若者の就職風景

(ウェス・アンダーソンすぎる風景展写真・渋谷ヒカリエ、by T.M)

よくよく考えてみたら、今年は私が労働基準監督官に任官してちょうど40年でした。1984年4月1日に愛知労働局(当時は、「愛知労働基準局」)の名古屋北労働基準監督署に採用されました。

愛知労働局では、採用された事務官・技官・監督官の新人研修の一環として外部講師を招いていました。その年の講師は、バブル前夜の当時の花形産業であるリゾート開発のS会社の総務課長でした。その会社の社長のTは、某私鉄会社の創業者の2代目で、カリスマ経営者と呼ばれ、一時期は世界一の金持ちと言われ、日本国中のスキーリゾートや観光地を開発しまくっていました。

その総務課長は、そのカリスマ経営者の下で盲目的に働く会社組織がいかに素晴らしいかを役所の新人職員に説き、おまけに次ぎのようなエピソードを披露しました。

「(神奈川県の)鎌倉霊園には、創業者の墓苑があって、Sグループの社員が手分けして泊まり込んで、24時間線香を絶やさないようにしているんです。もちろん残業代なんてでません。泊まり込んで、徹夜で線香をあげることによってグループ会社の一員であることを自覚するんです。」

私はそれを聞いていて、「何の宗教団体だ」と思いましたが、驚いたことに一緒に聞いていた新入社員の中には、「とてもいい話だった」と言う者もいました。

因みに、そのカリスマ経営者はバブル崩壊後に証券取引法違反で逮捕され、その時の言動がから、「ただの2代目のバカ社長だった」とマスコミに叩かれました。Sグループは、現在でも残っていますが、バブルの後遺症に今でも悩んでいて、グループの所有するデパート等は、どんどん閉鎖に追い込まれています。

ところで、私たちに講義した、あの総務課長は今どこで何をしているのでしょうか?いい、老後を送れているのかな。社畜であることを肯定し、それを人にすすめ、結局は自分が勤務していた組織がなくなってしまう・・・ 

まあ、もっともこういう人に限って、変わり身は早いと思いますけど。

しかし、私はソフトウェア会社を経て役人になったんですけど、この研修は情けなかった。堂々と自慢げに労働基準法違反を述べる講師を新入社員教育に呼ぶ愛知労働局に腹が立ちました。

4/20 産経新聞

新年度がスタートしてまもなく3週間。本人に代わって退職の意向を企業側に伝える退職代行サービスを行う会社には早くも新入社員からの依頼が相次いでいるという。「入社前と話がちがう」。多くが労働環境への不満だというが、人材獲得競争が激化する中、企業にとって時間やコストをかけて採用した社員の突然の退職は避けたいところ。こうしたミスマッチをどう防げばよいのか。

「退職希望の旨を、本人に代わりお伝えさせていただきます」。丁寧な口調で電話をかける女性。「退職代行モームリ」を展開するアルバトロス(東京都大田区)の担当者だ。退職を希望する女性の依頼を受け、企業側に退職の意思を伝えて交渉。退職届を郵送することや、貸与物の返却の手順などを確認し、あっという間に手続きを終えた。中には、20分ほどで終わるケースもあるという。こうした退職代行サービスの需要は年々増している。同社がサービスを開始した令和3年以降、20代を中心に依頼が舞い込み、これまでに約8千件を受注。今年度に入っても絶えず、4月1~18日の依頼件数は830件に上っている。そのうち新入社員からが約16%を占めている。

いい時代になりました。退職代行サービスについては色々と言いたいことがありますが、新入社員が自らの判断で会社を選ぶということはとても言いことだと思います。(まあ、その後の人生について、後悔がないといいのですが)

昔は良く「就職でなく就社」だと言われました。どの職業を選ぶかより、どの会社に入るかが大事かということでした。でも、どんな企業も数十年後はどうなっているか分かりません。

「組織の中の出世より、キャリアとスキルの方が多くの人間にとって役に立つ」

これは、私が出世できずにヒラ公務員で終わったから言うのではありません。現実の60歳以上の高齢者の就職事情からそう思います。そのことに、今の若者は気付いていると思います。