労働時間の考え方


(ニューヨーク証券取引所、ワシントン像)

東京新聞 1月19日
厚生労働省が昨年、過労死などの労災認定をする際の労働時間の算定について、一定条件下の仮眠を除外したり、持ち帰り残業で極めて厳しい基準をとるよう全国の労働基準監督署に通達していたことが分かった。労働時間のとらえ方を労災被災者らの救済を目的とする労災保険法でなく、法令を守らせる労働基準法に基づいていることを問題視する声も強い。労働時間が実態より過小に算定され、労災の「不認定」の増加につながる恐れがある。
(略)
 通達は厚労省労働基準局補償課が昨年3月30日付で送った「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」。機密扱いだが、家族を過労死で亡くした遺族ら関係者の情報公開請求で明るみに出た。労働時間の調査の留意点のほか、教育訓練や出張、警備員らの仮眠時間、持ち帰り残業などへの対応指針を示している。


へぇーと思いました。労働局の機密事項扱いの通達が表に出たようです。探ってみると次の文書でした。
 
 労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集の活用について
  基補発 0330 第1号、令和3年3月 30 日
これがwebサイト上で閲覧できます。さすがに、リンクをはることはためらわれます。


他に関連通達として、
  労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について
  労 災 発 0 2 2 2 第 1 号、令 和 3 年 2 月 2 2 日
がありますが、これは厚生労働省により公開されています。


https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T210309K0040.pdf

この2つの通達を読んで、元労働基準監督官としての私は思うんですが、「東京新聞」の「労働時間のとらえ方を労災被災者らの救済を目的とする労災保険法でなく、法令を守らせる労働基準法に基づいていることを問題視する声も強い」ということは大体は真実です。
(注)「大体は真実」という微妙な言い回しは、記事の中には間違っている箇所もあるということです。それは「労災保険法と労働基準法で労働時間のとらえ方が違う」という部分です。「労働時間の概念」は労災保険法になく、労働基準法の考え方がすべてです。


具体的に、今何が問題となっているかを説明すると、次のようになります。


労働基準監督署の内部組織は、過重労働等を取り締まる監督組織と、労災認定を行う労災部署がある。サービス残業を過重にさせて、精神を病み労災認定された事案について、「どれだけサービス残業があったのか」という事実認定と、「どれだけ残業代の不払いがあるのか」という2つの問題が発生する。この2つの問題について、今までの監督署は、
  労災部署は「100時間のサービス残業」をしていたから労災認定
  監督部署は「30時間の残第不払い」があったからその分を遡及是正
というようなケースになることが多かった。「労災部署」と「監督部署」が労働時間の考え方が違うので、外部から見るとおかしく思える


この「労災部署」と「監督部署」の労働時間の考え方は、必ず「労災部署」の方が「監督部署」より「労働時間の認定」が多くなります。逆は絶対にありえません。厚生労働省は前述の通達によって、次のようなことをしようとしています。
「労働基準監督署内で、監督部署と労災部署の『労働時間のとらえ方』を、労働時間を短く算定する監督部署の考え方に統一しろ」


なんでこうなっちゃたのかということと、私のこの問題にたいする意見を次回書きます。