教師の労働時間

(智光山公園こども動物園の湯浴みが大好きなカピバラ、by T.M)

3/10 時事通信

埼玉県内の公立小学校に勤務する男性教諭が、労働基準法に基づく残業代約240万円の支払いなどを県に求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)は8日付で、教諭側の上告を退ける決定をした。

 請求を棄却した一、二審判決が確定した。

 公立校教員の給与体系を定めた特別措置法(給特法)は、時間外勤務手当を支払わない一方、月給の4%に当たる「教職調整額」を一律支給すると規定。残業を学校行事や職員会議などやむを得ない場合に限ると定めている。

 一審さいたま地裁は2021年、「一般労働者と同様の割増賃金制度はなじまず、給特法はあらゆる時間外勤務について労基法の適用を排除している」として訴えを退けた。その上で、「多くの教職員が時間外勤務をせざるを得ない状況にあり、給特法はもはや教育現場の実情に適合していないのではないか」と指摘し、「給与体系の見直しを早急に進め、勤務環境の改善が図られることを切に望む」と付言した。

 二審東京高裁は昨年、一審の結論を支持していた。 

まあ妥当な判決だと思います。これは、「教師に残業代を支払わないことが妥当だ」という意味ではなく、「法律の判断としては妥当だ」という意味です。「残業代」とは、労働基準法という法律によって作られた制度。だとしたら法律によって制限もできるはず。それが確認できた判決でした。もっとも、訴えた方もそれは承知の上で、世論に訴えることを求めて訴訟したようですが・・・

教師にも残業代を支払われるようになったらよいのですが、何か「一般労働者と同様の割増賃金制度はなじまない」という考えも根強いような気がします。

このブログでも何度も書きましたが、「修学旅行の時に、教師がよる飲酒している」と問題視されるます。つまり、「修学旅行の時は教師は24時間生徒の安全を見守る義務がある」のです。これは「修学旅行の時は教師の24時間労働が当然である」ということになります。

何も、修学旅行の時だけではありません。旭川市イジメ自殺事件では、自殺した生徒の自殺の直前に、担任教師が生徒からの相談を、「デートがあるから」といって断ったことが非難されています(事実関係を学校側は否定しています)。つまり、「生徒から相談を受けたら、教師はデートを断るべきだ」と思われているのです。

このような業界では、労働基準法の即時適用は難しいのではないでしょうか?

だとしたら、根本的な解決にはなりませんが、取り敢えず「月給の4%に当たる教職調整額」を「20%」くらいに上げ、最大拘束時間を設けたらどうでしょうか?教師の時間外労働の是非を論じるより、よっぽど現実的だと思うんですが。

QBハウスについて

(身延山久遠寺 by T.M)

共同通信 2/14

低価格ヘアカット専門理容店「QBハウス」の神奈川県内の店舗で働く美容師8人が14日、残業代を過少に算定していたなどとして約2800万円の支払いを運営会社側に求め、東京地裁に提訴した。

 訴状などによると、8人は2003~16年にQBハウスのスタッフとして採用されたが、運営会社が業務委託する個人事業主のエリアマネジャーに雇用される形態になっていた。業務上の指揮命令をしている運営会社の「キュービーネット」が事実上の雇用主で、残業代を支払う責任があると主張している。

 キュービー社はホームページで、運営会社などで勤務する理美容師は「業務受託者に雇用されている」との見解を示している。

この問題なんですが、監督官の現役の時に少し研究したことがあります。ちゅーか、10年前からこの形態があるんですよね。この問題は、私の経験としては、働いている美容師さんはQBハウスの労働者の可能性が高いと思います。でも裁判では原告側(労働者側)が負けると思います。理由は、最も協力して欲しい者の協力が得られないからです。

この問題の本質は「エリアマネージャー」が、QBハウスの労働者であるかどうかです。エリアマネージャーとQBハウスの契約が「委託契約」であるなら、エリアマネージャーは個人事業主ということになるから、その下で働く美容師さんたちはエリアマネージャーの労働者ということになり、QBハウスの労働者ではないということになります。

エリアマネージャーとQBハウスの契約が、見かけ上は「委託契約」であるが、実は「労働契約」であるなら、QBハウスがエリアマネージャーを指揮命令して、美容師さんたちを雇用しているので、美容師さんたちはQBハウスの労働者ということになります。

(注) 「委託契約」であるか、「労働契約」であるかは、基本的に「場所的拘束を受けているか、時間的拘束を受けているか、事業主の指揮命令を受けているか」等ではんだんします。

つまり、美容師さんたちがQBハウスの直接雇用であるかどうかについては、間に入るエリアマネージャーの属性次第ということになります。

エリアマネージャーが美容師さんたちと共闘してくれて、「自分たちもQBハウスの労働者だ」と主張してくれれば、美容師さんたちにとって裁判は有利になりますが、どうもそうでない様子です。だから、私はこの裁判は原告側にとって厳しいものになるのではないかと思います。

意外と「コンビニ」等についてもこういう問題があります。コンビニの店主とコンビニ本社の契約は、店主に資本(土地、建物)がどのくらいあるかで違いがありますが、基本は、店舗の売り上げから必要経費を差し引いたものが店主の収入となります。最初に資本がある方がコンビニのフランチャイズであれば「必要経費」は少なくなりますが、資本を持たない雇われ店長については「必要経費」の比率が多くなり、削れるのは人件費ぐらいですから、店長自らが過重労働となります。あるコンビニの雇われ店長から、これは「実質的な労働者でないか」と相談を受け申告となり、けっこう気を入れて調査したんですけど、店長が途中で「揉め事をおこしたくない」等の理由で申告を取り下げたことがありました。結論を出したかったんですけど、今となってはちょっと残念に思える事件でした。

五ノ井さんの事件です

(野毛山動物園のキリン、by T.M)

非常に興味深い労災関係の記事があったので、長いけど引用します。

1/31(火) 1:29配信 日テレNEWS

陸上自衛隊での性暴力を告発した元自衛官の五ノ井里奈さんが、性暴力を行ったとして懲戒免職となった5人の男性隊員に550万円、十分な調査をしなかったなどとして、国に200万円の賠償を求め提訴しました。訴えを起こした理由は、加害者側の弁護士が作成した書類に書かれた“ある言葉”でした。

五ノ井さんは東日本大震災で被災した際に、支援してくれた女性隊員にあこがれ、自衛隊に入隊したといいます。しかし、あこがれの自衛隊で受けたのは、約2年間にわたる日常的な性暴力でした。

去年9月、防衛省は複数のセクハラ行為が行われていたことを認め謝罪。そして、陸上自衛官の隊員5人を性的な接触を行ったと認定し、懲戒免職としていました。

その後、五ノ井さんは、隊員側の3人から示談を持ちかけられていることを明かしていましたが、訴訟を起こすにいたった理由について――

性被害を受けた元陸上自衛官 五ノ井里奈さん

「できることなら、私としては戦う選択をしたくなかったのですが、本当に反省しているのかどうかというのが伝わらない」

五ノ井さんがこう感じたのには、ある出来事がきっかけでした。実は、示談を持ちかけられた際、加害者側の弁護士が作成した書類の中に、「個人の責任を問われるか疑問があるが…」という言葉があったといいます。これに対して、「責任がないということを言っているんでしょうか?」などと問い合わせたものの、回答がない状況だということです。

性被害を受けた元陸上自衛官 五ノ井里奈さん

「回答書がこないっていうのが、私としてはことの重大さを軽く見てるんじゃないか。このまま中途半端にするよりかは、しっかりとオープンにして、明確にする必要があると思っている」

会見の最後、伝えたいことを問われた五ノ井さんは、「私は、自衛隊が嫌いでこういう活動をしているわけではなく、絶対、同じ被害を出さないためにこういう行動をしているので、自衛隊は素晴らしい職業というのは間違いないので、しっかり内部を変えてほしいと思っています」と話しました。

これって、弁護士が凄いアホで無神経だと思います。でも、少し誤解があるのかなとも思います。というのは、この記事には大事なことがはっきり書かれていなくて、それはこの裁判は労災補償を争う裁判だということです。別の新聞記事には、はっきりと「国の安全配慮義務を争う」と記載されています。

職場内の人間関係が原因となり、ケンカ等が発生し、怪我人がでた場合に「労災」扱いとなるかは、「業務」と因果関係があるかどうかが問題となります。この五ノ井さんの事件は昨年の12月23日に防衛相が責任を認め労災としていますから、今回の安全配慮義務違反の損害賠償事件となった訳です。

労災の件で損害賠償請求するなら、確かに加害者への損害賠償請求へはハードルが高いようです。それは民法715条に「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と明記されているからです。

この事件は「モリカケ事件」における「赤木さんの損害賠償事件」と似ています。モリカケ事件で公文書の書き換えを苦として自殺した財務省職員の家族が、国と当時の上司を「安全配慮義務違反」として提訴しましたが、国が請求額を全額支払うことで上司への責任追及はされることなく裁判は決着しました。(これも酷い決着のさせ方です)

この五ノ井さんの事件についても、「国の安全配慮義務」を争うならば、国が五ノ井さんの請求額をそのまま支払って、加害者出席の裁判が行われる前に、裁判自体が終結する可能性があります。

加害者側の弁護士が作成した書類の中に、「個人の責任を問われるか疑問があるが…」

こんなセンシブルな事件に、こんな誤解させるような文言を入れた書類を作成した弁護士の責任は大きいと思います。

東日本大震災で被災した際に、支援してくれた女性隊員にあこがれ、自衛隊に入隊した

この気持ち分かります。2011年の3.11の後の4月に被災地に仕事で行ったけど、当時の自衛隊の活躍は、まさにヒーローでした。五ノ井さんの傷を癒すために、、自衛隊がどうあるべきであるのか・・・ 組織内部の良心に期待するしかないと思います。

自衛隊が、再び国民の尊敬を集める組織となることを、切に願います。

明けましておめでとうございます

(川崎市夢見ヶ崎動物公園のフラミンゴ、by T.M)

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

新年になってから、私の4月以降の処遇に動きがありました。現在の勤務先で「週5日勤務」の常勤雇用から、「週4日勤務」の非常勤雇用となることが決定しました。今年の3月で年金受給要件を満たす65歳になるための措置です。

給料は下がりますが、いい事もあります。なんと副業が認められるのです。そこで「おばら労働安全衛生コンサルタント事務所」を5年ぶりに復活させることにしました。

ちょうどタイミング良く、1件仕事も舞い込んできました。幸先の良いスタートです。

講演会、安全診断、顧問、執筆等なんでもします。

労働安全衛生だけでなく、労務相談の経験豊かです。3月くらいになったら電話連絡先を公開しますが、今は取り敢えずメールでご連絡下さい。

  obaraconsultant@jcom.zaq.ne.jp

ノーマスク理由の解雇は無効 マンション管理人が勝訴  2022/12/5(月) 共同通信

 新型コロナウイルス対策のマスク着用の指示に従わなかったことを理由に解雇されたのは不当として、マンション管理人の70代男性が、雇用主の近鉄住宅管理(大阪市)に未払い賃金を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は5日、「解雇は社会通念上相当とは言えない」として無効と判断し、約90万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は大阪府摂津市のマンションで管理人を務め、昨年5月に新型コロナに感染。復帰後、会社側は男性がマスクをつけていないと住民の苦情があったとして、他のマンションの清掃員への配置転換を打診した。拒否すると、マスク着用の指示に従わなかったとして解雇通知を受けた。

他の記事を読むと、「解雇処分は重すぎ」ということでの判決であり、「マスクの着用の有無等については判断していない」みたいな解説がありましたが、少し疑義がある判決です。

労働安全衛生法には「マスク着用」を義務づけている法条文があります。「アーク溶接時の粉じんマスク着用」等がそれです。もちろん、「マスクを着用しなければ法違反であるケース」と「お願いレベルのコロナ対策対応のマスク着用」では意味が違いますが、企業は状況に応じて、業務中にマスク着用を求めることは、非常識なことではないと思います。

また、労働者は就業時間中であれば、業務命令を受ければ着用衣服について制限を受けることは当たり前だと思います。例えば、工場や小売店で会社支給の制服を着用するのと同じことです。労働者は就業時間中は、事業主の「指揮命令下」にあるのですから当然のことです。

この事業主の業務命令を拒否しても処罰されないというのは相当な理由がなければなりません。もしかしたら、この労働者は「マスクをしていたら健康に差し障りがある」というような状況だったのでしょうか?

「住民の苦情があったとして、他のマンションの清掃員への配置転換を打診した」上での解雇措置ですから、それでは会社はどうすれば良かったのでしょうか?疑問の残る判決です。

ああ、日本製鉄

(みなとみらいの高層棟と青空、by T.M)

朝日新聞 10月1日

千葉県君津市にある日本製鉄の製鉄所からこの夏、周辺の水域に有毒物質のシアンが流出する問題が起きた。日鉄が調べたところ、過去にも複数回、排水口などでシアンが検出されていたのにもかかわらず、県などに報告していなかったことが判明した。

 事態を重くみた県は、原因究明と再発防止策の報告を命じた。日鉄が9月30日、県に提出した報告書で新たな事例も明らかになり、シアンの検出・報告漏れは2017年以降で計59回に上った。ただ、担当者の「誤った認識」が主な原因で、組織的な隠蔽(いんぺい)ではなかったとした。

(中略) 

 その製鉄所で今年6月、生産工程で生じる「脱硫液」が敷地外に漏れ出し、水路を経て近くの小糸川に流入していたことがわかった。川の水が赤褐色に染まり、多数の魚が死んでいるのが見つかった。地元住民が「初めて見る光景」と驚く出来事だった。

 その後の日鉄や県の調査で、周辺の水路や、東京湾に直接注ぐ排水口から、シアンが検出された。水質汚濁防止法に基づく排水基準では検出されてはならない物質だ。

 問題はこれにとどまらなかった。日鉄が過去にさかのぼって総点検を進めるなかで、過去にたびたびシアンが検出されていたにもかかわらず、県などへの報告も、公表もしていなかったこともわかった。

 日鉄によると、2019年2月~22年4月、特定の排水口で、計39回検出されていた。記録の義務があるケースでも、日を改めて排水を採取し、不検出となった結果を記録していた。日鉄と地元自治体の環境保全協定に基づく水質調査でも、敷地内の排水溝で19年5月~21年12月に計7回、シアンや有毒物質のセレンが協定値を超えていた。

 「非常に不適切な対応があった」(県水質保全課)。事態を重くみた県は8月下旬、水質汚濁防止法に基づく行政処分として、原因究明と再発防止策の報告を求めた。虚偽の報告をした場合などは刑事告発もあり得る対応だ。県が求めた報告期限の9月30日、日鉄は報告した。

今回の「シアン漏洩」について、化学物質の知識がない人はピンとこないかも知れませんが、「シアン」の別名は「青酸」であり、その化合物はミステリ小説で猛毒として扱われます。「青酸カリュウム」や「青酸ナトリウム」を主原料とした、「青酸化合物」が漏洩した訳ですから、今回の「報告漏れ」が、どれだけ環境に甚大な影響を与えているかが分かると思います。

しかし、日本製鐵、どうなちゃったの・・・ 最近、事故多すぎないか?

昨年も、日本製鉄瀬戸内製鉄所内で、作業員2人がX線を大量に被曝する事故が起きたばかりです。行政内部にいる友人から話を聞くと、その事故の後で、全国の監督署では、X線非破壊試験を実施している事業場に対し一斉調査を行い、たいへんだったそうです。

また、4日前には九州製鉄所でクレーンが燃えたことが新聞で報道されています。

私は約40年前に、愛知県東海市にある日本製鉄名古屋製鉄所を臨検監督したことがありますが、工場の隅々まで安全に気が配られていて、多くの人がきびきびと指差し呼称を実践し、従業員の「ゼロ災」にかける思いが感じらました。

あの、日本製鉄はどこにいってしまったのでしょうか。

監督官を辞めた現在でも、今在職している組織の仕事で製造業の工場を訪問します。というより、「労働基準法」関係の仕事がなくなり、「労働安全衛生法」専門となった現在の方が、大きな工場に行く機会は多いです。

そこで気付くのは、働く人の少なさです。食料品製品製造業を除き、日本の製造業は、あまりにも「古い設備」を、「徹底した合理化により少なくなった作業者」で使用しています。そして、「遊休設備」も多々あるようです。

もはや、国内で製造業は厳しすぎるのかも知れません。そんな思いを日々強くしています。日本はどうなっちゃうんでしょうか・・・

私事の報告です。「60の手習い」で、ある資格に挑戦することにしました。そんな訳でしばらく更新を休みます。次の更新は11月13日です。