派遣労働者と安全管理

(奥武蔵の古民家、by T.M)

先週に続いて、派遣労働者のことを書きます。

安倍前首相を殺害した山上容疑者は、以前派遣労働者としてフォークリフトの運転をしていたそうですが、そこの派遣先で、派遣元の従業員に対し、「オマエラの仕事のやり方は間違っている。オレの仕事のやり片は正しい」と主張し、会社を退職したそうです。

製造業等の工場が派遣労働者を受け入れると、とても安全管理が難しくなります。これは、派遣労働者が悪い訳ではありません。相互の理解不足が問題なんです。

ちょっと話題を変えるのですが、労働基準監督官で偉くなった人が大きな建設会社に再就職するなんていうケースがけっこうあります。でも、そういう人って、「何の役にも立たない」って、再就職先から陰口を叩かれていることがよくあります。

監督官に建設現場の4S(整理・整頓・清潔・清掃)は分かりません。分かるのは法違反の有無だけです。だって、それしかやってこなかったから・・・

ハインリッヒの法則というものがあります。「1:30:300」です。大きな労働災害が1件起きる時は、30件の小さな災害が発生してして、その下には300件のヒヤリハット災害があるという法則です。(因みに、ハインリッヒさんとは、100年前の米国の保険屋さんです。自分のところの、保険の収支率を計算していたら、この法則に行きついたそうです。)結論としては、「大きな災害を防止するためには、事業場内にある無数の不安全状態、不安全行動をなくせば良い」ということになります。

その「無数の不安全状態、不安全行動」を無くす手段が4Sとなるのです。

労働基準監督官が4Sの指導ができないということは、すなわち4Sの基準がないからです。法違反の有無を確認するのは簡単です。しかし、4Sがなされているかどうかの判断は非常に難しいものです。

私が経験した中で、4Sが一番徹底されている事業場は、労働集約型産業でない製造業です。逆に悪いように見える所はどこかと聞かれれば、スーパーマーケット等のバックヤードです。スーパーマーケットのバックヤードは非常に衛生的で清潔ですが、整理・整頓はできていません。例えば、物品を入れていたダンボールの空き箱等について、労働集約型産業でない製造業ではすぐに片づけられますが、スーパーマーケットのバックヤードでは隅の方に重ねておかれて重ねられています。でも、それでいいんです。

4Sとは業種や事業場によって、基準が違うものなのです。万能の業種の4Sに通じている者などどこにもいないのですから、大事なことは、事業場ごとに4Sの基準を定め、それを遵守することなのです。

さて、冒頭の「派遣労働者を受け入れると、とても安全管理が難しくなる」ということについて説明します。製造業の派遣労働で働く人は、経験があればあるほど、自分自身の中に4Sの基準ができています。それが新しい職場に行くと、別の基準を示されるので、ぶつかってしまうのです。

もし、4Sの基準が高い派遣社員が低い事業場に派遣されれば、「何てだらしない事業場だ」と思うでしょうし、低い派遣社員が高い事業場に派遣されれば「細かいことばかり言うな」ということになります。

職場なんて人間関係の要素が強いですから、このようなことからこじれると、最悪の結果になってしまいます。

この件について、まず動くべきは、やはり派遣先の事業場です。違った経験のある職員から色々学ぶべきでしょう。

ただ、問題として、派遣社員の意見が上がる場がないということがありますし、それは構造的な法違反からそのような状況となっている場合もあります。

それは次回書きます。