川崎北労働基準監督署

(十国峠からの富士山、by T.M)

朝日新聞社

従業員が制服に着替える時間などの賃金を支払っていなかったとして、飲食大手フジオフードシステムが労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかった。厚生労働省のガイドラインでは、着替えなどの時間は労働時間に含むと定められている。

 同社の女性従業員が加入する労働組合「首都圏青年ユニオン」が14日、記者会見して明らかにした。女性は、同社が運営する商業施設内のカフェでパートとして勤務。更衣室での制服への着替えと店舗への移動で1日30分ほどかかるが、労働時間には含まれていないという。

 ユニオンは同社に、こうした時間分の賃金支払いを要求。だが会社側が「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」として支払いを拒否したため、労基署に申告したという。

 ユニオンによると、労基署は着替えなどの時間は労働時間にあたると認定。女性に対して過去2年分の未払い賃金を支払うよう、6月に同社へ是正勧告を出した。ただ、現時点で未払い賃金は支払われていないという。

 フジオフードは「まいどおおきに食堂」などを全国で800店以上展開する。同社側の代理人弁護士は是正勧告を受けたことは認めた上で、「今後の対応は検討している」と話した。

被害労働者には申し訳ないのですが、「ブログネタをありがとうございます」と言いたくなるような記事です。

しかし、監督署サイドとしては、いい時代が来たと思います。「残業代の遡及是正」を命じたら、こんな風にマスコミが取り上げてくれるんですから。私も、現役時代は総額で億を超える遡及是正を何回か命じたことがあります。でも、新聞等に取り上げられることは一切ありませんでした。時代の空気が変わってきたのは、東京労働局に「カトク」(過重労働撲滅特別対策班)ができた、「働き方改革」が始まった時期からです。こんなに注目されるとは、川崎労働基準監督署の職員を羨ましく思います。監督署、頑張れ~。

さて、記事の内容についてです。勤務時間中に制服の着用が義務づけられているなら、着替え時間は当然労働時間です。

「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」という回答は意味不明です。これは、「自宅から制服着用でも良い」ということなのでしょうか?だとするなら、その制服を着用して、駅の公共トイレに入ってもかまわないということになります。その様子を撮影されてSNSで公開されてもかまわないのでしょうか。通勤時に制服の着用を許可するということは、そういうことが起きることも想定されます。

一流の会社であるなら、会社制服とは、その企業のイメージを決定する重要なツールであると思います。「労働時間以外の着用可」とすることは、「労働者のプライベート時間」でブランドイメージの毀損行為が行われても仕方がないと企業が考えていることになります。

本来であるなら、「制服着用時は労働時間であるので、当社の社員として見苦しくない行動をしなさい」と従業員に対し指示すべきでしょう。

また、「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」という意味は、「更衣室での制服への着替えと店舗への移動で1日30分ほどかかる」というくらい離れている更衣室で着替える必要がないという意味なのでしょうか?

ならば、女性職員が着替える場所が他にあったということでしょうか。まともな着替える設備がないところで着替えろということは、それはそれで別の問題が発生するような気がします。

いずれにせよ、この問題は会社側に分が悪いと思います。

通信障害

(伊豆土肥の世界一の花時計、by T.M)

安倍前首相のご冥福を祈ります。

私は経済問題や外交問題が分かりません。しかしながら、労働問題については、現場を見ているので、いくらか知っているつもりです。安部前首相の行った「働き方改革」については、評価をしています。雇用側の意識改革に成功したと思っています。

安部前首相については「格差と分断」を助長したという意見もあります。しかし、その件で一番責任があるのは、「構造改革」の名分のもとに派遣業の範囲を広げた、小泉内閣にあると思います。

毎日新聞 7月6日

全面復旧まで約86時間を要したKDDIの通信障害。総務省は次官級の幹部を同社に送り込み、利用者対応などを指示した。民間のトラブルに所管官庁が直接関与するのは極めて異例だ。何があったのか。

 KDDIの通信障害が発生したのは2日午前1時35分ごろ。トラブルが長期化する中、総務省の竹内芳明総務審議官(次官級)が課長補佐級の職員とともに、新宿区にある同社の特別対策室に派遣されたのは同日夜のことだ。

  (中略)

 総務省が職員派遣を決めた背景には、KDDIの利用者対応に対するいらだちがある。同社がホームページなどで利用者に通信障害を知らせたのは、2日午前3時ごろ。しかし、その内容は「当社の通信サービスがご利用しづらい状況が発生しております」というあっさりしたもので、状況を把握できない利用者から不満の声が上がっていた。

「fukusima50」という映画で、東日本大震災の時の福島第一原発事故での現場作業員の奮闘ぶりが描かれました。その映画の中で、現場職員は必死になって原発の暴走を止めようとしているなか、足を引っ張る「東京本社」の様子を描かれています。

私は多くの労災事故の現場を見てきましたが、爆発事故、建築現場の足場崩壊、土砂崩壊等で現場が混乱している状況にも立ち入ってきました。そんな現場で、現場職員が行うべき作業は次の2つです。

  • 被災者の救出
  • 2次災害の防止

ところが多くの災害で、この現場の作業員の活動を本部が妨げます。まあ、本部の言いたいことは分かっています。次のような報告が欲しいのです。

  • 状況はどうなっているんだ。災害の原因はなんだ。
  • 復旧はいつなんだ

この時の現場作業員の状況は、「交通事故にあった者を緊急手術する医者」と同じようなものです。手術中の医者に、次ことを尋ねる馬鹿はいないでしょう。

  • 手術はいつ終わるんだ
  • どこが悪いんだ
  • これから容体はどうなるんだ

映画「fukusima50」を観た方は分かると思いますが、現場はこんな本部からの質問に答える状況ではありません。刻々かわる状況に対応し、2次災害の防止に手を尽くすだけです。

本部の立場も分かります。大きな事故の場合は、マスコミ等が殺到し説明を求められるからです。しかしなぜ、この時「本部」は「現場」と一緒になって戦ってくれないのでしょうか。それは、多くは本部の「保身」が原因で、「現場」を守れません。

「現場」が「本部」に望むのは、「現場」が希望する物資・人材を速やかに現場に投入してくれることです。映画「fukusima50」では、東電本社が「菅首相が現場に視察に行く」ことを停められずに、挙句に「防じんマスク」の手配まで現場にさせる場面があります。現場にとって、妨害工作としか思えない事態だったと思います。

さて、菅首相の原発事故時の現場視察については、色々な評価があるようですが、冒頭の新聞記事にある、通信障害の時に派遣された総務省職員はいったい何しにKDDIに行ったのでしょうか?復旧に全力を尽くしていた現場の邪魔にならなかたでしょうか? 後日の検証が必要であると考えます。

技能実習生

(狩野川放水路、by T.M)

読売新聞6月26日

厚生労働省は、国内企業で勤務する外国人労働者の賃金や勤務形態、労働時間などを把握できる統計を来年度に新設する方針を固めた。外国人労働者に特化した統計が整備されるのは初めて。統計は労働市場の分析や政策立案の基盤データと位置づけられ、外国人労働者の待遇改善や就業支援、専門性の高い人材と企業のマッチングなどに活用する。

同省は来年度の概算要求に関連費用を盛り込む方針だ。

(略)

外国人労働者を巡っては、同省が集計する「外国人雇用状況の届出」で、技能実習や永住者といった在留資格別の人数が把握できるにとどまる。賃金については、賃金構造基本統計調査の一部に外国人のデータが含まれているが、サンプル数が少ない上に勤続年数と昇給の関係など詳細な内容がないため、労働実態の把握は困難だった。

新統計は日本人労働者との比較を可能にするため、同省が従来実施している雇用動向調査などと同様の事項を盛り込む。具体的には、▽正規・非正規など雇用形態別の労働者数▽賃金▽労働時間▽離職率――などを数値化し、産業別や企業規模別、都道府県別に示す。

個々の外国人労働者や勤務先の事業所に対する調査は来年度から年1回実施する。国籍や在留資格・期間のほか、職種や収入、昇給、勤続年数、社会保険への加入状況など雇用・労働に関する項目を中心に調べる。母国での学歴、親族への仕送り額といった外国人に特有の項目も設ける。

久々の良いニュースだと思います。

私は、技能実習生の現在の取扱いについては頭にきていました。「現在の奴隷制度」と言われても非難されても仕方がないと思っていました。

そりゃあ、技能実習制度がうまく機能している企業の例も知っています。ある金属製品製造業者(従業員100人未満の中小企業)では、インドネシアからの技能実習生を受け入れていますが、技能実習生たちは、日本で受けた研修後に、インドネシアの同企業の現地法人に就職し、その現地法人の幹部に出世していました。社長さんは、その会社の創業者で70歳を超えている方ですが、嬉しそうにインドネシアに居る元技能実習生とオンラインでビジネス会議をしています。

ただ、こんな理想的に上手くいっているのは、ほんの一握りでしょう。というより、こんなうまくいっている事例を隠れ蓑にして、実習生を搾取しているものが多いと思います。

私の感覚ですが、技能実習制度が一番機能していないのは農業ではないかと思います。農業の仕事は過酷ですし、労働基準法第41条の規定により、「労働時間,休憩及び休日に関する規定」は適用されないことになっています。

つまり、農業に従事する技能実習生については、「36協定(時間外労働協定)なく」「週40時間の規制なく労働時間青天井」「残業に係る割増賃金を支払わない」等であっても労働基準法違反は問えないのです。

(もっとも、これは、「日本の農業従事労働者」については共通の課題なのですが・・・)

ジョン・アーヴィングの作品に、映画化もされた「サイダーハウスルール」という、アメリカ合衆国のリンゴ農園で働く労働者の生活を描いた名作がありましたが、映画の中の牧歌的な風景とは違う、日本の労働従事労働者」の実態があるような気がします。

まあ、私の「感覚」で技能実習制度を非難しても結論はでないこと。新たに始まる外国人労働者に対する雇用統計に期待したいと思います。

上智大学の賃金不払い

(羽田空港、by T.M)

毎日新聞5/29(日)

 上智大学の非常勤講師に賃金を支払っていないとして、大学側が労働基準法に基づく是正勧告を受けていたことが関係者への取材で判明した。大学側は勧告に応じず、労働基準監督署が出した勧告書の受け取りも拒否したという。是正勧告は法律違反を前提とした行政指導。是正しない場合などは書類送検されることがある。知名度の高い高等教育機関が行政指導に背いたことに、関係者からは疑問の声が上がっている。

 賃金の不払いを申告したのは、語学の非常勤講師を務める60代の女性。女性が東京労働局中央労働基準監督署に提出した申告書や、加盟する労働組合「首都圏大学非常勤講師組合」によると、女性は日本語初級コースを担当。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた2020年度からのオンライン授業の導入に伴い、教材を1人で作成した。

 女性は20~21年に教材の作成などで計約105時間分、約75万円の賃金が不払いだったのは労基法違反と主張し、21年9月に申告した。このうち20年3~5月の計22日間(52時間)は、授業がなく無給とされた期間だった。

 労組によると、労基署は実態調査に基づき、女性に労働の実態があったと認定した。女性と大学側が交わした契約書には、業務として教材の作成が記されていないことなどから、「新たに発生した対価を伴う労働」と判断。労基法違反を認め、賃金を支払うよう今年2月16日付で勧告した。

 女性によると、大学側は不払いの理由を「授業時間の給与に含まれるため」と説明したが、労基署はこうした主張を退けた形だ。

 大学側は勧告書の受け取りを拒んだため、労基署は口頭で読み上げたという。労基署は勧告への対応について、この日と3月17日の2回にわたり、期限を設けて回答を求めた。初回の期限は3月10日、2回目は同25日だったが、大学側はいずれにも応じなかった。

 女性は「教育機関が公的な勧告を無視するのは信じがたい」と憤る。労組の佐々木信吾書記長は「影響力の大きい有名大であっても、非常勤講師の労働時間管理はルーズなケースが多い。賃金はきちんと支払うべきだ」と指摘する。

 厚生労働省労働基準局監督課は、一般論と断った上で「勧告は違法行為を認定して出す。従うよう繰り返し指導する」としている。

 毎日新聞の取材に、大学を経営する学校法人上智学院は「現在、労基署との相談・協議を継続し、学内においても対応を検討している」とメールで回答した。

「労働組合が告発した」とか

「大学側が態度を和らげた」との続報

もありますが、重要なことがまったく分からない記事です。

この事件は、「申告者及びその労働組合」が前のめり過ぎて、労基署は困惑しているのではないでしょうか?大丈夫でしょうか?

この事件で、労働基準法第24条違反(賃金不払い)が成立しているという、中央労働基準監督署の見解に私は賛成します。しかし、刑事事件の成立には疑問です。告発された以上、検察庁に送付しなければいけないのは当然ですが、検察庁で不起訴になる可能性が大きいと思います。

理由は、「何時間労働していたのか」ということが証明できていない気がするからです。

「女性は20~21年に教材の作成などで計約105時間分、約75万円の賃金が不払いだったのは労基法違反と主張し、21年9月に申告した」

これはあくまで申告者の主張です。「タイムカード」とか「自宅で職場のLANに接続し、サーバーにその記録が残っている」というような客観的な証拠がなければ、賃金不払いの24法違反の特定はできません。

よくweb上で、「労働時間の記録は自分のメモ書きでよい」などとの噂がありますが、それは、「過労死の認定判断」や「民事裁判」で役にたつことがあるということであり、「本人が作成した証拠」では刑事事件の証拠にはなりません。

私の予想ですが、監督署は

「賃金不払いの違反は確かだ。だから、是正勧告を出す。でも、未払い賃金の特定はできないので、そこは申告者の話合い、もしくは民事裁判で決着をつけてくれ。大学側は、今後労働契約を見直し、労働時間を把握し、適正な賃金を支払ってくれ」

というような姿勢だったのではないでしょうか。大学側は、それを過度に警戒し、是正勧告書の受取を拒否したから、話が大きく広がってしまったのではないでしょうか。

さて、監督署もここまで来たら、後へは引けないでしょう。電通事件の時のように経営トップの取調べをしなければなりません。つまり、学長からの事情聴取です。

私が捜査担当官なら、労働基準法第24条違反(賃金不払い)ではなく、労働基準法第15条違反(労働条件の通知)も併せ送検すると思います。もっとも、その違反でさえ「不十分な内容といえども、労働条件通知書は交付されているので、違反はない」と判断されてしまうかもしれませんが・・・

司法取引

(甲州街道小原宿、by T.M)

デイリー新潮 5月29日

タイの発電所建設を巡り、日本企業の社員らが現地の役人に賄賂を支払い、不正競争防止法違反(外国公務員贈賄罪)に問われていた事件に、ピリオドが打たれた。5月20日、最高裁は「三菱日立パワーシステムズ」元役員、内田聡被告(67)に対して、懲役1年6カ月、執行猶予3年とした一審の判決を支持し、控訴を棄却。これによって刑が確定した。

 とはいえ、新聞でもベタ記事扱いだったこの地味目なニュース、皆さんも素通りされたかもしれない。だが、今回の判決は、とくに会社勤めの方々にとって、決して他人事ではないのだ――。

初の司法取引案件としても注目

 事件のあらましはこうだ。2015年、「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS)が、タイに火力発電所を建設する工事を進める中、資材の陸揚げ用桟橋の使用が、役所への申請の不備により、却下されてしまう。荷揚げをしないと工事は進まないわけで、企業側が苦慮していると、現地の役人が賄賂を要求したという。

 荷揚げにはこれ(贈賄)しかない、と思った内田氏の部下2人は、この件を取締役だった内田氏に説明した上で、現地の関係者にゴーサインを出して約4000万円の賄賂を支払ってしまったのだ。

 海外贈賄に詳しい、社会構想大学院大学の北島純教授が語る。

「内部告発で贈賄を知るところになったMHPSは、社内処分を下すとともに、事態を重くみて、東京地検特捜部にこの話を持ち込み、情報提供を含む捜査協力の見返りに、会社の責任を問わないようにする、いわゆる司法取引制度を利用したのです」

これは、すごい事件だと思います。「労働者が会社のために、取引先に賄賂を渡した。会社は賄賂を渡した事実を積極的に検察庁に渡し、労働者個人の罪とし、会社はお咎めなしとなった」ということですが、いくつかのポイントがあると思います。

まずはやはり労働者がなぜそのような犯罪を起こしたかということだと思います。

1 会社の利益ため、会社で働く人たちの雇用を守るため、取引先のため、犯罪を起こさざるえなかった。

2 会社内における、上司から評価を良くしようとして、犯罪を起こした。

1と2では、やはり情状が違ってくると思います。もちろん、犯罪を起こす方は両方ことを考えていたと思います。「大義名分」を自分に言い聞かせながら、実は「保身」を考えていたと思います。

(注) ここまで書いていて、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で上総介が粛清されるシーンを思い出した。あの時の北条義時がこの心情だったのだろうな。そういう生き方は往々にして後から、「大人の態度」と評価されることになります。

第2のポイントは、会社側が「刑事罰を受けない」としても、「行政罰」はどうだったかということです。もっとはっきり言うと、「公共事業の発注停止処分」があったのかどうかです。これは結果の問題ですが、会社の行動について、「社会の公序良俗のために検察に協力した」のか、「行政罰を避ける、あるいは軽減するために司法取引をした」のでは大きな違いがあります。

私がこの問題に興味を持つのは、これが労働安全衛生法違反の「労災隠し」で同じことが行われ、自分が司法警察員として捜査主任である場面を想像するからです。

「ある公共工事において、下請けが労災を発生させ、元請の現場監督が発注者に知られるのをおそれ、労災隠しをした(発覚すると、今後の工事受注に影響します)。それを後日、元請会社は、現場監督を監督署に告発した」

もちろん、このケースでしたら、「元請けの告発は刑法に規定される『自首』に該当するのか」ということが論点になりますし、労働安全衛生法には両罰規定がありますので、記事の事件とは比較ができないでしょう。

でも、「個人(現場監督)の責任であって、会社に責任はありません」という対応をとられたなら、捜査官として面白くないのは事実だと思います。