再発防止対策

( 秩父高原のヤギ、by T.M)

読売新聞 9月10日

さいたま市の認可保育施設で2019年11月と昨年12月、園児が夕方に送迎バスに取り残される事故が起きていたことが9日、わかった。いずれも座席で寝ていた園児を同乗の施設職員らが見逃していた。園児に健康被害はなく、施設側がそれぞれの保護者に謝罪した。

市によると、取り残されたのはいずれも同じ認可保育施設の3歳児クラスに通う園児各1人。19年の事例では午後5時30分頃、園児と職員を乗せたバスが市内の降車場所で園児たちを降ろして施設に戻った際、園児が車内にいるのに気づかずに職員がドアを閉めていた。

約20分後に車内からバスの窓をたたいている園児を他の園児の保護者が見つけ、無事だった。乗降時に園児を確認する決まりだったが、守られていなかった。

昨年12月のケースでは、午後4時過ぎにバスが園児と職員を降車場所に降ろして施設に戻った際、車内を点検していた運転手が座席で寝ている園児を見つけた。降車時に職員が園児を確認するルールだったが、怠っていたとみられる。

その後、施設側は市の指導で送迎時のマニュアルを作り直すなどしたという。

静岡県牧之原市の認定こども園で3歳女児が通園バスの車内に取り残されて死亡した事件を受け、さいたま市は送迎バスを使う保育施設などを対象に、送迎時のマニュアルの有無などを確認する調査を行っている。送迎バスの安全対策について、市の担当者は「調査結果をみて今後の対応を検討したい」と話している。

労働安全の分野に「ハインリッヒの法則」という有名な法則があります。「ある災害要因で重大事故1件が発生する時には、同じ災害要因で30件の軽傷災害が発生していて、さらには300件のヒヤリハット災害が発生している」というものです。

ハインリッヒという方は、今から約100年前のUSAの保険屋さんで、保険料の収支を計算していたら、この法則を発見したということです。

静岡県牧之原市の認定こども園での事故が発生する前には、何件もの同様なヒヤリハット災害が発生しているのではないかと予想していましたが、冒頭の記事を読んで、やはりそうだったのかと思いました。

このような災害をなくすためには、労働災害防止の手法を使ってみたらいかがでしょうか。(というか、全ての災害に通じる手法といえますが)

労働災害防止の手法の根底には、「人間のやる事を信じるな」という考え方があります。ようするに、「人は不注意なもの」「人は不安全行動をとるもの」だから、「人の注意に依存する対策(管理的対策)」は最後の手段だとういうことです。

ワイドショー等を見ていると、当該こども園の園長を感情的に非難する声が多いようです。もちろん、これだけ痛ましい事故を起こしたのですから、社会的に糾弾されることは当然だと思います。

しかし、再発防止措置を考える時は、今回の事故の裏では何件もの大事故に結び付く可能性があるヒヤリハット災害が発生しているものとして、「機械を利用した対策(工学的対策)」を考慮する必要があります。

儲けのために、時季外れなのに出航した知床遊覧船の事故とは、そこが違うと思います。

それ労災です!

(相模川沿いのヒマワリ畑、by T.M)

香川照之氏の事件のことを書きます。事件の詳細はワイドショー等で報道されているので割愛します。

ブログネタにしようと、週刊新潮の今週号を読んでみたのですが腑に落ちない点があります。

この事件は労災事件なんです。その視点が抜けています。

コンビニで客が店員に暴力をふるった。鉄道駅で、乗客が駅員に暴力をふるった

これらと、事件の構造は一緒です。

香川氏の事件で、被災労働者はPTSDを発症しているようですが、まだ療養中でしょうか。医療費はどのように負担しているのでしょうか?国民健康保険等を利用しているとならば、それは労災保険に切り替える必要があります。

労災ですから、使用者が100%療養費用を支払わなければなりません。国民健康保険等を利用しているのであれば、その保険制度は事件に関係のない多くの人たちの負担により成り立っているのですから、利用されることは筋が違います。

被災者の方については、一日でも早く労災請求することをお薦めします。労災として認められれば、2年間を遡及して休業補償等が受給可能ですので、被災者の方の利益になると思います。

労災の請求があれば、労働基準監督署では、「事実関係」及び「疾病との因果関係」を調査します。香川氏のセクハラ行為については、本人が認めているので問題ないと思います。後はPTSDとの因果関係を認定すれば良いのです。

また、これは労災の「第三者行為災害」に該当しますので、労災認定後には、労働基準監督署から香川氏に「費用請求」が行われます。

事件の発生した銀座のクラブは、労働基準監督署に労働者死傷病報告書を提出しているのでしょうか。その書類が提出されていなければ「労災隠し」ということになり、重大な法違反として、労働基準監督署が労働安全衛生法違反として書類送検する場合もあります。

週刊誌等の報道する方にお願いしたいと思います。この事件のように明らかな労災事案については、「被災者の救済」及び「使用者の安全配慮義務」について、より追及してもらいたいと思います。

よくやりました

( 北伊豆地震断層の動き・火雷神社、by T.M)

朝日新聞 8月22日

スナック菓子「うまい棒」を製造する茨城県常総市の菓子メーカー「リスカ」で違法な長時間労働があったとして、常総労働基準監督署は22日、法人としての同社と、武藤秀二社長を労働基準法違反の疑いで書類送検し、発表した。

 発表によると、同社は2021年1~11月、同市内にある石下工場の従業員9人に対し、時間外労働に関する労使協定(36協定)で定められた上限を超えて働かせた疑いがある。1カ月あたりの時間外労働が100時間を上回ったり、複数月の平均で80時間を超過したりし、最長で月に約120時間に及ぶ例があったという。

 リスカのホームページによると、同社は1971年創業。うまい棒などの菓子を製造している。

 同社総務部の担当者は「従業員が集まらないことなどが背景になって、数年前から長時間の時間外労働が指摘されていた。書類送検されたことについては、反省すべき点が多い。会社を挙げて再発防止に取り組む」と話した。

偉いぞ、常総労働基準監督署。労働基準法第32条(過重労働)での送検は珍しい。しかも、「11ケ月の期間の9人の労働者の時間外労働」を捜査したことは素晴らしい。

厚生労働省のHPに、過去1年間の労働基準法・労働安全衛生法の送検実績が企業名入りで公表されていますがが、労基法32条違反は珍しく、あっても

  1 36協定(時間外労働協定)が締結されていないのに、残業させた

  2 1ケ月の期間について、1人の労働者に過重労働をさせた

という内容が多いものです。これは、残業時間の特定という捜査が難しく、複数の人間の長期間の過重労働の法違反を特定することは、膨大な業務量を要するからです。

私は、「いくつもの法違反の中から、特に悪質な法違反を抜き出して送検する」といった捜査手法を否定はしません。一見手抜きに思えるかもしれないが、「被疑者を刑事罰に処す」「送検事実を世に知らしめる」ことで、行政の目的は達したと思えるからです。「特定しなかった法違反」については、「情状としての事実」として捜査報告書に記載すれば良いのです。「ひとつの法違反の特定」と「多くの類似の法違反の特定」で、労働基準法違反の量刑がかわることはありません。

そのような行政機関の慣例を無視して、今回は敢えて多くの犯罪事実を特定し送検したことについて、私は捜査担当官の深い怒りを感じます。

ヤフコメを読んでいると、「こんなことで送検されるのか」という疑問の声があがっていました。御安心下さい。労働基準監督署は、1回の法違反の特定で長時間労働の送検はしません。ポイントは新聞記事のこの部分です。

「数年前から長時間の時間外労働が指摘されていた。反省すべき点が多い。会社を挙げて再発防止に取り組む」

要するに、過去何回も法違反を指摘されてきたのでしょう。多分、管内の有名企業ですから、何とか法違反を是正してもらいたいという気持ちも所轄労働基準監督署にあったと思います。そんな気持ちを無視されたので、残念だという気持ちもあったのではないかと想像します。

どうしても、長時間労働が発生してしまうという事業場の経営者に一言申し上げます。労働局に相談に行って下さい。長時間労働をなんとかしたいという気持ちがあれば、多分親切に相談に乗ってくれるはずです。(・・・、アホでおかしい相談員も、たまにいます)

合格連絡がきました

(京浜島つばさ公園からの風景、by T.M)

今年の春に、労働基準監督官試験を受ける予定の方から相談メールを受けました。それはこのブログでも紹介しました。

その相談者から、監督官試験を合格したとの連絡を受けました。そこで次のような返答をしました。

A 様

合格おめでとうございます。

これから採用日までは、「人生にとって黄金の休日」となります。

現在の仕事との関り合い方次第だと思いますが、ゆっくりと楽しむことを勧めます。

因みに私は、その期間に3ケ月間の中国一人旅をしました。当時はまだ珍しかった「地球の歩き方」を手に、「秀インターナショナル(後のHIS)」より入手した格安航空券を利用しました。40年前の中国です。日本より貧しく、みな人民服を着ていました。汽車に乗り、シルクロードの奥の都市・ウルムチまでいった覚えがあります。(現在、ウイグル問題で揺れている地区です)

本当に自分の人生にとって、幸福な時期でした。

A様も、何かにチャレンジすることを勧めます。(もっとも、ハメを外して「内定取消」とならないように、注意して下さい)

X労働局勤務ということですが、X局で一番大きな監督署で令和2年まで署長をしていた「B」さんが、私の同期で、確かY労働基準監督署に再任用でいると聞いた覚えがあります。

もし、機会があったら尋ねてみて下さい。彼なら、私の知り合いだと言えば、歓迎してくれるはずです。

社会経験豊かなAさんにアドバイスすることではないと思いますが、労働局はやはり「組織」です。色々な者がいます。まあ20%が尊敬できる者、20%が「保身」だけの嫌な奴だと思って下さい。その嫌な奴が、意外と幅を利かせていることは、どこの社会でも一緒です。

小原 立太

しかし、こんな初々しい連絡をもらうと、我が身を振り返り、ダグラス・マッカーサーの言葉を思い出します。曰く、

  老兵は死なず、ただ消え去るのみ

固定残業代

( 奥武蔵からの上州の山並み、by T.M)

Abema Times 8/13

「連れの男性より明らかに少なかった。なぜ一言減らすか聞けない?」。定食屋の対応をめぐり、ネット上で議論となっている。

 男性と一緒に行列のできる定食屋を訪れたという女性。ところが、出された定食のご飯の量が男性より少なく盛られていたため、女性はショックを受けたという。

 アンケート調査では、「食事を残すことがある人」は女性に多く、中でも20代の女性の場合、50%以上にのぼっている。

 しかし、ネット上では「女性は食べられないって決めつけ、それこそ昨今やめろって言われてることだよ」「ご飯少なめにしますかの一言も無く勝手に分量減らされるの、別に盛られたご飯じゃ足りない訳では無くてもすごくもやもやする」などの声が上がっている。

 一方、同業の定食屋は「そのお店の方は、お店の方なりの気遣いをされたんじゃないかと思いますけれども。当店では、特にお客様から『少なくして下さい』と言われない限りはどのお客様に対しても、同じ量でお出ししています」と話していた。

ごめんなさい。なんか、笑ってしまう記事でした。女性は差別されたと言っているけど、「女性、男性の差」ではなく、「食べられそうな人と、食べられなさそうな人」を外見で判断して、「食べそうな人にサービスしている」ということかもしれません。それなら問題ないのではないでしょうか。

でも、見方を変えるって大事ですよね。

日経新聞の報道によると、サイバーエージェントという会社が、新入社員に対し、「初任給42万円」を支払うことにしたそうです。非常に高額な給与というニュアンスでしたが、実は「残業時間80時間、深夜労働46時間分の固定残業代を含む」ということでした。

計算してみると、ひと月の所定労働時間を173時間とするなら、「給与42万円の内訳」は、次のようなものになります。

「基本給250850円、25%割増の残業代108750円(60時間までの残業代)、50%割増の残業代43500円(60時間から80時間まで)、深夜労働手当16675円」

初任給の全国平均は21~22万円ですから、サイバーエージェントの「基本給25万円」は、そう高くはありません。そして残業代プラス深夜労働手当17万円に相当する、ひと月80時間の残業時間を新入社員に押し付けることは、無理があるような気がします。

もちろんサイバーエージェント側としては、「長時間労働をさせるつもりはない。念のために残業代を多めに支払っている」と主張するでしょう。でも、実情は知りませんが、ブラック企業の多くが似たような答弁をしていた記憶があります。

労働基準法で規定する「特別な事情がない限り残業時間の上限は45時間」をベースとして、せめて次のような給与を支払ったらどうでしょうか。

「基本給316590円、45時間分の残業代102938円、深夜労働なし(所定労働時間173時間/月)」

「固定残業代」という制度に反感を覚えますが、残業代なしで初任給32万円なら少し納得できます。