これは労災隠しではありません

(真岡鐡道の正月、by T.M)

朝日新聞デジタル 12月31日

高知県内建設業大手の轟(とどろき)組(高知市)が、工事現場で作業員が大けがを負う事故を起こしながら、労働基準監督署への報告を怠る「労災隠し」をしていたことが分かった。同社の幹部社員らが事故を隠蔽(いんぺい)していたという。吉村文次社長は「法令順守の重要性を説いてきたが、自分の会社で労災隠しを起こした責任は重い」として県建設業協会の会長を24日付で引責辞任した。

 吉村社長によると、事故があったのは今月4日。香南市野市町の南国安芸道路改良工事の現場で、クレーンでつるした木製の型枠5枚(計100キロ)が落ち、男性作業員(51)に当たった。クレーンを操縦する作業員が119番通報したが、轟組の幹部社員が救急車の手配を取りやめ、病院へ搬送した。男性は下請け会社の社員で脊髄(せきずい)損傷と右足骨折の大けがを負った。

 労働安全衛生法は事業者に対して労働災害の発生を報告するよう義務付けているが、幹部社員が事故を隠すよう現場責任者に指示したとみられる。轟組は今月14日に安芸労基署から指摘されるまで事故を把握していなかったという。

 吉村社長は30日、朝日新聞の取材に「労災隠しは犯罪行為。重大なコンプライアンス違反であり、経営者としての管理責任を感じている。再発防止に向けて法令順守の徹底に努める」と話した。

この記事を読んでちょっと意外な気がしました。この記事が述べている事実関係(特に日付!)が正しいものであるなら、労働基準監督署は「労災隠し」とは取扱わずに不問とするはずです。

労災が発生した時に事業場が取るべき対応として、常識的には次の3点が考えられます。

  • 災害直後に警察機関等に連絡し、捜査を受けやすいように現場を保存する
  • 労災手続きをする
  • 労働安全衛生規則第97条により規定されている「事業者は、労働者が労働災害で休業4日以上したときは、遅滞なく、労働者死傷病報告による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない」という手続きを行う

以上の3点なんですが、これ①と②は、別に事業者の義務ではないのです。災害直後に監督署に報告する必要はありません。事業者は被災者の救護に専念し、2次災害を防止すれば良いのです。被災者のために、救急車を呼ぶ必要があるかどうかは現場の判断にまかされています。

②の労災手続きについても、事業者が絶対に行わなくてはならないということはありません。労働基準法には事業主が、労災事故に対し「治療費」や「休業補償」を支払うことを義務づけられています。そのために、労災保険は国家が行う強制保険となっています。でも、加入が義務なだけで、使用については義務ではありません。休業を伴わない軽い事故等について、「労災保険を使用すると、来年の保険料が上がってしまうから、医療費の実費を会社で支払ってしまおう」という事業主の判断はありなのです。

(注)この場合、他の社会保険は使えません。あくまで事業主の「実費」支払いです。

俗に「労災隠し」と言われるのは、事業者が③の義務を怠った時を言います。ここで問題となるのは、「遅滞なく、労働者死傷病報告による報告書を所轄労働基準監督署長に提出」という文言のなかの「遅滞なく」とはどの程度かということです。

「遅滞なく」という言葉は労働安全衛生法に何度も出てくる言葉で、条文ごとに解釈が違います。私が現役の時には「概ね、災害発生からひと月以上経過しても死傷病報告書の提出がない場合は、刑事事件として事業者を書類送検しろ」という基準でやっていました。

東京労働局某監督署では、この期間を「1~2週間」として  web上に発表しています。私が現役時代とは基準が違ったのでしょうか。

まあ、「ひと月以上」でも「1~2週間」でもいいのですが、新聞記事にあるように「12月4日に発生した災害」について、「労働基準監督署が12月14日に会社に指摘した」のであるなら、労働基準規則第97条での送検は不可能である気がします。

よっぽど事故が大きくて、「労災隠しの法違反が確定する前に、現場検証をしたかった」ということかと思います。

「脊髄損傷」という事故だそうですが、被災者の方が後遺症等なく回復されれば良いのですが・・・、被災者の方の早期回復を祈ります。