こんなメールがきました

(西伊豆・土肥桜、by T.M)

こんなメールがきました。年寄に質問のメールとはありがたいばかりです。

私は新卒で賃貸のリフォーム会社に就職し、約2年働き、昨年4月に早期退職しました。

現在は病院で清掃のアルバイトをしながら、労働基準監督官を目指しております。

監督官の仕事について深く知りたいと思い、情報収集していたところ、

おばら様のブログにたどり着き、拝見致しました。

それでさらに、こんな質問も来ました。

昨日ご連絡させていただいた××です。

ご返信頂き、ありがとうございます。

下記の点について、ご教示頂けますでしょうか。

①        監督官は労働者を働く人を守る立場にありますが、労使双方の観点から、法に基づいて「中立」な対応が求められている事を強く感じました。

仕事をする際、この「中立」の意識はどうすれば保てるものでしょうか。

②        正義感や責任感、情熱を持ち、冷静に対応できる方が監督官には向いており、

実際に監督官として働いている方、適性のある方もそのような人物だというイメージがあるのですが、小原様のご経験上、実際に働いている方の役に立てている方はどのような特徴がありますでしょうか。

③        監督官として働きだす前に、日常から意識しておくとよい事や意外とこのような事も大切だという事があれば教えて頂けますと幸いです。

①が一番お聞きしたい質問です。先日、ある労働局のWeb説明会がありました。

一方への肩入れはいけない。「労働者を守る」という意識が監督官になる前は強かったが、きちんと使用者の意見も聞き、中立の立場から対応しないとならない部分が監督官としての良い部分であり大変な事の一つだと伺いました。

  双方の意見を中立的な観点から考え、出来る限り公平に対応する事が大切なことは    分かったのですが、歯がゆい思いをする事が何度もあるのではないかと感じています。本当は労働者の方を優先したい…など。

中立の立場を保ち続けるには、普段からどういう心持ちでいる事が大切でしょうか。

私は、「先入観を持たずどんな事でもまずは経験してみる、そのあとで結果が分かる。」ということを普段から大切にはしているのですが…

それでこんな返事を書きました。

分かる範囲で質問に答えます。

①監督官は労働者を働く人を守る立場にありますが、労使双方の観点から、法に基づいて「中立」な対応が求められている事を強く感じました。仕事をする際、この「中立」の意識はどうすれば保てるものでしょうか。

「中立」という言い方も、ちょっと語弊を招くような気がします。監督官の仕事というのは、要するに

「労働基準法、労働安全衛生法に違反している事業場に法規を守らせる」

ということです。そのために、調査権限、司法警察権限が与えられています。それ以上でも、それ以下でもありません。

労働基準法等は労働者の保護法規ですから、監督官の仕事をしていたら「結果として、労働者の立場に立っていたケースが多い」というだけです。

逆に、法に規定されていないことは一切できません。そのことで、「労働者の期待を裏切る」ケースも多々あります。

仕事のモチベーションと、仕事の立ち位置は区別しなければなりません。

②正義感や責任感、情熱を持ち、冷静に対応できる方が監督官には向いており、・・・

どんな者が監督官に向いているかなんては、答えられません。

組織の中で「こいつは優秀な奴だ」と思われていても、労働者や事業主から「保身だけの奴」と馬鹿にされていることもありますし、その逆もあります。

私自身は、「仕事を好きになる奴」「仕事に誇りを持てる者」が仕事に向いている者だと思いますが、じゃあどんな者がそういう奴だと尋ねられと少し困ります。

結論から言うと、「なってみなきゃ分かりません」ということです。

私自身は、「人のためになっている」「色々な職場が見れて楽しい」ということで、けっこう仕事は好きでした。

③監督官として働きだす前に、日常から意識しておくとよい事や意外とこのような事も大切だという事があれば教えて頂けますと幸いです。

あなたは今、監督官試験に受かることだけ目指して下さい。すなわち、受験勉強だけ意識して下さい

「私は新卒で賃貸のリフォーム会社に就職し、約2年働き、昨年4月に早期退職しました。現在は病院で清掃のアルバイトをしながら、労働基準監督官を目指しております。」

あなたのこの経歴で、監督官の資質は十分あると思います。

あなたがA監督官(法文系監督官)を目指しているのか、B監督官(技術系監督官)を目指しているのかは分かりませんが、A監督官は「技術的なこと」に、B監督官は「法律的なこと」に勉強不足を必ず感じます。

でも、そんなもの3年もたてばなんとかなります。

本で得られる知識なんて、しゃせんそんなものです。

本当の勉強は、体験から得られます。そして今、あなたはその体験をしています。

ぜひ、あなたのような経歴の方が監督官になって欲しいと思います。

こんな返事でよければ、いくらでも書きますので、何か質問ある方は私にメールを下さい。

お待ちしています。

休みます

(ブダベスト、ユダヤ人街の古いアパート)

御来訪頂きありがとうございます。

仕事の都合により今月は更新を休みます。

再開は3月からです。

お休みです

(渋沢栄一生誕地の玄関深谷駅、by T.M)

疲れました・・・

今日はブログを書きません。当ブログにお出で下さった方には、まことに申し訳なく思い、謝罪します。

コロナ禍が一息ついたと思ったら、いきなり仕事が増えました。先週は、企業の安全診断書を2件仕上げました。普通は1件ひと月の猶予が与えられていますが、私は1週間以内に完成させます。でも、仕事を終えれば終えるほど、次の仕事が入ってきます。給料は歩合制でないので、いくら忙しくても変わりません。

63歳の身にとっては、好きな仕事で忙しいのはありがたいのですが、きつすぎます。来週は火曜日に3時間の法定講習の講師をした後に、水曜日に新潟まで日帰り出張です。その準備のため、今週の土日曜日はつぶれました。

来年あたり、常勤雇用から非常勤雇用になろうかと真剣に考えています。

お知らせ

私の兄、小原 巧(オバラ タクミ)が金曜日(6月25日)に、腎盂癌のため死去しました。享年66歳です。弟からみても早過ぎる別れだと思います。

生前、兄とご親交賜わった方々にご報告するとともに、故人に代わりまして生前のご厚誼に対し御礼申し上げます。

当ブログは今週及び来週を休載とします。再開は7月11日からです。

アジャイル開発について(2)

(松田町の桜、by T.M)

今回は前回の続きです。前回までの粗筋は前回(↓)を読んで下さい。

2つの労働局の「アジャイル開発」に関する見解がまったく違っているので困惑していた私ですが、「アジャイル開発における短時間派遣を否定したB労働局」が説明する時に使用した「一連の作業」という言葉の意味に気づきました。

(注) 「アジャイル開発」チームが同じ場所で一緒に働いてフラットなコミュニケーションを行うことについて、正式な呼び名は知りませんが、この記事の中では「ミーティング」と呼びます。

要するに、ミーティングの中で、「指揮命令」が完結するのなら、「ミーティングの時間のみの派遣労働」という概念は成立するが、ミーティング後もそこで話題になったソフトウェアの開発に従事するなら、「一連の作業」が継続されることなり、「時間単位の派遣」でなくなってしまうということです。なるほど、これはB労働局の見解が正しそうです。

そんなことを考えていたら、I氏から、「内閣府の成長戦略ワーキング・グループ」の議事録情報が送付されてきました。同議事録の18ページからが、アジャイル開発に関する記録ですので、興味があることはどうぞ一読下さい。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20210225/gijiroku0225.pdf

(注)この議事録を読んで分かったことですが、「時間単位の派遣」でなく「完全派遣」とすることができないのは、やはり「知的所有権」の問題があるようです。

さて、この「偽装請負問題」ついて「時間単位の派遣」という案が、B労働局の説明により難しくなったので、I氏にどのような意見を述べようか考えていたのですが、そもそもなぜ「偽装請負」に厚生労働省がいけないのかというのか、原点に戻って考えることにしました。

労働基準法第六条に「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」とあります。「偽装請負」とは、本来直接雇用の労働者が受取るべき賃金を、間に入った事業場が「ピンハネ」(中間搾取)するからいけないのです。因みに、この条文の「法律に基づいて許される場合」とは「派遣法に基づく派遣」を指します。

中間搾取が一般化されると、多重請負の構図となり、最終的に労働者が低賃金ということになります。「福島県における除染作業で、東電が1日17000円の日当を支払っていたのに、多重請負が原因でピンハネされ、労働者には実際日当7000円しか支払われていなかった」という事件が数年前にも起こっています。

「アジャイル開発」を現在、推し進めようとしている方々は決して下請け労働者を搾取しようとは思っていないでしょう。また、「フラットなコミュニケーション」が使用従属関係になることは決してないと考えていないでしょう。

でも例えば、仮定として「アジャイル開発」については「偽装請負」については問題がないという結論が各行政機関からでたとしたら、必ずそれを悪用して「中間搾取」を企む輩がでてきます。厚生労働省はそれを恐れているのでしょう。

話は少しそれますが、「高度プロフェッショナル制度」という労働制度が2019年から実施されています。「働き方改革」の時に話題になりましたが、「高度な専門知識を有し、年間に1075万円以上の年収を得る労働者について、労働基準法に定める労働時間規制の対象から除外する仕組み」です。この制度は導入される時に色々な問題点が指摘されましたが、現在に至るまで、何か事件は発生していないようです(と私は理解しています)。どうやら「年収1075万円」という歯止めが事件発生を防いでいるようです。

世の中には、この「年収の壁」を「400万円に引き下げろ」と主張する経営者もいると聞きます。そういう経営者こそが「制度を悪用する者」と思えます。

さてアジャイル開発についてですが、「高プロ制度における年収1075万円の歯止め」のように、何か「歯止め」を設けることができないでしょうか。

労働行政に携わってきた者として言わせてもらえば、労働者に対し

  • 低賃金でないこと
  • 長時間労働でないこと
  • 雇用の継続性が確保されること

が保証されていれば、例え外形が「偽装請負」であっても問題はない訳です。

(注)あと他に、「④ 危険作業がないこと」「⑤ 社会保険が確保されていること」が必要ですが、⑤については会社員なら当たり前のことですし、④についてはソフトウェア開発では、労災認定事案の原因が「長時間労働」「高ストレス」「人間関係」等ですので、通常の労災事故はあまりないと思いますので、ここでは省略します。

日本における「アジャイル開発」を促進させるためには、如何にこの形態がソフトウェア開発にとって有益かを訴えるだけでなく、旗振り役の企業側が前述の「歯止め」を厚生労働省に提示できる方が、同省が作成予定の「Q&A」を待っているより早いと思います(「Q&A」がいつになるか分かりませんし)。これが、今回の問題に関する私の結論です。