時は思った覚えがあります。

やっぱ、私の体験から予測すると、このデジタル払いが悪用されるのは、「残業隠し」ではないでしょうか。36協定以内の時間外労働については、残業代は「通貨・銀行振込」として、それ以上の残業代についてはプリペイドカードで支払うのです。

何か、こういう法改正があると、前向きなことより、労使関係の現場でどのように悪用されるか、まっさきに考えてしまいます。

歩きスマホをする従業員を解雇する方法について

(源頼朝と北条政子の像・伊豆蛭ヶ島、by T.M)

実業家の「ひろゆき」こと西村博之氏(45)が10日、自身のツイッターを更新。「ゲームしないで歩くだけとか、人生の時間の無駄遣いだと思います」とツイートし“歩きスマホ肯定論”を展開した。

 (中略)

 これに、ひろゆき氏は「ウエストポーチって、両手空くから歩きながらゲームも出来るし便利やん。21世紀にもなって、手でカバン持つのとか効率悪くない?」と反応。また、スマホを操作しながら歩いていたことについては「ゲームしないで歩くだけとか、人生の時間の無駄遣いだと思います」と、持論を展開した。

んー、困るんですよね。ヒロユキさんのような影響力がある人がこんなことを言われては・・・。

私が安全診断を行った事業場では、歩きスマホによる転倒で休業1ケ月の労災事故が発生したそうです。そこで、どうしたら職場内での歩きスマホを失くせるか相談を受けたのですが、私は「どうしても言うことを聞かない従業員は、最終的には解雇を仄めかし脅してみたらいかがでしょうか」と答えました。少し極論ですが、効果があるかもしれません。

そこで、今日は「歩きスマホをする従業員の解雇方法」について説明します。

歩きスマホを理由として従業員を解雇するためには、まず前提として次の3つを行わなければなりません。

第一、「就業規則の整備」 歩きスマホは懲戒事由に該当することを就業規則に明示しなければなりません。また、処分内容を「厳重注意」「訓告」「減給」「出勤停止」「解雇」というように定めておかなければなりません。

第二、「従業員の教育」 歩きスマホがどれだけ危険であるか従業員に事前に教育し、職場内での歩きスマホについては懲戒処分の対象になることを周知させなければなりません。

第三、「懲罰委員会の設置」 懲戒処分の対象になるかどうか、どの程度の処分が適当であるのかを判断する懲罰委員会を事前に設置しておかなければなりません。この委員会には、過半数労働組合がある場合は組合から推薦された者、過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者から推薦された者をメンバーとしなければなりません。また、弁護士等の社外の者をメンバーとしていればよりベターです。

さて以上の用意ができたら、次にいよいよ歩きスマホの取締りをします。歩きスマホをしているものがいたら、まずは「厳重注意(口頭注意)」です。2回目は「訓告処分」として反省文を書かせます。それでも歩きスマホを続けるようでしたら「減給」「出勤停止」というように処分内容をエスカレートさせます。そして最後の段階では「解雇」ということになります。

もちろん、このような処分については懲罰委員会で十分に討議し、特定な労働者を狙い撃ちしたような運用が絶対にないようにしなければなりません。

たかが、「歩きスマホ」といえども、従業員の安全に関することであるなら、事業主はここまでする必要があります。ひろゆき氏の考えは、少なくとも職場においては論外でしょう。

再発防止対策

( 秩父高原のヤギ、by T.M)

読売新聞 9月10日

さいたま市の認可保育施設で2019年11月と昨年12月、園児が夕方に送迎バスに取り残される事故が起きていたことが9日、わかった。いずれも座席で寝ていた園児を同乗の施設職員らが見逃していた。園児に健康被害はなく、施設側がそれぞれの保護者に謝罪した。

市によると、取り残されたのはいずれも同じ認可保育施設の3歳児クラスに通う園児各1人。19年の事例では午後5時30分頃、園児と職員を乗せたバスが市内の降車場所で園児たちを降ろして施設に戻った際、園児が車内にいるのに気づかずに職員がドアを閉めていた。

約20分後に車内からバスの窓をたたいている園児を他の園児の保護者が見つけ、無事だった。乗降時に園児を確認する決まりだったが、守られていなかった。

昨年12月のケースでは、午後4時過ぎにバスが園児と職員を降車場所に降ろして施設に戻った際、車内を点検していた運転手が座席で寝ている園児を見つけた。降車時に職員が園児を確認するルールだったが、怠っていたとみられる。

その後、施設側は市の指導で送迎時のマニュアルを作り直すなどしたという。

静岡県牧之原市の認定こども園で3歳女児が通園バスの車内に取り残されて死亡した事件を受け、さいたま市は送迎バスを使う保育施設などを対象に、送迎時のマニュアルの有無などを確認する調査を行っている。送迎バスの安全対策について、市の担当者は「調査結果をみて今後の対応を検討したい」と話している。

労働安全の分野に「ハインリッヒの法則」という有名な法則があります。「ある災害要因で重大事故1件が発生する時には、同じ災害要因で30件の軽傷災害が発生していて、さらには300件のヒヤリハット災害が発生している」というものです。

ハインリッヒという方は、今から約100年前のUSAの保険屋さんで、保険料の収支を計算していたら、この法則を発見したということです。

静岡県牧之原市の認定こども園での事故が発生する前には、何件もの同様なヒヤリハット災害が発生しているのではないかと予想していましたが、冒頭の記事を読んで、やはりそうだったのかと思いました。

このような災害をなくすためには、労働災害防止の手法を使ってみたらいかがでしょうか。(というか、全ての災害に通じる手法といえますが)

労働災害防止の手法の根底には、「人間のやる事を信じるな」という考え方があります。ようするに、「人は不注意なもの」「人は不安全行動をとるもの」だから、「人の注意に依存する対策(管理的対策)」は最後の手段だとういうことです。

ワイドショー等を見ていると、当該こども園の園長を感情的に非難する声が多いようです。もちろん、これだけ痛ましい事故を起こしたのですから、社会的に糾弾されることは当然だと思います。

しかし、再発防止措置を考える時は、今回の事故の裏では何件もの大事故に結び付く可能性があるヒヤリハット災害が発生しているものとして、「機械を利用した対策(工学的対策)」を考慮する必要があります。

儲けのために、時季外れなのに出航した知床遊覧船の事故とは、そこが違うと思います。