赤木さんと水道料金

(小田原の皆春荘、by T.M)

森友学園の裁判のことを考えてたら、まったく関係のない、以下の事件の措置が参考になるのではないかと思いました。

読売新聞 12月4日

業務上のミスなどで生じた損害について、自治体が職員個人に賠償を請求する例が増えている。住民による行政監視が強まっていることが背景にあるとみられ、民間企業よりも厳しい対応が求められているようだ。

(略)

 兵庫県では昨年11月、県庁の貯水槽の排水弁を約1か月閉め忘れたことで水道代約600万円が余分にかかったとして、県が50歳代の男性職員を訓告処分にし、半額の約300万円の弁済を請求。職場でカンパを募ることも検討されたが、職員は「迷惑をかけられない」と辞退し、昨年12月に全額を支払った。

(略)

私は、こういう措置が好きでありません。職員が行ったヒューマンエラーについて、その職員が弁済することはあってはならないと思います。なぜなら、上記の事件は「損害賠償事件」ですが、これが「死亡労災事件」でしたらどうなっていたでしょうか?

同じバルブの閉め忘れであっても、水道栓なら「損害」が発生するだけですが、これがもし「化学工場でのバルブの閉め忘れ」であったなら、「爆発及び死亡災害」に発展することもあります。そのため、化学工場では幾重ものチェック体制及び安全装置を用いてバルブの閉め忘れを防いでいます。

上記の兵庫県のケースですが、兵庫県は「化学工場が行っているようなバルブの管理」を行っていたのでしょうか。「バルブの閉め忘れ」の責任を個人の労働者に問うということは、「組織的なバルブの開閉の管理」を行っていなかったことを認めていることです。

こんなことを認めてしまったら、「死亡労働災害」が発生した時に、「個人のヒューマンエラー」を理由に、労災の責任を一労働者に押し付ける企業もでてきます。実際、そういう企業はありました。

(注) 事故責任が100%個人のある労災事故を私は知りません。例え、トラック運転手が酔っ払い運転で事故を起こしたとしても、「管理責任」は企業にあると思います。もっとも、上記の兵庫県の事例も、「管理責任」は認めていて、「実際の損害額の半額」を労働者に請求しているようでした。

この兵庫県の事件のことを考えていたら、森友事件で自殺した財務省の元職員の赤木俊夫さんのことが頭に浮かびました。財務省は

「赤木さんが強く反発した財務省理財局からの決裁文書の改ざん指示への対応を含め、森友学園案件に係る情報公開請求への対応などのさまざまな業務に忙殺され、精神面と肉体面に過剰な負荷が継続したことにより、精神疾患を発症し自殺した」

ことを認め、赤木さんのご遺族に約1億円の損害賠償金を支払うそうです。これで裁判は終了です。

でも、兵庫県の「バルブ閉め忘れ事件」を参考とするなら、「赤木さんの事件」はまだ終わっていないことになります。

「赤木さんのご遺族に支払う1億円」については、税金から支払うのではなく、「赤木さんを死に追いやった」財務省職員が「個人的に弁済」するべきです。ですから、国は赤木さんのご遺族の方に1億円を支払った後に、その費用を「職員個人」に対し求償をすべきです。そして、誰にいくら求償したのか、及び、その理由を明らかにすべきです。

通常なら私は、「労働者」側に立ちますが、「上に忖度し、公務員としての倫理を失くし、部下に不法行為を押し付けた」財務省の職員は、それが事実なら「100%の責任を労災事故」に対し持つと思うから、同情に値しません。そしてそれが事実でなく、「忖度」でなく「命令」であったなら、そのことを明らかにするべきでしょう。(そうすれば、「損害賠償」に応じる必要はありません)

赤木俊夫さんのご冥福をあらためて祈ります。

派遣の最低賃金(2)

(栃木市の蔵、by T.M)

先週の続きです。

「派遣労働者の賃金」について、「同一労働同一賃金」の原則の元に、派遣先労働者の賃金水準に合わせようという制度は、本当に素晴らしいものだと思います。なんでも、派遣社員に退職金を支払うべきことまで決めているとも聞きます。でも、その実際の運用については、少し首を傾げたくなります。本当にこれで実効性はあるのでしょうか?

私が、第一に思ったことは、同じ地方労働局の中で、「需給調整事業部」と「労働基準部」は、まったく連携がとれていないということです。

もっとも、私がこんなことを言うと、「おまえが言うな。実情をよく分かっているだろう」と怒られそうです。そうです、需給調整事業部(あるいは、「需給調整事業課」)は、そもそも「職業安定所」(ハローワーク)の縄張りであって、「労働基準監督署」の職員には敷居が高いのです。

ですから、定期的に人事をいじくってみて、基準部サイドから「需給調整事業部」に異動をさせるのですが、そんなことで「縦割り行政」がなくなるはずはありません。

でもこれって、本当に非効率ですよね。労働者に対する「賃金不払い」の専門家は労働基準監督署の監督官のはず。その知識と経験を生かさない手はありません。

元監督官の私から言わせると、需給調整事業課のことはよく分からないのですが、現場において賃金不払いの指導をするのでなく、許認可権を背景に、事業場が提出してきた書類をみてのみ指導しているんではないかと思います。

前回のブログに書きましたが、派遣会社は次の賃金のどちらかの額を選定して労働者に支払わなくてはならないそうです。

①  派遣先の労働者との均等・均衡方式をとる

   労使協定を交わし、厚生労働省職業安定局長が示した、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」以上の賃金を支払う

そして、結局①を選択する派遣会社はなく、②の方式をとるのが多数ということでした。それは、派遣会社は「賃金の高い大企業」に労働者を派遣をしていることも多いので、派遣先の賃金に合わせる訳にはいかないという理由です。

因みに、私が計算してみると、この「厚生労働省職業安定局長が示した、『同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準』以上の賃金」とは、東京都の事務職労働者では「時給1240円」でした。

私が、一番違和感を覚えるのは、この「労使協定」という言葉です。

派遣会社で締結される「労使協定」の協定当事者を選任することは物理的にとても難しいことです。だって、派遣スタッフはそれぞれに違う職場で働いている訳ですから、どうやって自分たちの代表を選ぶことができるのでしょうか。

Webで調べると派遣会社は、民主的にその代表を選ぶ努力をしているようです。でも、結局は、派遣スタッフではなく派遣会社のマネージャークラスが選任されている実情があるようです。というより、派遣スタッフにしてみれば、顔がまったく分からない同僚より、仕事を取り持ってくれるマネージャーでいいやという感覚になってくるんでしょうね。

このように取扱いに難しい「労使協定」というものに委ねられている、「同一労働同一賃金」は、本当にその本来の意図することが実現できるのか、心配になります。

派遣許可をとってないような事業主については、強制的に適用となる「派遣元最低賃金」を設定しておき、違反があった時は労働基準監督署の監督官にまかせることが、現実的ではないかと思います。

派遣の最低賃金

(京急油壷マリンパークのコツメカワウソ,by T.M)

なんかブログネタがなくて困る週もあれば、何を選択したら良いのか迷う週もあります。以前から、このブログに取り上げてきた「教師の残業代」について、地裁の段階ですが司法判断が下されたようです。その話題について書こうかと思ったのですが、今回は別の話題です。

最低賃金が話題になることが昨今多くなっています。なんでも隣の国の最低賃金が我が国を抜く可能性もある噂されていますし、某政党は選挙公約に「最低賃金1500円」なんて掲げています。

私も最低賃金には思うところがあります。それは、「派遣労働者の最低賃金を産業別最低賃金」として決定してほしいということです。派遣の方の処遇はとても不安定なのが現実です。私のいる組織でも、このコロナ禍で派遣の方が最初に契約解除となりました。せめて、処遇が不安定な分、派遣労働者に他の業種より高い賃金を支払われるべきだと思っています。

普通に話題となる最低賃金とは、各都道府県別の「地域最低賃金」のことです。20年くらい前までは、業種別に最低賃金が設定されていましたが、年々その数は少なくなっています。でも、まだ一部残っています。

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/dl/minimum-19.pdf

 この「産業別最低賃金」を復活させ、「派遣業」に適用させればいいと思います。

 この意見については、労務の専門家から次のような反論がくると思います。「派遣労働者の最低賃金の適用は、『派遣先』に適用される最低賃金だから、『派遣元』の業種である『派遣業』に対し、割増の最低賃金を設定しても意味はない」

 そういう指摘には次のように反論させてもらいます。「そもそも、20年くらい前までは、派遣労働者に対しては、『派遣元』の最低賃金が適用されていた。しかし、派遣先の産業別最賃が高額であるケースが相次いだので、『派遣先』の最低賃金を適用した。しかし、私はその出発点が間違っていたと思う。その時に、派遣先の高額な『産業別最賃』を適用できるようにすることより、派遣元の派遣業に『より高額な産業別最賃』を設定すべきだった」

『派遣元』の業種の最低賃金を適用することは、労働保険の料率の考え方から合理性があると当時は説明を受けた記憶があります。もちろん、これを「派遣元」から「派遣先」の適用の最賃に変更したことは、「派遣労働者に派遣先の高額な産業別最賃」を適用させたいという判断があったことです。でも時を経て、そちらの方がより合理的であるという別の判断だでたのなら、元に戻すことも可能であると思います。

 さて、令和2年から派遣法で、「同一労働同一賃金」の観点から、「最低賃金らしきもの」を事業場に求めていることを最近知りました。私は「労基法」「労働安全衛生法」については、飯のタネにしてますが、「派遣法」については門外漢なので少し調べてみました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

要するに、派遣法は派遣会社に次のことを求めています。

「派遣労働者には派遣先の労働者と同じくらいの賃金を払え。その方法としては、次の2つのうちのどちらかを選べ」

結局①を選択する派遣会社はなく、②の方式をとるのが多数ということでした。

それはでも、当たり前のことです。派遣会社は「賃金の高い大企業」に労働者を派遣をしていることも多いので、派遣先の賃金に合わせる訳にはいかないのです。

「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」とは次のとおりです。

https://www.mhlw.go.jp/content/000817351.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/000817353.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/000817358.pdf

この、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」について、某地方労働局監督課に電話して、こんな質問をしました。

「派遣労働者の同一労働同一賃金について、例えば労使協定で時給1500円としているところ、労働契約を1200円として、それだけしか払わなかった。この場合、刑事罰を伴う労働基準法第24条違反(賃金不払い)が成立しているか」

すると、監督課の職員は「同一労働同一賃金のことは、雇用・均等部に聞いてくれ」と言いました。雇用・均等部に電話すると、「派遣労働者のことは需給調整事業部に聞いてくれ」と言いました。需給調整事業部に電話をすると、「賃金未払の件は監督課に聞いてくれ」と言いました。ここで、私は少し強く主張しました。「たらい回しにしないでくれ。私の質問自体に何かおかしいところがあるのなら教えて欲しい。」そうすると、「調べてから電話する」とのことでした。

電話も待っていると、かかってきたのは監督課某監察官からでした。そしてこんな回答を得ました。

「派遣労働者の同一労働同一賃金について、例えば労使協定で時給1500円としているところ、労働契約を1200円として、それだけしか払わなかった。この場合、刑事罰を伴う労働基準法第24条違反(賃金不払い)となる。ただし、そのようなケースでは需給調整事業課が一番最初に対応する。」

私は、その返答に驚きました。

「このケースで賃金不払いの法違反が発生するということは、実質的に、派遣労働者に対する特別な『最低賃金』が設定されていることになるのではないか。労働者が労働基準監督署に、賃金不払いで申告することが可能な訳だから、3年間の遡及支払いを監督署が命じるケースも想定される。労災補償等の平均賃金が変わってくる可能性もある。こんな大きな問題について、なぜ私の質問をたらい回しされるほど、労働局の職員は関心がないんだ。」

監察官は、私の問いかけにこう答えました。

「まだ、大きな問題はおきていない。問題がおきたら本省と協議する」

私は最後に言いました。

「大きな問題が起きていないということは、この実質的な『派遣労働者の最低賃金制度』の概要が周知されていないからだ。その証拠に、私の質問について最初の段階で即答できるものがいなかったじゃないか。私は、この制度は派遣労働者の処遇改善に役立つ非常に良い精度と思う。需給調整事業部と基準部が合同で研修を行う等が必要があるのではないか」

まあ、こんなふうに言いたいことを言って電話を切ったのですが、しばらくたってから、もう1回監督課に電話をして次のことを尋ねました。

「派遣登録を受けずに違法派遣している企業の派遣労働者が時給1200円だったとする。派遣先の同一業務を行う労働者の時給が1500円だったとする。この場合は、差額300円について、労働基準法24条違反と言えるのか」

すると、監督課の答えは次のとおりでした。

「労使協定等で明記されていない場合、当初の労働契約の時給1200円となり、労基法第24条違反は成立しない」

この答で、私はやっとこの「同一労働同一賃金」の派遣法の主旨を理解しました。やはり「最低賃金」ではありませんでした。そして、需給調整事業課と監督課の、賃金未払問題への棲み分けの様子が分かりました。

そして、この派遣法の「同一労働同一賃金」について、「目指すところは素晴らしい法律」であるが、実務上はかなり問題があるなと思いました。

(続く)

ブラックユニオン(1)

(夕方の相模湖、by T.M)

「企業を恐怖に陥れる「ブラックユニオン」の実態 プロ組合員ばかりか総会屋からの転職組も」

Yahooニュースで、上記の新潮デイリーの有料記事を紹介してました。記事自体は昨年のものですが、再配信されるということは世間的な関心も高いのかなと思いました。このブログは6年目に突入ですが、そういえばこの「ブラックユニオン」のテーマでブログ記事を書いたことがなかったなと思いました。ブラックユニオンの実態について、経験談を書きます。

私の個人的な分類では、労働組合は2種類あると思います。「企業内組合」と「個人でも入れる地域の業種横断的な労働組合」です。これから、私が書くことは後者についてです。「企業内労働組合」は、日本の企業文化及び組織の一部であり、後者とはまったく違うものです。

私が出会った「個人で加入できる労働組合」の人たちは、立派な方もいましたし、卑劣な方もいました。それは人間の作る組織ですからあたり前です。

「人間を守り」「労働者を守り」、こつこつと何年も「労災に苦しむ人たち」のため、行政や企業と戦っている、尊敬すべき組織があります。

かと思うと、完全に企業に対する、解決和解金という名の金銭狙いの、「ゆすり」「たかり」を生業としている組織もありました(というより、個人的な犯罪行為だったりする)。

もう10年くらい前でしょうか、ある男性が労働基準監督署を尋ねてきました。そして、次のようなことを訴えました。

「私は、ある飲食店に勤務しています。そこで私は残業代がもらえないで、うつ病となりました。長時間労働もありました。私はAという労働組合に相談したところ、そこの書記長は、店長と交渉し500万円をもらってくれました。その時に200万円を解決和解金として労働組合がとり、300万円を私がもらいました。1ケ月ほど休んで、職場に戻ったんですが、店長とは気が合いません、一緒にいるだけでイライラします。私は、昨日店長に次のように言いました。『100万円支払ってくれたら、もうこれで終わりにしましょう』。そしたら店長は色よい返事をしません。労働組合に依頼したらもう無理だと言います。それで、監督署にお金を取り立てて欲しくて来ました。」

話の途中で、私はこの男のことを観察しました。元気がとてもよくて、鬱には見えません。けっこう論理的に話すので躁でもなさそうです。どうも「勘違いをしている者」で、本当に自分が金銭を受け取る権利があると思い込んでいるような気がしました。

私は、この男に質問しました。

「病院には行ったのですか」

男は答えました。「組合の委員長に勧められて1回行きました。そこで診断書を書いてくれました。」

私は、さらに質問を続けました。

「あなたは、休業を1ケ月したと言いましたが、診断書には『休業が必要』と記載されていたのですか? また、あなたは休業期間中に気持ちがふさぎ込んで、出歩けないみたいなことがあったのですか?」

男は答えました・

「診断書には、休業のことは書かれていませんでした。私自身は普通に生活できましたが、組合の委員長から、その間休んでいろと言われたので休んでいました。でも、職場復帰すると、どうしても店長とは一緒に仕事がしたくありません。ですから、私はお金をもらって辞めようと思って、金を請求したところ断られたのです。」

私はこの問題を整理してみました。まず、事業場の悪い所は、小さな飲食店によくあることなのですが、「労働契約書」を作成せず、時間管理もいい加減で、残業代未払いの可能性があるということです。

また、労災については、治療費及び休業補償を国の制度である「労災保険制度」を必ずしも使うことはなく、事業主が支払えばよいだけです。

ですから、そのような問題について、労働組合が介入してきて、未払い残業代、労災における費用請求及び解決和解金を請求することは合法です。

しかし、「労働者が事業場の労務管理が悪いせいで、『うつ病』となった。」「そのうつ病のせいで、休業が必要であった」ということは証明されていません。というより、ストレスを原因とした精神疾患による労災を認定するということは、とても難しいもので、労働基準監督署では、その認定申請があった場合、専門の調査官が半年は調査し、医師の判断を何度も仰ぎ、認定か不認定を決定するものです。労働組合なら、そのことを知らないはずはありません。

また、事業場は「労災によって、労働者が休業4日以上した場合は、労働者死傷病報告書を労働基準監督署に提出する必要」があります。この死傷病報告書を提出していなければ、事業場は「労災隠し」をしていることになり、場合によっては監督署から書類送検されます。

(注)監督署は「労災隠し」については、厳しい対応をします。

そこで、私は男性に法律の説明をした後で、「取り敢えず、死傷病報告書の件を事業場に尋ねます」と答えました。すぐにでもお金がもらえると思っていた男は不服そうでした。

男が来た翌日のことでした。私が監督署を留守にしていた時に組合の委員長が監督署にやってきて、「申告を取り下げる」と申立をしました。私はすぐに、労働者に連絡を取ったのですが、前日とは打って変わって「申告を取り下げる」と言うだけでした。

さて、この事件なんですが、監督署としてはこれで終わったのですが、皆様は真相をどうお考えでしょうか?

コロナワクチンの解雇

(浜松市スズキ本社のスズキ歴史館、by T.M)

昨日の夜(8月14日・土)、このブログを書き終えてテレビ東京の「アド街ック天国」を観ていたら、とても驚きの放映があったので、このブログの最初に書き加えることにしました。

番組は横浜市の八景島の特集でしたが、その中で「中華鍋を製造している板金加工の町工場」を紹介していて、そこの作業員は、何の安全装置も使用せず、鍛造プレスで板金加工をしていました。降りてくる刃から10センチ前後のところに作業員の手があり、今にも挟まれそうな気がしてヒヤリとしました。

あんな映像を全国放送で流されることは、所轄監督署の指導不足を指摘されても仕方がないと思いました。過去にどんな臨検監督をしていたのでしょうか。

確かに、「鍛造プレス」は通常のプレスと違って法違反の指摘が難しいのだけど、あの映像をみる限り、とても危険な作業をしています。何らかの法違反はしていると思うのですが、私の勘違いでしょうか?

に、鍛造プレス作業員は「耳栓」を使用していないように思えたけど、そこも指導して欲しいです。「鍛造プレス」は金属に金属を打ち付けているのですから、ものすごい音がします。

さて、本題のブログです。先日、こんな報道がありました。

(産経新聞・8月6日)

米CNNテレビは、新型コロナウイルスのワクチン接種を求めたにも関わらず接種せずに出社していたとして、従業員3人を解雇した。米メディアが5日伝えた。再発防止のため、従業員に対し接種証明書の提示を求める方式を数週間のうちに正式採用するという。

このニュースを聞いた時に、最初は酷いことをするなと思ったのですが、良く考えてみたら今後日本でもこんなことをする企業がでてくるなと思いました。日本では、流石に「解雇」まではできませんが、「休業を命じる」ことはできそうな気がします。

(注)休業を命じる場合は、労働基準法第26条の規定により、平均賃金の6割を補償しなければなりません。

労働基準監督官を悩ます事業場側からの質問に次のようなものがあります。

「企業が年1回行う定期健康診断を受診しない労働者に対し、解雇等の懲罰を与えてよいか」

時々、確かにこのような労働者はいます。監督署に私が在籍した時に出会った女性の相談者は、「自分の体重等をなぜ会社の総務課が把握するんだ」と言って「健康診断の受診」を拒否していました。私が、「それでは、会社の健診ではなく社外の健診を受診して、(必要事項を記入した)健康診断書を産業医に渡してくれ」と説得しても、言うことを聞いてくれませんでした。

このような労働者に対し、企業は「処罰」できるのか。(これは私の個人の意見ですが)処罰は可能であると思います。「従業員の福利厚生」のために企業は健康診断を実施しているのに、それを受けないと労働者が処罰されることはおかしいと思う人もいるかもしれませんが、その理由は「事業者が労働者に健康診断を受診させなければ、それは犯罪行為(労働安全衛生法第66条違反、50万円以下の罰金)となる」からです。

もちろん、「企業は健康診断を行っているけど、特定の労働者だけ健康診断を受診しないだけなので、法違反とはならない」という考えもあるでしょうし、ストレスチェックのように企業が結果が分からない健診もあるのですから、このような労働者いてもかまわないという意見もあるでしょう。しかし、労働者が後日に健康を害し、「それが会社の過重労働のせいである」と訴えた時に、企業が健康診断を実施していないことは大きなマイナスとなります。そのようなことでトラブルとなった事件を私は知っています。

さて、企業にとって社員の健康確保というのは、本当に難しい問題です。特にワクチンの話では、前述の健康診断のように法に規定されていないので、判断基準がなく一層難しい判断を要すると思えます。

「ワクチンって、本当にコロナに打ち勝つの?」

「ワクチンって、本当に体に害がないの?」

という問題に100%の答えがまだ出ていません。(でも、8月15日現在のデータでは、重症化が防げるという結論はでているようです。)こんな時に企業は、自分の信ずることをするしかないでしょう。冒頭のアメリカの企業のように「他の従業員の健康を守るため、労働者個人の意見は無視する」といった決断も必要になるかもしれません。もちろん、それは後日に「裁判に負けたり」「株主総会で追及される」ということを覚悟の上でなされなければなりません。

そういう事業主の方に一言アドバイスします。どんな場合でも、次の社内手続きは守って下さい。

ひとつ目は、「産業医の意見を聴く」ということ

ふたつ目は、「労働安全衛生委員会で労働者側委員の話を聴いて、意見を検討する」ということです。

ワクチンの取扱いについては、現時点では「何がいいか?」「何が悪いか?」分からない訳ですから、後は企業の決断だけですが、上記の手続きは守って下さるようにお願いします。