教師は聖職

(芦ノ湖と箱根観光船、by T.M)

前回教師のことを書いたんだけど、もう一回書こうと思う。私はつくづく教師の仕事って、「聖職」だと思います。なぜなら、生徒の安全のためには命をかけなければならないからです。

私のカミさんは、宮城県石巻市の出身ですが、育った地域は石巻市内からクルマで2時間くらいかかる雄勝地区という所です。石巻市内からは、クルマで北上川沿いを走っていくのですが、途中に新北上川大橋があります。そこは、東日本大震災の時に、あの大川小学校の事件が起きた場所です。事件のことをWikipediaから引用します。

石巻市立大川小学校は、宮城県石巻市釜谷山根(旧桃生郡河北町)にかつて存在した公立小学校である。(東日本大震災)では、近くを流れる北上川を遡上してきた津波に巻き込まれて、校庭にいた児童78名中74名と、校内にいた教職員11名のうち10名が死亡した。その他、学校に避難してきた地域住民や保護者のほか、スクールバスの運転手も死亡した。この際の学校の対応に過失があったとして、児童遺族による裁判となった。津波によって破壊された校舎の一部は、石巻市によって震災遺構として整備され、一般公開されている。

(略)

地震発生から津波到達まで50分間の時間があったにもかかわらず、最高責任者の校長が不在であったため判断指揮系統が不明確なまま、すぐに避難行動をせず校庭に児童を座らせて点呼を取ったり、避難先についてその場で議論を始めたりするなど、学校側の対応を疑問視する声が相次いだ。

(略)

仙台高等裁判所は2018年4月26日、双方が控訴した控訴審でも、学校側が地震発生前の対策を怠ったのが惨事につながったと指摘し、仙台地裁では認めなかった学校側の防災体制の不備を認定した。市と県に対して、一審判決よりも約1000万円多い総額14億3617万円の支払いを命じた。

一審判決は、

地震発生後の教員らの対応に過失があったとしたが、

県の責任に加えて、控訴審では、市教委まで含めた「組織的過失」を認定した。また、大川小は津波の予想浸水域外に立地していたが、

教師らは独自にハザードマップの信頼性を検討するべきだった

とも指摘した。

(略)

宮城県知事村井嘉浩は、控訴審で認められた「校長らの高度な安全確保義務」などが法解釈として妥当かどうかを争うと述べたが、2019年10月10日付で上告が退けられ、二審判決が確定した。

私は「責任がある」と言われた亡くなった教師たちのために申し上げたいことがあります。彼らには過失があったかもしれないけど、誰一人逃げませんでした。そして多くの教師が生徒ともに亡くなりました。

教師が逃げなかったことについて、「それは当たり前のことだ」と思う方が100%でしょう。でも、そう思う方は「教師は生徒のために犠牲になるのが当然だ」と思っているので、「教師が聖職」であることを認めているのだと思います。

この「教師が聖職であること」の社会的な合意を考慮にいれなければ、昨今の「教師の労働時間」の問題は語れないような気がします。

修学旅行を引率する教師が夜に飲酒し、その時に生徒に事故が発生したとして、飲酒をしていた教師が、「休息時間中に飲酒して何が悪い」と述べたなら、社会はどれだけその教師のことを糾弾するでしょうか。「修学旅行中は、教師は生徒の安全に対し24時間気を配らなければならない」ことが、社会的な合意です。

ならば、「教師の長時間労働」対策とともに、この「見えない労働」についても対策が必要と思えます。結論としては「大幅な賃金アップ」「業務内容の見直し」ということになるのかもしれませんが、その結論への過程の議論もして欲しいものです。

年末までには、カミさんの墓参りに付き合い、石巻市へ行く予定です。新北上川大橋の近くを通りかかったら、亡くなられた生徒の方と殉職された教師の方とスクールバスの運転手の方のために手を合わせようと思います。

ご冥福を祈ります。

損害賠償?

(十国峠からの富士山、by T.M)

神奈川新聞 8/28

川崎市立稲田小(同市多摩区)のプールの水を張る作業の不手際で大量の水が無駄になった事案で、市が男性教諭に賠償請求したことを巡り、市に対応を疑問視する問い合わせが28日までに、100件以上寄せられていることが分かった。賠償請求に対する同情的な意見も多いというが、市は処分を変更せず、賠償手続きを進めているという。

男性教諭の不手際で5日間にわたり水を出し続けて約220万リットル(25メートルプール約6杯分)を流出したことで、損害となる上下水道料金は約190万円に上った。市は、同校の校長と男性教諭に過失があったと判断し、8日付けで2人に損害額の約半分の約95万円を請求した。

この記事を読んだ時に、人から聞いた某県の労働災害の発生状況を思い出しました。その県において、休業4日以上の労働災害を発生させている事業場は、なんと某県教育委員会」でした。それは某県教育委員会が管理する給食センターが原因でした。3年間に休業4日以上の災害を30件以上発生させていました。

因みに、地方公共団体の労働災害は労働基準監督署に通常は報告されませんが、「給食センター」「廃棄物処理場」「公園管理」等の現場業務で発生した労働災害は労働基準監督署に報告する義務があります。また、その某県では、給食設備は各高校に設置されていて、各高校で4~5人の給食担当の現場の人が働いています。その各々の高校の給食設備の現場で働く人の災害が、「某県教育委員会」の災害として労働基準監督署に報告されていました。

某県教育委員会に某労働基準監督官が臨検監督を実施したところ、驚くべき事実が発覚しました。各高校の給食設備の現場では、現場責任者がいなかったのです。4~5人なる現場職員はすべてフラットな関係です。だから、誰かが危険作業をしていても注意する者はいません。そのような現場だから事故は発生していたのです。

でも、誰が出勤管理等をしていたのかと言うと、それはその学校の校長先生です。そして、某県の教育委員会の規定では、給食設備の現場職員の安全管理の責任者は校長先生であり、労災事故の再発防止対策も校長先生が実施することとなっていました。

調査した監督官は何人かの校長先生に合い、質問したところ、給食設備の現場職員の安全指導をしている者はなく、なかには「校長が給食の調理場所に入っていいのでしょうか?」と質問してくる者もいました。

さて、この話は人から聞いた話でもありますし事実かどうか分かりませんが、このような現場において、職員のミスにより多大な損害が発生した時に、その損害賠償は「現場職員」と「校長先生」に行うべきでしょうか?そんなことを考えました。

今年の最低賃金

(三浦市宮川町のヨットハーバー、by T.M)

今年の10月1日から、最低賃金が全国加重平均で1004円となるそうです。昨年が961円ですから、約4%アップの大幅賃上げとなります。一昨年は930円ですから、2年間で約8%上がったことになります。

でもちょっと待って下さい。最低賃金は

  930円、961円、1004円

と上がっていますが、最低賃金改定日(10月1日)の円―ドル相場は

  2021年 112.43円

  2022年 144.81円

であり、もし今年の10月1日の円―ドル相場が昨日(8月25日)の相場である146.85円であると仮定するなら、日本の最低賃金はドルベースで次のように変化するということになるのです。

  2021年 8.27ドル

  2022年 6.64ドル

  2023年 6.85ドル

因みに、超円高であった2021年は、最低賃金は737円で、ドル相場は76.71円であり、その金額は9.51ドルです。これは現在の円―ドル相場に換算すると約1400円となります。

国際的に見ると日本の最低賃金の下落は顕著です。

(注) 米国の最低賃金はNY市等の大都市は20ドル前後の高額ですが、過半数の州では8ドル前後だそうです。(独立行政法人労働政策研究・研修機構のHPより引用)

要するに、輸入品の価格上昇比率は最低賃金の上昇比率より高いということです。

「働き方改革」の目的は生産性の向上にあったはずですが、賃金のことだけ考えると。どうもうまくいっていないように思えます。何か、今後の生活に不安を感じる今日この頃です。

お盆休みです

当ブログにご訪問頂きありがとうございます。

当ブログは8月13日と20日はお盆休みとさせて頂きます。

再開は8月27日です。

またの起こしをお待ちしております。

労働安全衛生法改正

(十国峠ケーブルカー、by T.M)

次の新聞記事は長文ですが、労働安全にとっては非常に重要な問題となりますのでを全文紹介します。

朝日新聞 7/31

■事故で死亡やけが、労基署への報告義務

 フリーランスが増え、事故のリスクが問題視されてきたが、今はそうした事故の実態を把握する仕組みがない。

 そこで安衛法の規定を見直し、労働者と同様にフリーランスらが業務上の事故で死亡するか4日以上休業するけがをした場合、仕事を発注したり現場を管理したりする企業などに労働基準監督署への報告を義務づける。

 違反しても罰則はないが、是正勧告など行政指導の対象になる。一方、一般消費者から仕事を請け負ってけがをした場合などは、フリーランスら本人が労基署に情報提供するよう求める。

 フリーランスが過重労働で脳・心臓疾患や精神障害になった場合に、本人から報告できる仕組みも整備する。

■危険な場所への立ち入り禁止なども義務づけ

 国はこうした報告を集計・分析して公表し、業界団体などに災害防止対策を進めるよう促す。

 また安衛法では企業などに、災害発生時に労働者を作業場から退避させたり、危険な場所を立ち入り禁止にしたりすることを義務付けているが、その保護対象をフリーランスらにも広げる。作業現場に足場や機械を設置した事業者には、労働者の安全を保護する義務があるが、その対象にもフリーランスらを加える。

 フリーランスら自身にも災害防止策を義務づける。一部の機械を使う場合の定期自主点検の実施や、危険な業務を行う場合の講習の修了など、企業や労働者に義務づけているのと同じ内容だ。

 安衛法をめぐっては、アスベスト被害に関する訴訟で最高裁が一昨年、同じ現場で働き危険性も同じなら、「一人親方」と呼ばれる個人事業主も保護対象とすべきだと判断。それを受けて厚労省は今春、アスベストなどを扱う労働者を保護する規定の対象を、個人事業主にも広げた。さらにそれ以外の職種への対応も必要だとして、有識者会議で議論を続けていた。

■有識者会議の報告書案のポイント

【事故の把握】

・個人事業主が事故にあった場合、仕事を発注した企業などに国への報告を義務づける

・個人事業主が過重労働で脳・心臓疾患や精神障害になった場合は、本人が国に報告できる仕組みをつくる

・国は事故の情報を分析して公表し、業界団体などに防止対策を促す

【事故防止の対策】

・一部の作業について、企業に義務づけられた「労災を防止するための措置」の対象を個人事業主にも広げる

・個人事業主にも現場に持ち込む機械の定期自主点検を義務づける

・個人事業主にも危険有害な業務に関する安全衛生教育の修了を義務づける

・プラットフォーマーが危険有害な業務を個人事業主に行わせる場合に配慮すべき内容を明確にする

【健康管理】

・国は個人事業主に年1回の健康診断を促す。

・健康診断の費用は、発注企業が支払う報酬の中に盛り込むよう促す。

・発注企業は、長時間労働をしている個人事業主から求めがあれば、医師による面接指導の機会を作る。

(引用終了)

世の流れとしては、いい方向に向かっていると思います。

でも、課題はたくさんあるでしょう。例えば、フリーランス業務の典型であるウーバーイーツ。ウーバーイーツが配達員の事故報告を労基署にするためには、配達員から、ウーバーイーツへの事故報告が必要でしょう。でも、自分が事故にあった時に、別に会社が労災手続きをする訳でもなく、交通違反がらみの事故であったなら、会社から怒られるかもしれないと思うと、配達員は事故報告をしないんじゃないでしょうか。

 また、ウーバーイーツは配達員に健康診断を促し、その分の費用を報酬に上乗せするということでしょうか? 法の意に反して、上乗せされた報酬は別に使ってしまうのではないでしょうか(まあ、報酬アップならいいやという考えもあります)。

 もちろん、今回の法改正の主旨は、工業系3業種(建設・製造・運送)で働くフリーランスの方たちを念頭においたものであることは理解していますが、フリーランスという一括りではウーバーイーツもその範疇に入ります。

 何よりも、この安全衛生法の主旨を徹底させるためには、「一人親方の労災保険特別加入制度」をすべての業種に適用させるようにしなければならないでしょう。ウーバーイーツの配達員は一昨年から加入できるようになりましたが、すべての職種で加入できる訳ではありません。そうすると、今度は「一人親方の労災保険特別加入制度」に加入していない風潮となりそうです(実際、多くの建設会社はそのようにしています)。そうするとフリーランスの方に新たな負担を押し付けることになるのではないでしょうか?

まあ、色々心配しても仕方ありません。前述のとおり、この法改正はいい方向に向かっていると思いますので、厚生労働省の頑張りに期待したいと思います。