残業拒否

(タンポポと八ヶ岳連峰、by T.M)

11/17 読売テレビ

関西空港などで航空機の誘導などを行う会社の労働組合が、長時間労働が改善されないとして12月から時間外労働をしないと会社に通告したことがわかりました。

 大阪府泉佐野市に本社を置く『スイスポートジャパン』は関西空港など6つの空港で航空機の誘導や荷物の積み降ろしなどの業務を行っています。

 『スイスポートジャパン』によりますと、約1400人の社員の9割が加入する労働組合から12月から一切、時間外労働を行わないと通告されたということです。航空需要が回復している一方で、人材確保が追いついておらず、長時間労働が改善されないことが理由だということです。

 斉藤鉄夫国交相「国際便の運航にも影響が懸念される事態であると、そのように国土交通省としても認識しております」

 『スイスポートジャパン』は、「組合と協議を続けている。改善して対応したい」とコメントしています。

この記事なんですが、もう少し分かり易く報道してくれないでしょうか。意味が分かりません。

労働の分野では、「日立製作所武蔵工場事件」という有名な最高裁判例があります。これは、残業命令を拒否した労働者を懲戒解雇したことが認められるか否かが争われました。結果は解雇は有効と判断されました。この時に、最高裁が残業命令を労働者側が拒否できない要件として示したのが次の3点です。

  • 適正な理由のある残業であること。
  • 就業規則に残業に関する記載があること
  • 時間外労働協定(36協定)が、過半数労働組合もしくは過半数労働者代表と締結されていること。

さて、この最高裁判例を踏まえ、上記の記事についてですが、2つの解釈ができます。

第一の解釈

今まで残業をしていたということ、及び従業員数1000人以上ということを考慮すると、就業規則には残業に係る記載があると思われる。そして、いわゆる「エッセンシャルワーカー」なので、当然に正当な残業命令である。

「就業規則への記載」「適正な残業命令」以外に「36協定」が存在したならば、残業拒否した労働者はすべて「処分対象」ということになってしまう。だから、今回の事件は「36協定の有効期間が11月で終了する」ので「更新の36協定」を過半数組合は締結しないことにしたという解釈。

第二の解釈

そもそも今までが「36協定以上の違法残業」をしていた。だから、今後は残業拒否をすることとしたという解釈。

「第一の解釈」のとおりであるなら、これは正当な組合活動ということになります。

「第二の貸釈」のとおりであるなら、違法残業を取り締まる労働基準監督署の出番という

ことになります。

せっかくのテレビ放映なのですから、「法違反の有無」くらいは確認して報道してもらいたいものです。

大阪市のボランティア

(現在の御殿場線である旧東海道本線を走ったデゴニ・山北駅にて、by T.M)

お久しぶりです。

3週間ぶりのブログ更新です。今回はこの話題を取り上げます。

11/8  ABCニュース

 府と市は10月19日からそれぞれの職員らを対象に、優勝パレード当日に約7時間にわたり、現地で来場者案内や交通規制などを担当するボランティアを募集していました。

 目標人数は府と市あわせて3000人で、11月7日の締め切りまでに約2400人以上が集まったといいます。 

 大阪市の横山市長は「必要な人数に達した」と説明しました。

 ただ、大阪府関係職員労働組合によりますと、募集は通常業務と同じく、各部局の上司から部下へとメールで周知されており、「断りづらい」と戸惑う職員の声もあったということです。

 一方、パレードのもう一つの会場となる兵庫県は、神戸市とあわせて1500人の職員を集めるのが目標で、当日は大阪とは違い「公務」として休日出勤扱いとし、代休の取得を促していくといいます。

 大阪府の職員の間からは「兵庫県のように公務扱いにしてほしい」、「なぜ大阪府だけボランティアなのか」との不満の声も上がっています。

 横山市長は取材に対し「いろんなご意見があるのは承知していますが、前向きな気持ちでボランティアに参加していただきたい」と話しています。

 パレードをめぐっては、大阪府などで作る実行委員会が実施費用約5億円をまかなうため、クラウドファンディングを呼び掛けています。

これ、まずいですよ。民間企業でこれをやりはじめたら、たいへんなことになりますよ。というか、民間企業がこれをやったら、労働基準監督署が摘発しますよ。

私の知っている会社で、このようなことをやっている会社がありました。30年以上前の昭和の会社の話です。そこは建設会社だったのですが、週に1回、職員が朝早く来て、会社の回りの道路や近くの公園を清掃していました。会社は、職員が自発的に行うボランティア活動ということで、その清掃活動に関する賃金を支払っていませんでした。その会社の職員から、この活動はサービス残業ではないかとの申し出があって調査したのですが、けっこう悩みました。結論は、やはり労働時間としては認められないという結論になりました。次のような事実があったからです。

1 会社の業務とボランティア活動は無関係である。

2 会社の親睦会が主体となってボランティア活動をしていた。親睦会の会長は、若手職員が務めていて、親睦会内部の連絡はすべて「会長名」で行われていた。

3 清掃活動には、社長が参加することもあるが、社長の訓示等は清掃活動中に行われていない。

4 出欠の記録はつけていない。

5 補助金は会社からでていた。その補助金の一部は、ボランティア活動中に災害が発生した場合の保険代に使用されていたが、それ以外の予算の使い方は、会社から口出すことはなく、会長が管理していた。

まあ、会社終了後の親睦会の飲み会やクラブ活動と同等のものだと考えざるえませんでした。

(もちろん、会社終了後の飲み会であっても、その出席が会社上司によって強制されれば、それは「労働時間」として認められます。)

今回の大阪のケースであると、優勝パレードの来場者案内や交通規制などは、「労働」にあたる可能性が高いと思います。それは次の点からです。

1 「来場者案内」や「交通規制」は、大阪府や大阪市の業務と直接に関わりがあるのではないか?

2 「各部局の上司から部下へとメールで周知されている」のであれば、それは組織内の指揮命令によるものではないか?

民間企業のお手本にならなければならない行政機関が、労働基準法違反の疑いがある行為はやめて欲しいと思います。

あと、それからもう一つ。職員がボランティア活動中に事故にあったらどうするつもりでしょうか。まさか、ボランティア活動で公務災害の認定はできません。前述の会社の場合は、ボランティア活動について保険に加入していましたが、大阪市はそのような対策はされているのでしょうか? 

大きな事故が起きて、事故発生後に仕方なく公務災害認定をしたら、「ボランティアは実は公務だった」ということになり、「賃金不払いだった」ということになります。そんなことになったら、目を当てられないと思うのですが、横山市長はそんな危惧はしないのでしょうか。

万博!

(牡鹿・山梨市の万力公園、by T.M)

朝日新聞 10/12

自民党の会合で、大阪・関西万博のパビリオン建設を時間外労働の上限規制の対象外とする「超法規的な取り扱い」を求める意見が出たことについて、同党の足立敏之参院議員が12日、自身の発言だと認めた。朝日新聞の取材に「工事が間に合うかどうか微妙な状況にあり、なんとか間に合わせるための一つの例として『超法規的』な措置も必要だと思った」と述べた。

 「超法規的措置を」との発言は、非公開で開かれた10日の自民党大阪・関西万博推進本部で出た。出席者らによると、2025年開催の万博のパビリオン建設が遅れている問題が取り上げられた際、足立氏が24年4月から建設業界にも適用される時間外労働の上限規制に言及。「人繰りが非常に厳しくなる。超法規的な取り扱いとかできないのか。災害だと思えばいい」「工期も短縮できる可能性がある」などと述べた。

 足立氏は自身の発言について、「とにかく万博の開会式に間に合わせないといけない。あらゆる手立てを考えないといけない時期にある」と説明した。

まだこんなこと言ってるんですか。前にも書いたけど、順序が違うんじゃないのかと思います。もし、本当に超法規的な措置をとりたいなら、まずは説得しなければならないのは、各労働組合や労働者です。自民党の各幹部が主要労働組合等をまわって、頭を下げてお願いしましょう。当事者の了解を得た上で、記事のような発言をしましょうよ。ただ、お願いするだけではだめです。こんな提案をして下さい。

「超法規的措置を取っている期間は、最低賃金は時給3000円とする。残業代の割増賃金率は、法定ではひと月60時間未満は25%、それ以上で60%だが、これを50%、120%とする。休日労働は35%だがこれを70%、深夜労働手当は25%のところを50%とする」

「東京オリンピックの時は、残業代の対象とならない現場代理人が過労死したが、残業代のつかない管理職には、ひと月に100万円の特別手当を支給する。」

「ボーナスについては、前年度より25%アップで支給する」

「建設業では『中抜き』が横行している。東日本大震災の除染作業時には、元請けで2~3万円の賃金が支給されていたが、実際に末端労働者に支払われたの最低賃金ギリギリだったこともある。末端労働者への賃金額については、元請けが確認し、時給3000円以内であった場合は、元請けが補償する。」

「超法規的措置をとっているあらゆる建設会社は国交省大臣、大阪府知事宛てに誓約書を書く。それには、『労働基準法違反が発生した場合は、建設業の許可を自主返納します』と記載する」

まあ、ここまでやれば政治家の誠意を感じて承諾する労働者も現れるかもしれません。後もうひとつ忘れぬように。

「以上のような超法規的措置をとるには、莫大な追加予算が必要となる。それを透明性をもって国民に公表する。そのことで選挙に負けてもかまわない」

国民を動かすのは、政治家の覚悟です。

2024問題

(旧高松分校・神奈川県山北町、by T.M)

9/28 日テレニュース

物流業界の規制が強化されるいわゆる「2024年問題」が指摘される中、岸田総理大臣は来週、関係閣僚会議を開き、物流業界への支援策をとりまとめる考えを示しました。

2024年4月1日からトラックドライバーの長時間労働が規制され、物流が滞るおそれが指摘されています。この、いわゆる「2024年問題」に対処するため、岸田総理は28日朝、都内のトラック輸送などを行う企業を視察しました。

岸田総理

「物流革新緊急パッケージを取りまとめたいと思います。来月に向けてまとめる経済対策にこの内容を盛り込んでまいりたい」

岸田総理は具体策として「作業の自動化・機械化」「自動運転の推進」「再配達率の半減に向けた支援」などを挙げました。その上で来週、関係閣僚会議を開き支援パッケージ策をまとめる考えを示しました。

来月とりまとめる予定の経済対策に盛り込むことにしています。

今年話題によくでる、2024年の記事ですが、併せて、次のようなデータを紹介します。

(1)運送業での、過重労働を原因とした脳心臓疾患の労災支給決定数は、121件で業種別では第1位であり、全認定件数の約1/4を占める。また、申請件数に対する労災決定率も約80%で非常に高い。

(令和4年版過労死等防止対策白書より抜粋)

(注1:ここで述べる労災決定率とは、決定数を申請件数で除したものであるが、労災決定については「年度跨ぎ」のケースもあるので、おおまかな数値です)

脳心臓疾患の障害とは、元気に仕事をしていた人が、急に胸を押さえて倒れてしまうといった肉体を毀損する病気のことです。要するに、トラックドライバーの激務は非常にきつく、2024年問題の業界の都合がどうだか分かりませんが、健康確保のために労働時間の短縮が早急に求められるということです。もっとも、このデータは「まだ長時間労働の規制が緩い運送業」と「既に規制されている他業種」を比較するもので、ある意味当たり前といえば当たり前です。

ただ、次のようなデータもあります。

(2)運送業での、過重労働を原因とした精神障害による労災支給決定数は168件であり、医療・福祉業465件、その他の業種325件と比較すると多くはなく、全認定件数の8%である。

(令和4年版過労死等防止対策白書より抜粋)

精神障害による労災認定とは、高ストレスによりうつ病等を発症し、長期休業や自殺等を引き起こします。相対的なものですが、この高ストレスということについては、まだ運送業界はまともだということが言えます。

肉体的には非常にきついが、ストレスはあまり高くない(相対的にですよ!)という職業であるなら、やはり報酬を上げ、無理な仕事をしなくて良い状況をつくれば、けっこう良い労働環境になり、人材も集まってくるのではないでしょうか。つまるところ2024年問題の解決は賃上げだと思います。

鉄骨組立中の事故

(中央本線の旧立場川橋梁、by T.M)

9/22 FNNプライムオンライン

JR東京駅近くの建設現場で5人が死傷した鉄骨落下事故で、警視庁は、22日朝から現場検証を開始した。

9月19日、東京・中央区八重洲のビルの建設現場で、作業員5人が鉄骨ごと落下し、2人が死亡した。

警視庁は22日、現場に立ち入る安全が確保できたとして、業務上過失致死の疑いで現場検証を開始した。

これまでの調べで、鉄骨は柱に「仮止め」をしたあと、クレーンのワイヤーから外す際に落下したとみられるということだが、警視庁は、仮止めの状況などをくわしく調べる方針。

この事故により亡くなられた方々のご冥福と、ケガをされた方の早期回復を祈ります。

この記事によると、警察が現場検証をしているということですが、多分労働基準監督署との合同捜査となっていると思います。とは言っても、組織の大きさは象とアリさんくらいの違いがありますから、現場検証の警察が20人来たとしても、監督署はせいぜい2人です。私も何回か警察と一緒に実況見分をさせてもらいましたが、警察の現場リーダーの後ろについて、警察の現場把握の状況に、なんとか付いていこうと頑張っていた覚えがあります。

警察は業務上過失致死を捜査します。そして労働基準監督署は労働安全衛生法違反について捜査します。労働基準監督署は「特別司法警察」であり、警察署は「一般司法警察」です。ですから、労働基準監督署は「労働安全衛生法と労働基準法」しか捜査できないのに対し、警察はすべての法律について捜査できます。でも、警察は専門性の高い労働安全衛生法についてはスルーして、監督署にまかせてくれます。

今回の鉄骨の落下事件についても、監督署の方が専門性の高い捜査をします。例えば、

  1 作業指揮を行う鉄骨組立作業主任者(国家資格)は誰で、何をしていたのか? 

  2 クレーンのワイヤーを外す玉掛作業主任者(国家資格)は、どのような仕事をしたのか等(もしかしたら、この両名とも被災者の中にいたのかもしれません)

 鉄骨に安全帯(要求性墜落制止用器具)を取付けていたことを問題としている新聞記事もありますが、それは多分問題ありません。鉄骨を組立てる前に、鉄骨自体に安全帯の取付け設備を設置しておくことは常識であり、被災者たちはその用意された安全帯取付け設備を使用していたと思われるからです。

 多分、今後の捜査で大きな問題となるのは、「合番(相番)」との連携がどうなっていたかでしょう。合番というのは、建設業界特有の言葉で間接的に関係のある職種の人間が施工時に立ち会うことです。

 私も、過去に鉄骨組立中の死亡労働災害を3件ほど捜査したことがあります。その時の「合番」は鉄骨メーカーの人でした。鉄骨メーカーでは、自分のところで製造した鉄骨を出荷前に自社の工場で組み立ててみます。そして、どういう組立方が一番合理的で安全であるかを確認した上で、現場でそれを組立てる建設会社の鳶さん等に技術指導をしていました。

 このような立場の「合番」が、今回の災害現場にいたはずです。鉄骨が一本だけでなく複数落下したということは、この合番と現場の施工者の間でなんらかの食い違いがおきていた可能性が高いと思われます。

早期に災害の原因が特定され、再発防止対策が徹底されることを祈ります。