固定残業代

( 奥武蔵からの上州の山並み、by T.M)

Abema Times 8/13

「連れの男性より明らかに少なかった。なぜ一言減らすか聞けない?」。定食屋の対応をめぐり、ネット上で議論となっている。

 男性と一緒に行列のできる定食屋を訪れたという女性。ところが、出された定食のご飯の量が男性より少なく盛られていたため、女性はショックを受けたという。

 アンケート調査では、「食事を残すことがある人」は女性に多く、中でも20代の女性の場合、50%以上にのぼっている。

 しかし、ネット上では「女性は食べられないって決めつけ、それこそ昨今やめろって言われてることだよ」「ご飯少なめにしますかの一言も無く勝手に分量減らされるの、別に盛られたご飯じゃ足りない訳では無くてもすごくもやもやする」などの声が上がっている。

 一方、同業の定食屋は「そのお店の方は、お店の方なりの気遣いをされたんじゃないかと思いますけれども。当店では、特にお客様から『少なくして下さい』と言われない限りはどのお客様に対しても、同じ量でお出ししています」と話していた。

ごめんなさい。なんか、笑ってしまう記事でした。女性は差別されたと言っているけど、「女性、男性の差」ではなく、「食べられそうな人と、食べられなさそうな人」を外見で判断して、「食べそうな人にサービスしている」ということかもしれません。それなら問題ないのではないでしょうか。

でも、見方を変えるって大事ですよね。

日経新聞の報道によると、サイバーエージェントという会社が、新入社員に対し、「初任給42万円」を支払うことにしたそうです。非常に高額な給与というニュアンスでしたが、実は「残業時間80時間、深夜労働46時間分の固定残業代を含む」ということでした。

計算してみると、ひと月の所定労働時間を173時間とするなら、「給与42万円の内訳」は、次のようなものになります。

「基本給250850円、25%割増の残業代108750円(60時間までの残業代)、50%割増の残業代43500円(60時間から80時間まで)、深夜労働手当16675円」

初任給の全国平均は21~22万円ですから、サイバーエージェントの「基本給25万円」は、そう高くはありません。そして残業代プラス深夜労働手当17万円に相当する、ひと月80時間の残業時間を新入社員に押し付けることは、無理があるような気がします。

もちろんサイバーエージェント側としては、「長時間労働をさせるつもりはない。念のために残業代を多めに支払っている」と主張するでしょう。でも、実情は知りませんが、ブラック企業の多くが似たような答弁をしていた記憶があります。

労働基準法で規定する「特別な事情がない限り残業時間の上限は45時間」をベースとして、せめて次のような給与を支払ったらどうでしょうか。

「基本給316590円、45時間分の残業代102938円、深夜労働なし(所定労働時間173時間/月)」

「固定残業代」という制度に反感を覚えますが、残業代なしで初任給32万円なら少し納得できます。

役人の権限

 (土肥桜とメジロ、by T.M)

8/7 スポーツ報知(長いけど、全文引用します)

元大阪府知事の橋下徹氏が7日、コメンテーターを務めるフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」(日曜・午前7時半)に生出演した。

 番組では、前川喜平元文部科学事務次官が5日に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を巡る野党合同ヒアリングに出席し、2015年、統一教会が世界平和統一家庭連合へ名称を変更した経緯を証言したことを報じた。

 スタジオでは1997年に旧統一教会が名称変更を当時、宗務課長だった前川氏に相談したが、霊感商法など社会的に問題があることから名称変更の「申請を出さないで欲しい」と教団に伝えたことを報じた。この方針は18年間、踏襲されたが教団から15年6月に改称の申請があり、文科省の外局の文化庁は同年7月に受理し、同8月26日に認証を決定した。

 この経緯を受け橋下氏は「今、前川さんが正義の味方みたいになっていますけど僕からすれば前川さんが違法です」と指摘した。

 その理由を「今、統一教会が完全にトラブル団体なので前川氏が言っているように名称変更を認めてしまえばさらに被害が広がるから名称変更を認めなかった、結果オーライとして何となく結論が正しいように見えるんですが」とし「僕も統一教会に対しては寄付金の上限規制とか刑事罰をもっと厳格に適用することは必要だと思うんですが、法治国家なんでしっかりルールに基づいて判断しなきゃいけない役所は」と指摘した。

 その上で高度経済成長時代に「民間企業が悩まされたのが官僚がものすごい裁量を持って勝手に許可とか認可とかよくわからないまま不認可にしたり、もっといえばこの前川さんがやった手法、申請書を受け取らないっていう。ズルズル引き延ばしていく。こういうことが横行したので、これはもう法治国家じゃないだろうということで1993年に行政手続法というのが定められたんです。これは認可する際、基準をはっきりさせましょう、官僚に自由裁量与えない、それから申請書の受け取り拒否もダメ。受け取った上で期限を決めた上で結論をちゃんと出しなさい」と解説した。

 さらに宗教法人法に「社会に害悪があるからとか名称変更を拒絶してもいいなんて一切、ルール上書いていません」とし「名称変更の問題とトラブルの問題は分けて考えてトラブルについてはきちっと対処しないといけないけど、名称変更については前川さんの胸先三寸、判断だけで勝手に拒否しちゃいけないんです」と指摘した。

 宗教法人法14条4項には「所轄庁は認証申請の受理から3か月以内に認証の決定通知をしなければならない」と定められていることから「これをやってこなかった前川さんの方が違法だし、ずっと名称変更を認めてこなかった文科省の方が違法で。今回は申請を受理して要件整っているから3か月ちょっと超えてたのかな?それぐらいに名称変更を認めた方がこっちの方が本来、正しい」などとコメントした。さらに「統一教会の問題をちょっと横に置いておいて前川さんのような法律のルールを無視した形で自分が正義になったつもりで判断をする。これは法治国家のあり方として大問題です」と指摘していた。

私は橋本氏の意見に100%賛成します。と言うか、この件について、ブログで情報を発信しようと思っていたのですが、橋本氏が先に言ってくれて助かりました。私では、こんなにうまく説明できません。

この記事に付け加えるなら、当時前川氏がそこまで、この教団の悪質性を見抜いていたのなら、申請を受理して「不許可」とすべきでした。一回「不許可」になってしまえば、2度とは申請できません。前川氏が、その時にそのような措置を取っていなかったから、数年後にこの問題が蒸し返されることになったのです。前川氏の言動は、それが分かった上でのことのような気がします。

それとも、前川氏は、「申請されたら、法律上許可されてしまうから、私の一存で申請を停めた」と言いたいのでしょうか。役人がそのようなことを考えたなれば、それこそ大問題です。

前川氏は公務員として、とても偉かった方です。私のような労働の現場しかしらない者からすれば雲の上の人です。でも、木っ端役人でも許認可権はあります。もし、労働基準監督署の職員が、労災申請について、自分の判断で「申請するな」と事業場や労働者から、どれだけ非難を受けるでしょうか。

前川氏は、現場で苦労している文科省職員のためにも、よく考えて発言すべきだと思ういます。

休憩時間の問題

(航空機のアラウンドビューモニター、by T.M)

埼玉新聞 7月30日

埼玉県立がんセンターで働いていた看護師の女性が、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないとして、県立病院機構に対し、未払い賃金の支払いを求めた訴訟の判決が29日、さいたま地裁で開かれ、市川多美子裁判長は、被告に未払い賃金の一部、約44万円などの支払いを命じた。

 原告女性は、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないとして、始業前や残業に関する未払い賃金などを求め、約372万円などを請求。

 病院側は、時間外労働の義務は命令によって発生し、時間外勤務手当も命ぜられた職員に対し支給されると主張。原告に対しては命令した事実はないとしていた。

 判決理由で市川裁判長は、システム上、原告がパソコンを使用すれば「始業前の業務を行っていることを知ることができた」と指摘。その上で、始業前業務を禁じたりする形跡はないことから、「黙示の指揮命令の下で行われたものと評価するのが相当」とした。

 一方で「病院側の明示などに基づいて終業時刻後に労務を提供したと認める証拠がない」などと、終業後の未払い賃金については認めなかった。

この判決について残念なのは、労働基準監督署が絡んでいないこと。埼玉労働局は何をやっていたのでしょうか・・・

>>システム上、原告がパソコンを使用すれば「始業前の業務を行っていることを知ることができた」と指摘。その上で、始業前業務を禁じたりする形跡はないことから、「黙示の指揮命令の下で行われたものと評価するのが相当」とした。

極めて当たり前のことだと思います。ようするに、「見て見ぬふりをするなよ」ということです。部下が所定時間前に来て残業しないと、仕事が回らないことを管理職は分かっていたはずです。

終業時刻後の残業を認めなかったのは、シフト勤務が行われているために、「帰宅しようと思えば定時に帰宅可能であった」という可能性も否定できないからだと思います。

いずれにせよ、妥当な判決であると思います。

さて、「病院及び社会福祉施設」の残業についてですが、個人的には「休憩時間の取得方法」にも、かなり問題があるように思えます。

働いている人は気付いていない方が多いのですが、「休憩時間」について法違反が発生していることがあります。例えば、病院等の夜勤について、「仮眠してもかまわないけど、緊急の呼出しに対応できるように、休憩室にいて下さい」という当該時間について、「賃金を支払う必要のない休憩時間」だと勘違いしているのです。このような時間は、「待機時間」であって、立派な「労働時間」です。休憩時間とは、「労働者が自由利用できる時間」でなくてはなりません。

私が現役の監督官であった時に、病院及び社会福祉施設の休憩時間について、けっこう問題が多かったような気がします。残業時間が厳しく問われる昨今において、休憩時間の在り方についても、今後問題提起がされるような気がします。

川崎北労働基準監督署

(十国峠からの富士山、by T.M)

朝日新聞社

従業員が制服に着替える時間などの賃金を支払っていなかったとして、飲食大手フジオフードシステムが労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかった。厚生労働省のガイドラインでは、着替えなどの時間は労働時間に含むと定められている。

 同社の女性従業員が加入する労働組合「首都圏青年ユニオン」が14日、記者会見して明らかにした。女性は、同社が運営する商業施設内のカフェでパートとして勤務。更衣室での制服への着替えと店舗への移動で1日30分ほどかかるが、労働時間には含まれていないという。

 ユニオンは同社に、こうした時間分の賃金支払いを要求。だが会社側が「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」として支払いを拒否したため、労基署に申告したという。

 ユニオンによると、労基署は着替えなどの時間は労働時間にあたると認定。女性に対して過去2年分の未払い賃金を支払うよう、6月に同社へ是正勧告を出した。ただ、現時点で未払い賃金は支払われていないという。

 フジオフードは「まいどおおきに食堂」などを全国で800店以上展開する。同社側の代理人弁護士は是正勧告を受けたことは認めた上で、「今後の対応は検討している」と話した。

被害労働者には申し訳ないのですが、「ブログネタをありがとうございます」と言いたくなるような記事です。

しかし、監督署サイドとしては、いい時代が来たと思います。「残業代の遡及是正」を命じたら、こんな風にマスコミが取り上げてくれるんですから。私も、現役時代は総額で億を超える遡及是正を何回か命じたことがあります。でも、新聞等に取り上げられることは一切ありませんでした。時代の空気が変わってきたのは、東京労働局に「カトク」(過重労働撲滅特別対策班)ができた、「働き方改革」が始まった時期からです。こんなに注目されるとは、川崎労働基準監督署の職員を羨ましく思います。監督署、頑張れ~。

さて、記事の内容についてです。勤務時間中に制服の着用が義務づけられているなら、着替え時間は当然労働時間です。

「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」という回答は意味不明です。これは、「自宅から制服着用でも良い」ということなのでしょうか?だとするなら、その制服を着用して、駅の公共トイレに入ってもかまわないということになります。その様子を撮影されてSNSで公開されてもかまわないのでしょうか。通勤時に制服の着用を許可するということは、そういうことが起きることも想定されます。

一流の会社であるなら、会社制服とは、その企業のイメージを決定する重要なツールであると思います。「労働時間以外の着用可」とすることは、「労働者のプライベート時間」でブランドイメージの毀損行為が行われても仕方がないと企業が考えていることになります。

本来であるなら、「制服着用時は労働時間であるので、当社の社員として見苦しくない行動をしなさい」と従業員に対し指示すべきでしょう。

また、「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」という意味は、「更衣室での制服への着替えと店舗への移動で1日30分ほどかかる」というくらい離れている更衣室で着替える必要がないという意味なのでしょうか?

ならば、女性職員が着替える場所が他にあったということでしょうか。まともな着替える設備がないところで着替えろということは、それはそれで別の問題が発生するような気がします。

いずれにせよ、この問題は会社側に分が悪いと思います。

通信障害

(伊豆土肥の世界一の花時計、by T.M)

安倍前首相のご冥福を祈ります。

私は経済問題や外交問題が分かりません。しかしながら、労働問題については、現場を見ているので、いくらか知っているつもりです。安部前首相の行った「働き方改革」については、評価をしています。雇用側の意識改革に成功したと思っています。

安部前首相については「格差と分断」を助長したという意見もあります。しかし、その件で一番責任があるのは、「構造改革」の名分のもとに派遣業の範囲を広げた、小泉内閣にあると思います。

毎日新聞 7月6日

全面復旧まで約86時間を要したKDDIの通信障害。総務省は次官級の幹部を同社に送り込み、利用者対応などを指示した。民間のトラブルに所管官庁が直接関与するのは極めて異例だ。何があったのか。

 KDDIの通信障害が発生したのは2日午前1時35分ごろ。トラブルが長期化する中、総務省の竹内芳明総務審議官(次官級)が課長補佐級の職員とともに、新宿区にある同社の特別対策室に派遣されたのは同日夜のことだ。

  (中略)

 総務省が職員派遣を決めた背景には、KDDIの利用者対応に対するいらだちがある。同社がホームページなどで利用者に通信障害を知らせたのは、2日午前3時ごろ。しかし、その内容は「当社の通信サービスがご利用しづらい状況が発生しております」というあっさりしたもので、状況を把握できない利用者から不満の声が上がっていた。

「fukusima50」という映画で、東日本大震災の時の福島第一原発事故での現場作業員の奮闘ぶりが描かれました。その映画の中で、現場職員は必死になって原発の暴走を止めようとしているなか、足を引っ張る「東京本社」の様子を描かれています。

私は多くの労災事故の現場を見てきましたが、爆発事故、建築現場の足場崩壊、土砂崩壊等で現場が混乱している状況にも立ち入ってきました。そんな現場で、現場職員が行うべき作業は次の2つです。

  • 被災者の救出
  • 2次災害の防止

ところが多くの災害で、この現場の作業員の活動を本部が妨げます。まあ、本部の言いたいことは分かっています。次のような報告が欲しいのです。

  • 状況はどうなっているんだ。災害の原因はなんだ。
  • 復旧はいつなんだ

この時の現場作業員の状況は、「交通事故にあった者を緊急手術する医者」と同じようなものです。手術中の医者に、次ことを尋ねる馬鹿はいないでしょう。

  • 手術はいつ終わるんだ
  • どこが悪いんだ
  • これから容体はどうなるんだ

映画「fukusima50」を観た方は分かると思いますが、現場はこんな本部からの質問に答える状況ではありません。刻々かわる状況に対応し、2次災害の防止に手を尽くすだけです。

本部の立場も分かります。大きな事故の場合は、マスコミ等が殺到し説明を求められるからです。しかしなぜ、この時「本部」は「現場」と一緒になって戦ってくれないのでしょうか。それは、多くは本部の「保身」が原因で、「現場」を守れません。

「現場」が「本部」に望むのは、「現場」が希望する物資・人材を速やかに現場に投入してくれることです。映画「fukusima50」では、東電本社が「菅首相が現場に視察に行く」ことを停められずに、挙句に「防じんマスク」の手配まで現場にさせる場面があります。現場にとって、妨害工作としか思えない事態だったと思います。

さて、菅首相の原発事故時の現場視察については、色々な評価があるようですが、冒頭の新聞記事にある、通信障害の時に派遣された総務省職員はいったい何しにKDDIに行ったのでしょうか?復旧に全力を尽くしていた現場の邪魔にならなかたでしょうか? 後日の検証が必要であると考えます。