女性トイレ!

(クイーン・横浜税関)と虹、by T.M)

#厚労省は職場の女性トイレをなくすな

先週の月曜日にツイッターを覗いていたら、こんなハッシュタグで盛り上がっていました。何事だと思ったら、次のような訳でした。

  • 労働安全法事務所衛生基準規則の第十七条は次のように定められている。「事業者は、便所を男性用と女性用に区別し設けなければならない」

違反したものへは「懲役6ケ月以内または50万円以下」の罰則がある。

  • 厚生労働省の「事務所衛生基準のあり方に関する検討会」は、この現行の規則に対し、

「少人数の事務所においては、男性用と女性用に区別しない独立個室型の便房からなる1つの便所をもって足りるとすることも選択肢に加えることが妥当である」という意見を述べた。

  • このような意見が審査会から提案されたのは、「マンションの一室を事務所としている小規模企業は、そもそもトイレがひとつしかなく、男女別のトイレが設置できない」という現実と法律の条文が乖離しているからである。この事務所衛生基準規則が作られたのは昭和40年代である。
  • この検討会の意見について、7月28日に厚生労働省の労働政策審議会・安全衛生分科会では審議が行われた。この審議に抗議するため、ツイッター上では前述のハッシュタグで意見を述べる人が多数いる。

ツイッターを読んでいると、みんな怒り狂っていて怖くなります。でもちょっと、視点がずれているんじゃないかなと思います。「女性差別の観点」だけでこの問題を論じるべきではないと思います。

「男性だって、男女共用のトイレは嫌なんです」

こんな、事例があります。ある保育園です。そこにはパートを含め10名前後の女性保育士と1名の男性保育士がいました。たった一人の男性保育士は、大勢の女性保育士の中で同性の話し相手はいませんが、仕事に遣り甲斐を感じ、同僚ともうまくコミュニケーションを取りながら仕事をしていました。しかし、彼がストレスを感じていたのは、トイレの使用についてです。男女共用のトイレだったのです。彼は仕事中に定期的に、保育園の隣のスーパーマーケットのトイレに通っていました。彼の女性上司は、事情を察して彼がスーパーマーケットに行くことを黙認していました。

さてこの事例では、男女共用トイレについて、男性が不便を押し付けられていますが、その何千倍ものケースで女性が不便を押し付けられています。だから、今回の法規則の改正への意見にも女性で怒る方が多いのでしょうが、これは「多数派」による「少数派」への結果としての横暴を受けているという普遍的な問題であり、特に「女性差別」の問題ではありません。

さて、私は、次の2つの理由により、この改正の方向が正しいと思います。

ひとつには、やはり「出来合いのマンションの一室を事務所としている企業が多い」という現実です。このような企業の経営者で男女社員両方を雇用しる経営者は、「懲役6ケ月以内または50万円以下」の法違反をしている犯罪者としていいのでしょうか。

もうひとつは、この「事務所衛生基準規則の第十七条」を法違反とするかどうかは、現場の監督官の恣意的な判断に委ねられている現実があることです。これは、私の経験があることです。

「男女別のトイレを設けろ」と企業に是正勧告書を交付したことが何回かあります。例えば、「工場が手狭になったので、工場からクルマで5分くらいのところにある倉庫を借りたが、男女共用のトイレであったため、その倉庫で働く女性従業員が、本社にトイレに戻らなかければならない」という企業に対し、倉庫内に女性用トイレを作らせたことがあります。

(注)厳密に言うと、このケースは労働安全衛生法事務所衛生基準規則違反でなく、労働安全衛生法労働安全衛生規則衛生基準違反です。

でも、私は「マンションの一室を事務所」としている企業に対し、このような法違反を指摘したことはありません。「違反」とさえ思ったことはないからです。

監督官仲間でも、「マンションの一室を事務所」の事務所則違反について議論したこともありません。でも、これって怖いことですよね。

現場の役人が法の違反の判断を自分の解釈で行うというのは、とても危険なことです。だから、今回の事務所の改正については、何を法違反とすべきかを明確にして欲しいと思います。

高齢者への安全教育について

(久里浜港の東京湾フェリー・県横須賀市、by T.M)

兄と母を2週間のうちに連続して亡くしてしまいましたが、2人が危篤状態の時によくタクシーに乗りました。私の自宅の横浜市の上大岡から、藤沢市の大きな病院2つに何度も往復しました。タクシー第はだいたい9000円くらいで、深夜には10000円くらいです。タクシー使用にあたっては、スマホアプリの「GO」が随分と役に立ってくれました。

このアプリを使用すると、どんな場所でもタクシーを呼ぶことができますし、クレジットカードの登録がされていますので、降りる時にお金の支払い等を気にすることもありません。母が死んだ日に、真夜中の1時頃に病院の誰もいない駐車場にタクシーがきてくれた時には感動さえ覚えました。

ところが、この「GO」アプリでトラブルが何回か起きました。みな高齢ドライバーの方たちでした。タクシーを降りようとしたら、「支払いがまだだ」と言われて呼び止められたことがあります。「支払いはアプリに登録されたキャッシュカードで行われた」と説明しても運転手さんは「機械には記録されていない」と言い、私を無銭乗車扱いします。急いでいたので、タクシー会社と運転手さんの名前を聞いてパスモ(交通系電子マネー)で支払いましたが、後から調べて見ると、やはり運転手さんの機械の操作ミスであることが判明しました。また、タクシーを降りる時に領収書を請求したところ、「アプリ決済だから領収書はでない」とおかしなことを言われたこともあります。また、アプリで指定した場所から離れたところにクルマを停められたことも何回もありますし、なぜか近くにいないのにアプリに反応し、30分以上の遠方から迎えにきてくれたこともあります。トラブルを起こすのは、みな高齢ドライバーの方たちでした。

また、仕事等タクシーを利用する時の運転手が操作するナビもこれもまた便利です。知らない町にいって、タクシーの運転手に「〇〇町××番地に行って」と依頼し、そこまで乗せていってくれる時に、ナビのありがたさをしみじみと感じます。ところが、せっかくナビがあるのに、地図を取り出し、「アーダ、コーダ」と言う運転手がいます。まるで、道を知らない私が悪いという態度でした。ナビの使い方でトラブルを起こすのは、これもまた、高齢ダイバーです。

さて、厚生労働省は7月21日に「令和2年・労働安全衛生調査(実態調査)」の結果を公表しましたが、それには「年齢別のストレス相談割合」が掲載されていました。それによると、何と若年層ほどストレス相談の割合が高くなっていて、60歳以上の労働者の相談割合は年齢別で最低ですが、これは実態を表わしている統計でしょうか?

また、「高年齢労働者に対する労働災害防止対策に関する事項」が記載されていて、「手すり、滑り止め、照明、標識等の設置、段差の解消等の実施」「作業スピード、作業姿勢、作業方法等の変更」等のいくつかのアンケート項目がありましたが、その中には

「IT活用についていけない人への教育」

の項目はありませんでした。

もちろん、ITリテラシイーが低いということは、「パソコン・スマホを購入できない」という収入格差の問題もあると思いますが、実際に「ナビ」も「GOアプリ」も使いこなせない高齢タクシー運転手出会うと、「本人たちもつらいだろうなと」思ってしまいます。企業は高齢者の活用のためにも、高齢者向けの「IT教育」を実施すべきでしょう。

上大岡駅前でタクシーを待っていると、時々「個人タクシー」が来ます。そのタクシーには「キャッシュオンリー」とか「いつもニコニコ現金払い」とかのシールが貼られています。みな、高齢ドライバーです。そういうクルマが、タクシー待ちの私の順番のところに当たると、私は次の人に順番を譲ります。見ていると、私のような人も多くいるようです。

このようなタクシーを避けるということは、現金払いが面倒なのでパスモが使えるクルマを待つということが一番の理由ですが、乗る前から「タクシー運転手はきっと頑固な人だろうな」と思ってしまうこともあります。きっと、タクシー運転手はそう思う私のことを、「タクシーでパスモが使えると思っている傲慢な奴」と思っていることでしょう。

個人タクシーの運転手は自分の裁量で支払い方法を選択することが可能ですが、勤務するドライバーであったら、今後は私のような客もどんどん増えてきますので、もはや自分たちが機械に慣れるしかありません。過重ストレス防止のためにも、自らが積極的なIT活用をすることが必要となってきていると思います。もちろんこれは、高齢者である私への戒でもあります。

マイナンバーについて

(神戸市迎賓館、by T.M)

兄が6月25日に死去したと思ったら、7月10日に母が死んでしまいました。驚きです。ここ一週間は後始末に終始しているのですが、兄(独身)と母の遺産を私が一人で相続することになりました。手続きについては、よく分からなかったのですが、法務局の「法定相続情報証明制度」を使って、相続に必要な証明書(法定相続一覧図)を作ってもらえばよいことに気付きました。その手続きがとても面倒です。故人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集しなければなりません。なんと、母の戸籍謄本については大正時代に作られた書類の写しを取寄せることが必要なのです。

それにしても、日本の役所って凄いですよね。そういう書類が残っているんですから。でも、管理が大変そうです。とても非効率ですよね。

この非効率さ故にビジネスが成り立つらしく、銀行からは「50万円で手続代行をする」と言われました。因みに弁護士に頼むと相続財産の3%くらい、司法書士への依頼では30万円くらいかかりそうです。

どうして、コンビニで相続手続きができないのでしょうか?

私は別に冗談を言っている訳ではありません。「相続人が複数いて」「相続人どおしの協議」が必要なケースを除いて、私一人が相続人の場合はマイナンバーカードを使用すれば、コンビニで「相続証明書」ができるようなシステムを作ればいいのです。

もし、マイナンバーカードに、現在行政が使用している個人情報を紐づけることが可能であるなら、何兆円もの費用の節約が可能でしょうし、コンビニで相続手続きや婚姻手続きができるようになるでしょう。行政の内部に昭和の終わりから平成の最後まで過ごした者は、アナログからデジタルに替わる時代を過ごしています。例えば、「事業場台帳」と言われた紙台帳から、1年がかりで基準システムに情報を入力して本当に業務効率は良くなりました。

例えば、「2021年度の転倒災害における60代以上高齢者の割合はどのくらいか?」という質問に、今では数分で答えられますが、昔は一日がかりで台帳をめくったものです。

もちろん、「マイナンバーに全ての個人情報を紐づけることで数兆円の行政改革を行う」というマイナンバー推進派の意見に対し、「情報が中央に集中すると、国による統制がきつくなり怖い」「情報漏洩した場合、全ての情報が漏洩してしまう」等の反対意見があるのは当然ですが、私はそれは別の次元の問題であると思います。私はデジタル推進賛成派です。

さて地方労働局では現在困ったことが起きているそうです。例の「今年の5月のアスベスト訴訟の最高裁での判決及びその後の和解」を受け、厚生労働省本省では、地方労働局に対し、局及び労働基準監督署で所有している監督記録・労災認定記録当をPDFにして本省に送付するように命じたそうです。ここで、困惑したのは現場の職員です。本省の意図は分かるものの、各労働局及び監督署には書類をPDFに効率よく変換する機械がないのです。

現在、多くの企業に導入されている「書類の束の裏表を1枚づつ読み取り、書類の束を瞬時にPDFとする機械」が地方労働局や監督署にはなく、旧式な書類1枚ごとにPDFに変換する機械しかないのです。どうやら、本省には最新式のPDF変換機があるようで、この命令を地方労働局にした者は、現場の実情をまったく理解してなかった模様です。

(注)この情報は6月末のもので、現在ではさすがに「是正」されているものです。

デジタル化を進めるにあたり、まずは全国の局・署にPDF変換機の設置からはじめなくてはならないとは、まだまだ道は遠そうです。

再び、ウーバーイーツ

(岩堂山からの眺め・神奈川県三浦市、by T.M)

私が2週間ブログを更新しなかったら、行政に勤務していた頃の友人が心配して電話をくれました。友達というのはありがたいものです。

その時に教えてもらったのですが、「ウーバーイーツ」が「一人親方として労災保険の特別加入」が認められたそうです。さっそく調べてみました。

時事ドットコムニュース、6月18日

労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)は18日の部会で、料理を宅配する「ウーバーイーツ」などの自転車配達員とフリーのITエンジニアについて、労災保険が利用できる特別加入制度の対象とすることを了承した。厚労省による省令改正を経て、9月にも保険料の自己負担で加入できるようになる。

 日本フードデリバリーサービス協会によると、自転車配達員は約9万人。労災保険の対象となるアルバイトではなく個人事業主として働く場合、業務中の交通事故などに対し十分に補償されないことが問題となっていた。9月以降は自ら加入を申し込んで保険料を負担すれば、治療費の支給や休業補償が受けられる。

私としたことが、兄が危篤状態にあったせいかもしれませんが、このニュースを見落としていました。私は、以前にこのブログで、ウーバーイーツで働く人に「労災保険の特別加入」が必要だと書きました。ですから、この記事については、少し思うことがあるのですが、それを書く前に「一人親方の労災制度」について解説します。

労災保険は労働者の仕事中又は通勤途上での万が一の災害に対して、その災害で被ったケガや病気に対して補償するためのものです。

労災保険は従業員を雇用した場合には事業主が必ず加入しなければならない基本的な制度です。本来労災保険というのは労働基準法の災害補償を元に作られた制度であり、保護の対象はあくまで「労働者」に限定されています。とはいっても、フリーランスや会社の経営者等外形的には労働者と変わらず、ある意味労働者とみなして保護するのが適当ではないかと思われる方々がいます。

そこで、労災保険は原則雇われている方を対象としたものですが、例外的に労働者に準じて保護することが適切と思われる業種で働くフリーランス(一人親方)の方でも、労災保険に加入する道を拓きました。それが、労災保険の特別加入制度です。

フリーランスの方が労災保険の特別加入できる業種とは従来は

1 自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の事業(個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)

2 建設の事業(土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊もしくは解体又はその準備の事業)(大工、左官、とび職人など)

3 漁船による水産動植物の採捕の事業(7に該当する事業を除きます。)

4 林業の事業

5 医薬品の配置販売(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)の事業

6 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業

7 船員法第1条に規定する船員が行う事業

8 柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師が行う事業

9 シルバー人材センター加入者等

です。これらの業種に今後「ウーバーイーツ」も加わる訳です。

私は以前このブログで、「ウーバーイーツは無くさなければいけない」と書きました。その理由は、「働く人が事故に会った時の補償が何もない」ことだからでした。しかし、今回のこの「労災保険の特別加入が可能となる」ことにより、働く人が負担覚悟であるならば労災の備えができることになりました。今回のこの決定を素直に喜びたいと思います。

ただ、疑問に思うこともまだあります。ひとつには、「厚生労働省は、ウーバーイーツで働く人の労働者性を否定した」と認められてしまうことです。ウーバーイーツで働く人が「特別加入のフリーランス」でなく、「労働者」として労災申請した場合に、「ウーバーイーツで働く者は労働者でなく個人事業主だ。なぜなら厚生労働省がそれを決定したからだ」という結論になってしまいそうな気がするからです。

確かに、ウーバーイーツで働く人の労働者性は「働く時間が自由だから」という理由で否定されそうです。しかし、マッチングアプリを使った労働提供って、「短時間の労働契約の締結」っていうことも言えませんか(ちょっと強引な理屈でしょうか)?これって、もう少し議論が必要だった気もしますが・・・

次に思うことは、「ウーバーイーツは労災保険の特別加入をしない人には仕事をまわさなくなる」ようになるんじゃないかということです。既に特別加入が認められている建設業によくあることなんですが、元請けは労災保険の特別加入をしていない者以外の契約をしません。それは元請けにしてみれば当たり前のことで、自分の現場で事故が起きた時に、その補償を自分でできる者でないと面倒なことになるからです。もしウーバーイーツで、労災保険の特別加入が働くことの条件になったら、労災保険料を自分で払わなければならない働く人は実質的な報酬の引き下げとなります。

また、特別加入をするにあたっては、働く人はどこかの事務組合に加入しなけれならないのですが、その事務組合を会社側の関係団体で一括するとなったら目も当てられません。

なんか、ウーバーイーツで働く人の労働条件については一歩前進であるけど、今後何か問題が発生するような悪い予感がします。

アスベストについて

(関ケ原古戦場跡を通る貨物列車・岐阜県関ヶ原町、by T.M)

今日は、石綿(アスベスト)のことについて書きます。

NHK(2021年5月17日 )全国各地の建設現場で、アスベストを吸い込み肺の病気になったとして、元作業員と遺族が訴えた集団訴訟で、最高裁判所は、国と建材メーカーの賠償責任を認める判決を言い渡しました。

この判決の後に、菅総理が原告団に会い謝罪していることが報道されました。原告の一人が(言いたいこともたくさんあるでしょうけれど)、総理の謝罪を受け入れている姿が印象的でした。アスベスト被害者の方々及びその家族・関係者の方が、一日も早く癒されることを祈ります。

今から37年前の昭和59年に労働基準監督官に任官したものとしては「石綿規制」は思い出深いものです。なぜかと言うと自分の在職中にどんどん規制が厳しくなってきたからです。今から思い返すと、規制を「小出しに強める」のでなく、「一気に製造禁止・使用禁止」とすべきでした。政府が決断できず、後手後手に回って、最後は裁判で負けるというパターンは何か既視感があります。

それでは少し石綿の紹介をします。

これが石綿鉱石です。カナダ・南アフリカ等で算出されます。鉱石の回りに綿状のものがありますが、これが石綿繊維です。

この繊維から作った石綿布は燃えない布で、古来から神聖なものとされ、その製法は職人間の個人伝承のみで、秘伝とされました。古代エジプトで王家のミイラを包んだものはこの布であり、ヨーロッパでは火の精霊サラマンダーの皮として珍重されました。日本の文献として最初に出てくるものは、平安時代初期に完成されたという「竹取物語」です。かぐや姫が求婚に来る5人の王子の1人に、「見つけてきたら結婚する」と言って要求した「火鼠の皮衣」が石綿布であると言われています。

(江戸博物館・平賀源内展より引用)

これは日本に現存する最古の石綿布です。19世紀に江戸の発明家平賀源内が、蘭書の記述を基に秩父で産出された石綿鉱石で作ったものです。

日本では、戦後にその使用量が増大しました。日本の高度経済を支えた造船業の現場では、石綿布は溶接時の火除けとして各労働者に支給されていて、労働者はその石綿布を毛布代わりにして包まって寝ていたこともあったそうです。また、建設現場では建設資材として使用され、自動車ではブレーキパッド等に使用されました。耐火性と耐摩耗性に優れた石綿は、当時の日本人にとって、歴史のロマンを感じさせるだけでなく、本当に夢の資材だと思わせるものでした。

ところが1970年代に入ると、アメリカの裁判所が次々と石綿の有害性を認める判決を行うようになりました。石綿は中皮腫との因果関係が明白で、その潜伏機関は30年から50年とのことです。因みに、「中皮腫の80%は石綿に由来するもの」だそうです。その医学的知見については私は分かりませんが、労働局の健康課に所属していた時にじん肺審査医の先生にそのように説明を受けたことがあります。

国がアスベストの全面禁止に乗り出したのはようやく2006年からのことで、その対応の遅さが石綿被害が拡大したとされ、最高裁は今回次のように述べました。

アスベストのことを1972年には石綿と健康被害の関連が明らかになっていた。1975年には防じんマスク着用を指導監督したり、呼吸用保護具を使うよう義務付けたりすべきだったが、規制権限を行使しなかったのは著しく不合理で違法である。責任を問える期間を1975年10月~2004年9月とする。

この石綿規制が後手後手に回ったことに厚労省は懲りたらしく、2012年に胆管ガンの原因となると判明した1,2―ジクロロプロパン(当時、無規制)については、翌年の2013年には特定化学物質として規制し、さらに類似の9物質を2014年には特別有機溶剤とする、素早く先手先手となる対応をしています。

現在多くの化学物質について、事業場により「化学物質のリスクアセスメント」を実施することが義務づけられていますが、ここまでくる間に厚労省は石綿で苦い経験をした訳です。